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異世界転生なんて聞いてない

自分の体が存在することを感じ、目を開けるとそこには街が広がっていた。

「日本・・・ではないのかな」

西洋風の建物が立ち並び、通りを歩く人々の格好は・・・・少し古い?

「おい! 邪魔だ!」

叫ばれた方向を見ると馬が荷台一杯の野菜を積んで接近している。

メイド喫茶で働くチャンスを逃す訳にはいかないと慌てて通りの脇に避ける。

「小僧! 気を付けろよ!」

「はい!」

よしっ、気を取り直して。そう、これからの俺はメイド喫茶生活に就職して素敵な人生を過ごすんだ! たかが馬車に轢かれそうになったくらいで気を落とすことはないんだ!

「さて、まず街を把握しないと」

 歩きながら考える。どうやら言語面での心配はないようだ。明らかに日本ではないけど、何故か日本語が通じている。だって屋台から聞こえる声や看板の文字は読めるし、なによりさっき俺を轢きそうだった馬車のオッサンの声が理解できた。あ、これから一人称を改めてなくちゃね。うん、私はそう思いました!

あれぇ? それでも何か気にかかるなぁ? なんでだろう? 私、気になりますッ!

 オッサンにかけられた言葉を思い出すね! えーと、邪魔だよって言われて・・・そう! その次に小僧って・・・小僧? あ゛?

 いや待て待て、考えすぎだろ? そういえばまだ自分の体を確認していなかったな。・・・服装は黒いズボンに白のシャツ、茶色いジャケット。・・・こういうのジェンダーレスデザインだっけ? 最近の流行りに違いない。いや、”あそこ”を触れば分かるか。震える手をズボンのポケットに突っ込んで、慣れ親しんだ存在を探る。

ーやぁ、こんにちわ!

 「おいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

 通りにいる人々から痛い視線が皮膚を刺す。だけど、そんなことを気にしている場合ではない。そうだ、顔を確認して、俺が女だって証明するんだ。そのために・・・・鏡だ! 鏡を探せ! こんなの俺は、いや私は承知しないよ!?

 坂になっている通りを無我夢中で走る。すると、目の前には噴水がある広場が目の前に現れた。

 水だ。古来、人は水の反射で自らの姿を確認していたっ!! 走れ! 走るんだ!!!!

 息が切れ、汗を感じようと関係ない。

 さぁ、私が女だと確認するんだ!!!



 「イリス、許さねえからなあ゛あ゛あ゛!!!!!??」



 マジで許さねえ。やりやがったな、ゴミ天使! なんで少し若返ってる”俺”になってるんだよおおおお??? 見飽きた社員証と同じ顔じゃねぇか! 何が転性だよ、勝手に異世界転生させやがって・・・。

「転生・・・、転性?」

 あ、発音が同じ。これは俺が悪いのかも・・・って違う。確か、あのゴミ天使は俺の脳内を読んでいたように発言していた。当然、メイド喫茶で働きたいっていう思考は読んでいたハズで。クソッ、やっぱり許せねぇ。次会う時、覚えてろ。

 ふぅ、まぁ転性なんてそう叶うものじゃないしな。それによく考えたら、一度死んだのにも関わらず、またメイド喫茶に通えるってだけで儲け話だ。・・・・勝手に殺されたんだけどな?

「でも、明日からはあの会社に行かなくて済むのか・・・」

机の片付けはしていないし、取り掛かっていた仕事は途中だし・・・。立つ鳥跡を濁さずって言うけど、この場合は濁したままで去ってしまった。あと、退職金、欲しかった。

 さて、これからどうするか。異世界転生してしまったけど、この世界はどういうものなんだ? 魔王的存在に支配されているとか? 一切分からない。広場を見渡すと、一際存在感がある建物がある。看板には”ギルド”の文字。

「そういや、そんな設定もあったなぁ」

ラノベとかゲームにハマっていた高校時代を思い出す。あの頃の俺がこの世界に来たら思いっきり喜んでいたんだろうな・・・・。懐かしい日々を思い出しながら、足をギルドへと向ける。

 中に入ると、多くの人だかりがある。武器を売っている店、なにやら怪しい防具を売っている店。

「兄さん! これ、買わないかい!?」

店を見て回っていたら元気よく声をかけられた。向こうの世界だと、声をかけられても無視をするのが鉄則だったがこの世界の常識は分からない。無視したら殺される可能性も否定できない。

「アマランタンのエキスだよ! これで60分間全力で走り続けることが出来るのさ!」

「・・・・本当なのか?」

60分も全力で走り続けたら体が壊れる気がするのだが。

「もちろん! 気を失っても走ってしまうのはご愛敬だけどね!」

フハハハハハっと笑う巨漢の女店主。おいおい、それ凄く危ないじゃないか。

「やめとくよ。それと、ここに初めて来たんだがどうすれば・・・」

「あぁ、あそこの受付カウンターだね。新入りさんかい?」

「まぁ・・・そうなんです」

「そうかい! それなら早く登録しておいで!」

そう言って背中を押される。

「あ、教えてくれてありがとう。助かったよ。」

とんでもない力で押されたからと止まることはできなかったけど、なんとか首だけを曲げて礼を言う。

「気にしない、気にしない! でも、今度はリリーの薬草屋を利用しな!」

「あ、あぁ」

利用しても良いけど、危険なものはやめておこう・・・。

受付カウンターと呼ばれた場所に向かう。よく見ると、カウンターは三つの窓口に分かれている。一つ目は「報酬受け取り」、二つ目は「依頼受付」、そして三つ目が「職業受付」。多分この三番目の窓口だろうな。

「職業受付にご用ですかー?」

受付嬢のお姉さんが元気よく迎えてくれる。あぁ・・・こんな美女に生まれ変われたら、今頃俺は・・・。いや、今考えている場合ではない。

「はい!」

元気よく、ハキハキと。俺は一度就活に失敗している。そのせいであのブラック企業に・・・。そう、その時の失敗を糧として、今回の職業選択で成功を果たすべきなのだ。思い出せ、何回も面接で失敗したことを・・・・ッ!

「分かりました!」

そう言ってなにやら虫眼鏡らしきものを取り出す受付嬢のお姉さん。そして、その虫眼鏡を取り出し、俺の顔を覗く。

それと同時に、虫眼鏡らしき道具のレンズが光だす。

これは・・・魔法!? 何それ! 結構ファンタジーな世界なの!? ちょっと男心が疼くな!

「あー、射撃士に少し、ほんと少-し、適正が辛うじて見えます!!」

「そうなんですか?」

なんかすごい少しなのが伝わってきました。

「あ、そうですね。射撃士にします?」

「あ、はい。お願いします」

「了解でーす、それではギルドカードを発行するので待っててくださいね」

そう言って大理石らしき石に向かって羽ペンを立てる受付嬢さん。

「俺、ここに来たばかりなんですけど、少し質問良いですか?」

「どうぞー!」

謎の作業に集中しながら気さくに答えてくれる。

「ここの街にメイド喫茶ってありますか?」

これを聞きたい。良い職業を欲しかったのは、所詮メイド喫茶に行く為のお金が目的。メイド喫茶さえあれば良いんだ!!!

「・・・・・何ですか、それ?」

あ、ダメだ。

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