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転性(生)します!!!!

「北地さん・・・これもお願いできますか?」

「あ、はい。分かりました」

 北地成人きたちなるひと、32歳。今日も定時前にしてあらたな仕事を押し付け・・・頂きました。仕事内容は、食品会社からの依頼でホームページのリニューアル。といっても全てを一人でやれと言われている訳ではない。作業の流れを予め決めておくワークフローの作成である。ご丁寧に締切は今日の日付が記されている。ブラインドで半分しか見えない窓の外からは夕焼けがこぼれている。あぁ、今日も残業か・・・。いやいや、仕事があるだけ感謝しなくちゃな。今にも帰宅しそうな俺よりも若い女上司の背中を見ながら、勤労万歳精神で新しいフォルダを作成する。画面の見つめすぎで乾ききった両目を擦り、よしっ、やるぞ。今日は金曜日。土日の足音が聞こえてくる。待ってろ、メイド喫茶「ほ~むさくらっ」!!

 


終わった・・・ようやく、ようやく、終わったぜぇえええ!!! 夜道を歩きながら心の中で魂の雄叫びをする。本当は実際に叫びたいけど、年相応の羞恥心が働いてそうもいかない。

「俺も老けたなぁ」

ボソッと呟く。肩は毎日のデスクワークでゴリゴリにこっている。首も回すとボキッと悲鳴を上げるし、階段を駆け上がると腰が砕け始める。・・・フッ、マイナス思考はもう終わりだ。なにせ、明日は人生の癒し、メイド喫茶。あの男の欲求が全て詰まった服を着た笑顔の女の子が見ることが出来るって想像しただけで脳内に幸せホルモンが分泌されだした。そして・・・明日は一杯になったポイントカードを使う日! メイド喫茶「ほ~むさくらっ」ではポイントカード制を導入している。一杯になったポイントカードは次回来店時におめでとうけーき、に変わるんだ! ダメだ・・・・幸せすぎて塀にぶつかりそうになる。

 コンビニで夕食を買い、一人暮らしをしているアパートへと向かう。

 ・・・メイド喫茶。メイド喫茶で働きたかったな。だって、可愛い服を着て、普段しらふでは絶対に言えないどっきゅんなセリフも使える。時給は高いって聞くし。

「キモ過ぎるだろ・・・・」

 アパートの階段を上りながら考える。そう、俺は冴えない平凡な平均収入以下の32歳独身サラリーマン。そんな奴が考えてる妄想にしては最上級にキモい。笑えちゃうよな。

最後の一段を上り終えると、そこには何もなかった。

「へ?」

あれ、俺は階段を上り終えて二階に来たのでは??

「建物を間違えたか・・・?」

そう思ってもう一度階段を降りようとしても、俺が今立っている地面は平面で降りるも上るも出来ない。

すると、目の前に光としか形容出来ないものが現れ始めた。

「あ」

眩しさのあまり目を閉じていたが聞こた声で目を開く。

目の前には羽を背中に付けた上司・・・じゃない。結構似てるけど、あれは上司じゃないな。ただの羽が付いた女の子だ。

「誰がただの女の子よ」

ただの女の子は口を開いて文句を言う。

「いやだって違うだろ・・・ってなんで聞こえてるんだよ!!」

思わず大声を出してしまった。社会人として情けない。夢の中でも守らなければならない対面っていうものが存在する。

「夢じゃない、そしてういるさい!」

ビシッとどこかの弁護士のように人差し指を俺に向ける女の子。

「でも謝るね、ごめん」

「ちょっと待て」

なにやら言うべきことは言ったとばかりに立ち去る女の子。

どっかに行かないでくれ。これは夢なんだよな? それと名前を聞きたい。俺が脳内で作り上げた謎の少女の設定も知りたいし・・・・単純にお話したいな。メイド喫茶でしか上司を除く女の子と話す機会は無いに等しいからお話の練習をしたいな。理由? メイド喫茶ではコミュニケーションが必要だからに決まってるだろう。キャバクラと違ってメイドさんはずっと俺に構ってくれる訳ではない。だから、ずっと話すため、話を引き伸ばすためのコミュニケーション能力が必要なんだ。つまり絶好の練習機会だ。よし、脳が回り始めた。行くぞ!

「あー面倒くさいオッサンだね!」

「うんうん、ところで君の名前は?」

「虹の女神、イリスよ。あと、北地さんは死んだわ、ごめんさい。私が管理していた次元層の狭間に足を突っ込んだみたいね。ま、残念だと思ってよ。悪いから最後に願いくらい叶えてあげる。ほら、何か言って」

「あー・・・・そうなんだ?」

やっばいぞ、脳が汁を吐き出すだけで何一つ理解してない。え?

「俺、死んだの??」

「もち!」

ようやく理解してくれたとばかりにグッドマークを添えてる。

「え? ポイントカードは?」

ちょっと待って。俺が死んだってことはポイントカードを使えないじゃないか。

「ってかメイド喫茶行けないよ?」

「はぁあああああああああああ!!!!??????」

「うるさいいいい!!! だからごめんって!!!!」

「お前、やって良いことと悪いことがあるだろう!!!???」

無我夢中で不条理を糾弾するためにイリスに詰め寄る。

「ああああああ!!! うるさいうるさいうるさい!!!!」

「うるさいってお前なんてことを・・」

「願いは何よ!!!!!」

「んなこと1つしかないだろ!」

そう、俺の願いは一つしかない。

「元の世界に戻ってポイントカードを使うことだよ!!!!」

おめでとうけーきへの想いは深いからな! このまま死んでしまったら幽霊になってでもポイントカードを消化しに行ってやる。

「だーかーら!!! 元の体に戻るのは無理!!」

「はぁ??? 無理って言ってなかっただろ!!!!」

「あーうるさっ。もう転生させるね、バイバイ」

そう言い残して謎の羽で浮き上がるイリス。

「・・・・転性?」

転性か・・・。そうか、元の世界に転性してメイド喫茶で働けば・・・。新しい、可愛い俺として生きてける!!!!

「そうそう、ほーらこれだから日本人は。死んだらすぐ転生したがるもん」

そうなのか? 意外と男子の夢は同じなのかもな!

「顔は悪いようにしないから」

そ、そうなのか。うん、メイクである程度は何とかなる時代でも、やっぱり地顔は重要だからな。訳分からない理由で死んでしまったけど、意外と好待遇で良かったな。・・・死んだ実感ないけど。

「それじゃ、ばーい」

後ろに背を向けて飛んでいたイリスがこちらを向く。

体を見るとピクセル単位で体が虚空に溶けてる。これが転性なのか・・・。

「イリス、ありがとう!!!」

「・・・・あ、うん」

何故か気まずそうに目を逸らすイリス。ん? 何かあったのかな?

体は完全に溶けて、残ったのは意識だけ。次の瞬間、体が構築され始めるのを感じる。

これから始まるのは俺のメイド物語。これまで日陰だった俺の人生に光が差し込まれるのを感じる。あぁ神よ! ありがとう!!!!


「あーまぁいっか」

体が完全に消えてから、天使は呟く。

「だってイリス、正面向かないとテレパシー使えないもん」

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