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続いた!(笑)
両親は冒険者。
平民では珍しく膨大な魔力があり、父親はSクラス・母親はAクラスの自慢の両親。
ミューズフェルが産まれると母親は冒険者を休業、家族愛の強い父親は「家族と離れられるか!」と拘束期間が最長一週間の指名依頼のみ受注していた。
10歳の頃であった。断りきれない縁の2週間拘束の依頼がきて、父親がしぶしぶと出掛けて行ったのは。
そして1ヶ月経っても帰ることはなかった。
その後、母親が「すぐ帰ってくるから」とミューズフェルを冒険者ギルドに預け、父親を探しに出かけたが……これもまた帰ることはなかったのである。
冒険者ギルドで過ごしたのは2ヶ月。
両親を思うと不安に駆られつつも、周りに可愛がられてそれなりに楽しく過ごしていたミューズフェルを時々家を訪ねて来ていた両親の知人が引き取りにくる。
連れられてきたのはレイフォス男爵家。平民だと思っていた父親は実は男爵家の長男で、訪ねて来ていた知人は男爵家の執事だったのだ。
男爵家は双子の弟が継いでいたが、ミューズフェルを引き取りたい弟と隠し子と疑う家族との諍いで、結局ミューズフェルは、隠居して辺境の領地に住んでいる祖父母の元で暮らすことになった。
元々、両親に憧れて冒険者を目指していたこともあって、貴族貴族している王都の屋敷より、スローライフを満喫してる祖父母の屋敷の方がミューズフェルにはありがたかったのだが。
そんな折、父親の弟である領主から祖父母宛て手紙が届く。
『転入の手続きはこちらで行いましたが、ミューズフェルはいつ頃入寮する予定ですか?』
と。
◆◆◆◆◆
「……というわけで、来月から魔術学園に行くことになったのだ!」
「何がというわけなんですかっ!さっぱりわかりませんっ!そして来月って後半月しかないじゃないですかっ!!」
祖父に呼び出されて来てみればこの一言である。
「いや、儂も息子から手紙が来るまですっかり忘れてたのだが、ミューは11歳だろう?ほら、魔術の才能がある者は11歳になれば学園に通わなくてはならないだろう?」
「…えっと、そういえば裕福層にはそんな都市伝説があると、冒険者ギルドで聞いたことあるような、ないような??」
「……あるのだよ。というわけで、今日から付け焼き刃になるが淑女教育をするっ!」
「またというわけですかっ!!後半月で身に付くわけがないですよっ!」
「……ここは辺境だからのう。移動時間を考えれば後一週間ほどしか時間が………」
「え?」
明後日の方に視線を向ける祖父。
隣でニコニコと紅茶を飲んでいる祖母。
「え、え??」
ティーカップを置いた祖母がパンパンと手を叩けば、侍女がずらり。
「頼みましたよ」
「はいっ!」
「えっ、えっ、えっ!?えーーーっ!?」
◆◆◆◆◆
(あの時は大変だったなぁ。みんな元気かなぁ)
記憶の混濁も治まってきたが現実逃避を続けたいミューズフェルであった。
(そういえば雅の時に読んでいた悪役令嬢物のざまぁって、だいたいヒロインが意識的か無意識で魅了の魔術を使っていたよね!ひょっとしたら私も無意識に魅了の魔術を使ってる!?)
そーっと手を首元にもっていき、ドレスの下に隠すようにしているネックレスの鎖を手繰り寄せる。その鎖には指輪が通してあった。それは学園へ出立する日に「もしもの時に使え」と祖父がくれた魔封じの指輪である。
(お祖父様、もしもの時ってこういうことだったんですね!)
それは違うだろう。
(今、使わせてもらいます!)
指輪を右手の中指にはめれば、すーっと魔力が抑え込まれていくのがわかる。そしてそっとクォーツフォルトと令息達を見てみる。本人は必死であったが、青ざめて上目遣いで涙目の潤んだ瞳を見せるその姿は可憐な容姿も相まって、クォーツフォルト達だけではなく周りの人々の庇護欲も刺激していたのであった。
「大丈夫か、ミューズフェル。全て私に任せておけばいい。安心しろ」
クォーツフォルトはそっと手を取り、そして労るように肩を取り、そしてミューズフェルを抱きしめるのであった。
青ざめていたミューズフェルの顔色が一瞬にして真っ赤になり、その可憐な少女の純情な反応に緊張した雰囲気が少しだけほんわかとした空気になっていた。
(な、な、なんで公衆の面前抱きしめるのーっ!しかも婚約者の前で!おかしいでしょ!!ってか、魅了の魔術でもなかったのかよっ!!)
実は怒りによる真っ赤であった。
「ふふ。ミューズフェルは可愛いな。何処かの誰かと違ってなっ!」
とろけるような瞳でミューズフェルを見つめたクォーツフォルトは、一瞬にして冷淡な瞳に変わりアルティスミーナを睨み付ける。
「殿下。公衆の面前ではしたない行動はお辞めください」
(そのとーりっ!)
アルティスミーナの指摘にミューズフェルは心の中でガッツポーズをして同意する。
「ふ、嫉妬か。」
(何故そうなる!)
「貴様もな、ミューズフェルとまでとはいかなくても、少しでも可愛い気があればな」
(いやいやいや。アル様は充分可愛いわよ!)
対してクォーツフォルトには突っ込みの嵐であった。
「……こほん。話を戻します。婚約破棄ということですが、王家からの一方的な破棄ということでよろしいでしょうか?」
クォーツフォルトよりも絶対零度な冷淡な瞳でのアルティスミーナ発言である。
「王家からの一方的な破棄ではない!貴様の所業に対する処置だ!」
「ですからその所業とはどのようなことでしょうか?」
「貴様が取り巻きにミューズフェルのドレスにワインをこぼさせたり」
(あれは染み抜き面倒くさかったなぁ。しかもかなりの頻度でこぼしてきたし。お陰で染み抜きの魔術を構築できたけど)
「皆に命令して陰口をたたき無視させたり」
(命令してたのかなかぁ?クツ君達が仲良くしてくれるせいで周りが勝手に嫉妬してただけのような気も……。まぁ、貴族の会話は苦手だから助かったけど。でもやっぱり寂しかったかな)
「教科書を破いたり、物を隠したり」
(復元の魔術の構築と探索の魔術の進化させたなぁ)
「ゴロツキに襲わせたり」
(あれは弱かったなぁ。)
「毒物を仕込んだり」
(効果の弱い毒物だったけど、母さんの指導で小さい時から耐性つけといてよかったなぁ。父さんは青い顔していたけど)
「あまつさえも階段から命を狙って階段から突き落としたりしていたのは知っているぞ!」
(あれぐらいの高さで死なないんじゃない?受け身とれるし。ゴロツキとか毒物の方が危ない気が…)
実にいじめがいのない感想のミューズフェルであった。
区切りが悪いような気がするけど、今回はとりあえずここまで。