アイスクリームとつまらない男
世界でいちばん美味しいアイスクリームはどこで食べられる?
ニューヨーク? パリ? 東京?
いいえ、答えは、私の家のキッチンです。
私は別に有名グラシエというわけでも何でもない。まあ、言うなれば、男の機嫌とをって荒稼ぎをしている凝り性な女といったとこだろうか。
男どもに入れあげさせた金で調理器具や食材を買いそろえ、自慢の腕で大概の料理はプロ並みに仕立て上げることが出来る。
できあがった料理は、たまに男どもに配ったりもするが、基本的には友人や、友人ぽい何か、そして友人として側に置いておきたい同性に食べさせる。
早い話が、周りに敵を作りたくないのだ。
正直、自分が他人の感情を食い物にしている自覚はある。実際、ついこの間まで、おかしなストーカーに追い回されていた。
そして、そのストーカーは、どうやら私の気づかないうちに、友人ぽい何かによって撃退されていたようなのだ。
味方は多いに越したことはない。
そして今私は無口でつまらないと評判の幼馴染みの男に、食後のアイスクリームを出している。
白い陶器の皿に盛られているバニラアイスは、最近の私の自信作である。
食材として使われている牛乳や生クリーム、卵などは、私が直接牧場まで足を運んで購入し、バニラビーンズはマダガスカル産の最高級品だ。調理も低温で長時間ゆっくりと加熱をして、素材の風味を損なわないように心がけている。
まあ、実際は誰もそんなことに気づきもしないのだが。
昨日も、女友達を呼んで、何も言わずにこのアイスクリームを出してみたのだが、なんか高そうなアイスだね。とだけ感想を言われ、逆に表参道にある有名アイスクリーム店がとても素晴らしいと御高説を賜った。
多分、私が出したアイスクリームの方が、何倍も手間暇掛けて作られていると思うのだけれど。
結局、口にしないと伝わらない。言わなくても理解してくれるだろうなんて思い上がりだ。それでも気づいてほしい。それでも自分を理解してほしい。それでも……。
私は、目の前で自慢のアイスクリームをほおばる男を見ながら、皿の上からもう1スクープ追加してやった。
左頬に痣を作り、片腕に包帯を巻いた幼馴染みの男は、驚いた顔をして私を見た。
「それでも、口にしないと分からないこともあるんだよ。友人ぽい何か君。」
初投稿です。よろしくお願いします。