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今年は除夜の鐘をつきに行けないです。
しつこいようだがウチは神道(笑)
冒険者にとっての二つ名とは、強さと知名度の証明と言っても良いだろう。
【白銀の剣聖】スノウ。
白銀の髪と瞳を持ち、大剣を手足のように扱う。そして大抵の武器を使いこなし、魔術の心得まである。
Sクラスの中でも上位の強さを持つ冒険者。
【黄昏の聖女】ルビー。
夕焼けのような朱色の髪を持ち、聖女の名に恥じぬ回復魔術は勿論のこと、攻撃魔術にも精通。魔術だけでなく、剣術にも長けている。
Aクラスの上位の冒険者。
そんな2人の娘であるミューズフェルもBクラス。
元々2人の娘と言うことで注目を浴びていたこともあって、早々に二つ名の話題が出るようになっていた。
「ミューズフェル嬢はすぐAクラスに届くんじゃないか?」
「あんなに可愛い顔して華奢に見えるのに、信じられないよなぁ」
「あのミューちゃんがなぁ。ってなると、そろそろ二つ名とか出てくるよな」
「そうよねー。スノウ様もルビー様もあの素敵な髪の色が付く二つ名よねー」
「するとミューズフェル嬢も両親に倣って髪の色を付けるとか?」
ふと、ここで皆が止まった。
擬音で言うと「きゅるん」とか「ちょいん」とか「きょとん」とか「こてん」とかが似合う愛らしく可憐な容姿の少女。
【ピンクの○○】【桃色の○○】……。
不味い。とにかくなんだかとても不味い気がする。
犯罪臭しかしない。
「………あ、ほら、えーと。…ミューちゃんと言えば、あの感情と裏腹な表情よね」
「……あ、あぁ、そうだな。こないだなんかさ。真っ赤になって潤んだ瞳で上目遣いに見てくるから、俺に惚れたかとか思ったら怒ってるだけだって言うんだぜ」
「それはお前がミューズフェル嬢の大好物を横取りするかだろうが」
「新入りとかはちょっかい出して、よく返り討ちにあってるよなぁ」
「ミューちゃん、か弱そうに見えるからね。それにあんなに可愛いんだもん。あの潤んだ瞳で見られると、女でもキュンってしちゃうし」
「玉砕した男は言葉と物理的と合わせて数知れず…か」
「…………二つ名、もう【表情筋詐欺】で良くない?」
なんて噂もあったりしたが、本人の猛反発により【表情筋詐欺】は陽の目をみることはなかったのである。
妥協案として、強さとは裏腹にその姿はFFに見えるという意を込めて【FF】となったのであった。
◆◆◆◆◆
(鈴華に聞いた話には、【FF】とか出てこなかったけど、雅が転生したことで何か私の性格に影響が出ていたのかな?)
ミューズフェルはそんな事を考えながら、ヴェルティエフォルトは話を聞いていた。
「ふむ。そういえば先程、そこの愚息が王族の名にかけてレイフォス嬢の発言を許していたな。どれ、私も私の名にかけてこの場を無礼講としよう」
悪戯を思い付いた子供のようにヴェルティエフォルトがミューズフェルに笑いかけた。
「レイフォス嬢、我慢もそろそろ限界だろう。何をしても私が許そう」
驚いたミューズフェルだが、すぐに再度臣下の礼をとり頭を上げる。そしてシルバーアックスとベルガーナルドを見ると、2人ともヴェルティエフォルトとよく似た表情で強く頷いていた。
それを見たミューズフェルは、誰もが魅了されるようなとろけるような笑顔になった。
クォーツフォルト達だけでなく、会場内が人々がその頬を染めたのであった。
その笑顔に和やかな雰囲気になったであろう、その一瞬、空気を切るような音がしたと思った時には、ミューズフェルを囲っていたクォーツフォルト達は3m程飛ばされていた。
「……な」
「………い、痛い…」
「……っ!?」
とろけるような笑顔のままのミューズフェルは、パンパンとドレスとクォーツフォルト達に触られた箇所を払っていた。
何が起こったかわからないクォーツフォルト達は笑顔のミューズフェルを呆然と見ていたが、武術の心得があるルートロックには、その笑顔が何故かとても怖いものに思えていた。
払い終わったのか、くるりとミューズフェルはクォーツフォルト達の方を向いた。
何故だかビクッと後ずさったクォーツフォルト達。
「ベタベタ触らないで下さい。気持ち悪い」
「……き、気持ち悪い…?」
だが、その表情は恥ずかしがっているようにしか見えなかった。
「それにこの中の誰も愛してなかんかいません!さっきも言いましたよね。ボケているんですか?」
「ボケ………」
か弱げな潤んだ瞳で見つめてくる。
「だから王妃にもなりません!私は卒業したら行方不明の両親を探しに行くんです!前に言いましたけど?記憶力大丈夫ですか?」
「………」
こてんと愛らしく首をかしげる。
「王妃なら凛として、美しくて、優しくて、賢くて、麗しくて、それでいて学業も王妃教育も頑張っている、それは素敵な素敵なアルティスミーナ様がいるじゃありませんか」
「……あ、あなた…」
恋する乙女のような恥じらいながら言うミューズフェルからの思いがけない褒め言葉に、アルティスミーナも思わず頬を染めた。
「………あれ?ちょっと待って。アル様はクツ君にはもったいないかな?私が嫁に貰いたいくらい?」
ミューズフェルは思わずポツリとつぶやいたつもりだったが、人々は固唾を飲んで見守っていた為、しんとした会場に思ったより大きく聞こえた。
「……ク…クツ君?」
「…アル様?………嫁……」
ミューズフェルの言葉をただなぞるだけの2人であったが、その表情は差がある。
複雑そうなクォーツフォルトと違い、アルティスミーナはちょっと恥ずかしで嬉しそうでいてでもそれを見せてはいけないと我慢しようとしている表情であった。…隠しきれていなかったが。
書き始めた当初は「婚約破棄の時にヒロインに転生したらどうなる?」しか決まってなかったので毎回綱渡りです。
後付け設定の辻褄合わせが大変。でも考えるの楽しいです。