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またまた続いた!(笑)
「まさかアルティスミーナ様ともあろう者が……」
「公爵家の力があれば…」
「嫉妬とは恐ろしいものですな」
「でも婚約者に蔑ろにされたら気持ちはわかりますわ」
クォーツフォルトの断罪の言葉に困惑なざわめきが拡がる。おおよそは批判的だが、一部女性からは同情的の意見もあった。
一方、投げかけられたアルティスミーナは眉をひそめる。
「それを私がやったと…?」
「そうだ!貴様と貴様の取り巻きがやったという証拠もある!」
「証拠があるの!?」
「どのような証拠ですか?」
自信満々なクォーツフォルトの声に、驚いたミューズフェルと冷静なアルティスミーナの声が重なった。
今まで一言も発してなかったミューズフェルに会場の視線が集まるが、本人は視線の意味が理解できていないのか、きょとんとした表情だった。潤んだ瞳での愛くるしい仕草は一部の人々にはあざとくも映ったが、会場内を魅了していたのは確かだ。
「…ミューズフェル。証拠も何も君がアルティスミーナがやったと言っていたのではないか?」
ミューズフェルの仕草に赤くなりつつもクォーツフォルトがミューズフェルに不思議そうに優しく語りかける。
再びきょとんとするミューズフェル。
(……え?何?みんな?何で私を見てるの?……え?クツ君、何言ってるの?何で心の中の突っ込みに答えてるの??…………えーっ!?もしかして声に出てたっ!?)
恥ずかしさで真っ赤になりながら口を両手で押さえる。
その姿を見たクォーツフォルトは…いや、クォーツフォルトだけではなく、会場内全ての人々がクォーツフォルトに対して頬を染めたのだと思った。
全くの見当違いだが。
「…そう。あなたが私がやったと殿下に進言なさったのね」
ミューズフェルに向けてた視線が、この時初めてクォーツフォルトと令息達に向けられていた冷淡さが込められた。
「あ、はい!……あ、違っ。いえ、あの……その…。…だ、男爵位で…あ、ある、私に……じゃなかった……私に公爵位で…あるアルさ……アルティスミーナ様に…対する発言…をお許しを頂けるなら……ば…」
(うぉっ!眼で殺される!この視線の中でクツ君はよく平気でいられるわね。。。)
一変して真っ青になり今にも泣き出しそうな表情でしどろもどろに発言するミューズフェル。やはりその表情は庇護欲にかられる。
……ここで暴露するが、ミューズフェルの表情筋は本人の意図に反して、何故か愛らしく可愛らしくなり庇護欲を刺激し魔術とは関係なく人々魅了するのである。可憐な容姿重ねれば相乗効果。とんだ表情筋詐欺であった。仕草も同様。
これもヒロイン補正だろうか。
まぁ、本人は至って必死であるのだが。
「許します」
「そんなことしなくていい!」
今度はアルティスミーナとクォーツフォルトの声が重なる。クォーツフォルトにいたっては何故かまたミューズフェルを抱きしめる。そしてミューズフェルは再び真っ赤である。勿論怒りの。
アルティスミーナの冷淡な視線がクォーツフォルトに移り、ミューズフェルは何とか人心地がつく。
「お、お許しを…頂きありがとうございます」
(行動おかしいでしょ!クツ君!)
とりあえず表面上はクォーツフォルトを無視することにしたようだ。一応、第一王子なんだが。
「クツく……クォーツフォルト様の」
「殿下の名前を呼んでいい未婚の女性は婚約者である私の許した者だけです。あなたに許しを与えた覚えはありません」
ピシャリと。
「も、申し訳ありません。殿下の」
「私が許したのだ。貴様がとやかく言う必要はない!」
(お前はちょっと黙れ!そして離せ!)
まだミューズフェルを抱きしめたままのクォーツフォルトに突っ込む。…第一王子とは。。。
「私は大丈夫です。殿下の仰っていた私がアルティスミーナ様がやったという発言には多少の相違がございます」
クォーツフォルトを安心させるように微笑んでから、アルティスミーナへ向き話し出す。
「相違ですか…」
「はい。私は殿下の仰る通り色々な嫌がらせを受けていました。中には嫌がらせには留まらない悪意あるものもありました」
ここで悲しそうに伏し目がちになる。
無意識で表情筋詐欺になるのだから、意識的にやれば効果は倍増である。会場内の同情を誘うには充分すぎる効果であった。
(すごいわ、ヒロイン。雅は表情筋あんまり働かなかったからなぁ。まぁ、今はゆるゆるすぎてこんなことになったんだろうけど)
とりあえず表情筋に感謝である。
「そして私は恐れ多くもこう思いました。『ひょっとしたら婚約者であるアルティスミーナ様が嫉妬にかられてやっているのではないか?』と。浅はかにもその思いを殿下に伝えてしまった為、このような事態を招いてしまい申し訳なく思っています」
表情筋と仕草が大活躍。
ナチュラルにクォーツフォルトに責任転嫁。…元々はクォーツフォルトの暴走であるが。
会場内はほぼミューズフェルの味方となりつつあった。
裏設定ばっか増えてくのに、ストーリーが定まらないのだ。