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ミサイルを積んだトレーラーが登場

         九


梅津は駐車場から梅沢に電話をした。

「もしもし、梅沢さんですか。」

「ああ、梅沢だ。」

「梅沢さんの指示した通りにカリーナエアーベース第三ゲート向かいの駐車場に車を停めました。」

「そうか。カリーナ弾薬庫からのミサイル運び出しはうまくいったようだ。ミサイルを積んだトレーラーはカリーナ弾薬庫からカリーナエアーベースに入ったという報告があった。今は第三ゲートに向かっている。梅津、すべては順調に進んでいる。暫くすると次の指示を出すよ。その時まで待機していてくれ。それからその駐車場には仲間の車が二台駐車している。木村が運転している車とガウリンが運転している車だ。お前とは初顔だが仲間だから気にする必要はない。大城と電話を代わってくれ。」

梅津は大城に携帯電話を渡した。

「大城だ。」

「梅沢だ。ガウリンを知っているな。ガウリンも今度の仕事に参加している。」

「え、ガウリンが。」

大城はガウリンが駐車場に居ると聞いて驚いた。

「ガウリンというとインドネシア人のあのガウリンか。」

「そうだ。そのガウリンだ。大城。急いでハッサンとシンをガウリンの車に移動させろ。ガウリンには連絡済みだ。」

「分かった。」

大城は車から下りて駐車している車を見回わした。しかし、風雨が強くて駐車場に駐車している車の車窓を激しい雨滴が覆っているので車内の様子が見えなかった。車から離れてガウリンの車を探していると、四台目の車の屋根からガウリンが顔を覗かせた。

「ヘーイ、大城さーん。」

ガウリンは大声で大城の名を呼び、手を振った。

「おお、ガウリン。」

大城は車に戻り、ハッサンの座っている後部座席のウインドーを叩いた。ハッサンがウインドーを下ろした。

「ハッサン。別の車に乗り移るから下りろ。」

大城はハッサンとシンを連れガウリンの車に行き、ハッサンとシンを後部座席に乗せて自分は助手席に乗った。

「ガウリンも来ていたのか。」

「大城さん、久しぶりです。」

「久し振りだな。まさか、こんな所でガウリンに会うとはな。驚いたよ。いつウチナーに来たんだ。」

「二日前ね。大城さんに電話したかったけど、梅沢さんに誰にも連絡するなと言われていたからやらなかった。大城さんは元気でしたか。」

「ああ、元気だったよ。懐かしいなガウリン、二年振りだよ。商売はうまくいっているか。」

大城の質問にガウリンの顔は沈んだ。

「商売は辞めました。」

「え、辞めたのか。」

「はい。」

「それでウチナーには来なくなったのか。」

「はい。ウチナーに来るのは二年前ぶりです。」

「そうか。だから、俺の方に電話をしなくなったのか。」

「はい。」


ガウリンは十年前からインドネシアの民芸品をウチナー島のフリーマーケットで店を出している人間や観光客を相手にしている商店等に卸売りをやっていた。大城は知人に頼まれてガウリンに中古の軽貨物車を売ってやったり、アパートや倉庫を世話してあげたのが縁でガウリンとは親しくなった。ガウリンの商売は十年前はうまくいっていたが、フリーマーケットを開催していた大きな空地には次第にテナントビルが増えていって、フリーマーケットは消滅していった。それに、大手の卸店がガウリンの扱っている民芸品を扱うようになっていったのでガウリンの売上げは次第に減っていき、ガウリンは二年前に民芸品の卸商売を止めてウチナー島に来なくなった。ウチナー島に来る度に大城に連絡してきたガウリンが二年前の夏以降は大城に連絡しなくなっていた。

 

「そうか、ガウリンも厳しかったんだ。」

「そうです厳しかったです。」

「それで梅沢の下で仕事をするようになったのか。」

ガウリンは黙って頷いた。


大城は自衛隊やアメリカ兵から入手した拳銃等を梅沢に売ったり、梅沢に頼まれて盗難車を保管したり、梅沢の欲しい中古車を集めたりして梅沢とは協力関係にあった。

八年前にガウリンを梅沢に紹介したのは大城だった。梅沢は麻薬を民芸品に隠して密輸する商売をガウリンに持ちかけたのだがガウリンは恐がって梅沢の話を断ったいきさつがある。ガウリンが麻薬の運びを断ったので梅沢とガウリンの縁はそれでなくなったと大城は思っていた。しかし、ガウリンは民芸品の商売がうまくいかなくなったので梅沢の下で仕事をするようになったのだろう。梅沢はガウリンの話はしなかったし、ガウリンは大城に連絡しなくなったので、大城の頭の中でガウリンのことは薄れていっていた。


「そうか。しかし、梅沢の仕事を手伝うということは命がけだろう。ガウリンも大変だなあ。」

麻薬の密売は東南アジアの国々では重罪とされ死刑判決が下されることもある。ガウリンはため息をついた。

「仕方がありません。商売で失敗したから借金があります。借金を返さなければならないです。お金を稼がなければならないですから。」

ガウリンは淋しそうな顔をした。

「大城さんもお金に困って梅沢さんの仕事を手伝っているのですか。」

大城は苦笑した。

「いや、そうじゃない。梅沢さんとは腐れ縁でな。昔から仕事を組んでいるんだ。」

「それじゃ、麻薬も扱っているのですか。」

「いや、それはやっていない。個人相手にちまちまと麻薬を売る商売は俺には向いていないからな。それにボスになって手下に麻薬を売らせるような芸当は俺にはできない。ガウリンだから言うが、実は、盗んだ車や拳銃などの武器を集めて梅沢さんに売っている。俺ができる仕事はそんなものだ。」

「そうだったんですか。」

「俺の仕事は警察にばれても刑務所で何年か臭い飯を食えばいいが、ガウリンは違うだろう。警察にばれれば死刑になる場合もあるだろう。」

「はい。」

ガウリンは暗い表情で頷いた。大城は、「そんな危険な仕事からは早く足を洗った方がいいぞ。」と言いたかったが、ガウリンの生活のことを考えれば言えなかった。

「家族は元気か。」

「はい、元気です。もう少しで五人目の子供が生まれます。」

「え、子供が生まれるのか。」

「はい。」

「そうか。」

借金があるなら子供なんか作るなと喉まで出かかったがガウリンの痩せた顔を見るとそんな冗談を言う気になれなかった。

「それはいいことだ。今度の仕事でいくらもらうことになっているんだ。」

「一万ドルです。」

「一万ドルか。俺がもう少しアップしてくれるように梅沢さんに頼んでやるよ。」

「本当ですか。」

「ああ、大丈夫だ。早く借金を返して、新しい商売を始めろよ、ガウリン。」

ガウリンは元気のない、暗い笑いをした。

「ガウリン、そんなみみっちい顔なんかするな。人生は七転び八起きっていうからよ。ガウリンにも明るい明日があるさ。」

大城はガウリンの背中を叩いた。

「人生は覇気次第だからよ。覇気がなけりゃなにもかもうまくいかないものさ。ガウリンも覇気を出さなくては駄目だよ。」

「はい、久しぶりに大城さんの話を聞いて元気が出ました。」

「ウチナー島で商売する時は俺が手伝うからさ。じゃな、頑張れよ、ガウリン。」

「はい。」

大城はガウリンと右手で握手をやり、左手の拳で軽くカウリンの胸を突いた。大城はガウリンの車を下りて自分の車に戻った。


大城と梅津が乗っている車、ガウリンとハッサンとシンが乗っている車、それに木村とミルコとゼノビッチが乗っている車の三台はカリーナエアーベース第三ゲート向かいの駐車場で風雨に叩かれながらじっとしていた。三台の車に乗っている八人のミサイル窃盗グループはボス梅沢の電話連絡を暴風雨が襲い掛かる小さな駐車場で待った。雨と風はますます強くなっていく。

梅津の携帯電話が鳴った。梅津は急いで携帯電話を取った。

「梅津か。」

「はい、梅津です。」

「梅津、第三ゲートにミサイルを積んだトレーラーがもうすぐやって来る。」

梅津はカリーナエアーベースの第三ゲートを見た。第三ゲートの監視所は県道七十四号線から百メートル奥の位置に建っていた。トレーラーの姿はまだ見えなかった。

「そのトレーラーの行き先は大城が知っている。ガウリンの車はトレーラーの直ぐ前を走り、木村の車はトレーラーの直ぐ後ろを走ることになっている。私は木村の車の後方に着く。お前たちは今から出発して斥候役をやるのだ。交通事故や通行止めがあったら直ぐに私に連絡をしてくれ。大型トレーラーは小回りが利かないから通行止めがあったら早めに進路変更をしなければならない。進路変更は私と大城が相談して決める。大城はウチナー島の道路に精通しているからな。それから、この暴風雨だ。木が倒れて車が通れない場所があるかも知れないし道路が冠水している場所があるかも知れない。冠水している場所があったら急いで車から下りて冠水している水溜りの深さを調べてくれ。トレーラーはどんな水溜りでも通れると思うが私達の自家用車が通れるか通れないかが問題になる。その時の対処のやり方も大城と私が相談して決める。わかったな。」

「はい。」

「大城に電話を代われ。」

梅津は大城に電話を渡した。

「大城だ。」

「トレーラーはもうすぐ第三ゲートに来る。お前はすぐ駐車場を出ろ。」

「分かった。」

「いよいよ私達の計画が実行される。」

「ぞくぞくするぜ。」

「ああ、ぞくぞする。クレーンやシーモーラーも目的地に向かっている。全ては順調だ。」

「そうか。」

「お前達の役割りについては梅津にも伝えた。トレーラーが第三ゲートに到着したらすぐに出発しろ。」

「わかった。」

大城は携帯電話を梅津に渡した。大城と梅津は第三ゲートを見つめた。暫くすると、大きなトレーラーが現われた。梅津が、

「トレーラーが来た。」

と緊張した声で言うと、大城は、

「いよいよ、始まるぜ、梅津よ。」

とにやりと笑いながら車をバックさせて車列から出ると向きを変えて駐車場を出た。

「あのトレーラーには何を積んであるのだ。」

「ミサイルだ。」

「ええ、ミサイルだって。本当か。」

「ああ。」

と大城は嬉しくてたまらないという風ににやにやしながら言った。

「信じられない。」

梅津は目を丸くして驚いた。

「ふふ、さあ、一世一代の大泥棒が始まるぞ。」

駐車場を出た大城が運転する車はハンドルを左に回転させて十字路を左折した。


大城の運転する車は間道をゆっくりと進んだ。この道路は国道三百二十九号線に出る間道になっている。


「大城達の車が駐車場から出て十字路の方に向かいました。」

「え、本当か。」

斎藤はギアを入れ、車を出そうとした。

「車を出すのは待ってください。信号を左折してこちらにやって来ます。今、車を出せば怪しまれます。」

 大城の車は道路沿いに停車している鈴木と斎藤が乗っている車に近づいて来た。

「大城達はなんのために駐車場に入ったのだ。」

「そうですよね。彼らのボスの車が入ってくると思っていましたが、車は一台も入ってきませんでしたし、動きもありませんでした。集合場所を変更したのでしょうか。」

斎藤と鈴木は大城達の車が駐車場に入った理由が理解できなかった。大城達の車はどんどん近づいてきた。

「なぜ、大城達の車がこの道路に入ったのだろう。」

斎藤と鈴木は身を臥せた。

「こっちの正体がばれたのかな。」

と不安になってきた斎藤が言った。

「そんなことはないと思います。」

大城達の車は斎藤達の車の側を通り過ぎていった。

「大城達の車は通り過ぎて行きました。」

「そうですね。私達の尾行はばれていないようです。」

大城達の車がカーブを曲がり、車が見えなくなった時に斎藤は起き上がり、車を始動させて大城達の尾行を再開した。鈴木は助手席に移動すると青木に電話を掛けた。

「青木隊長、鈴木です。」

「おお、鈴木か。大城達に動きがあったのか。」

「はい、ありました。大城達の車が駐車場を出ました。私たちの車の横を通り過ぎていきました。今から尾行を開始します。」

「なに、お前達の車の側を通り過ぎていったのか。」

「はい。」

青木の車はコザシティーの方から来て、カリーナエアーベース第三ゲートの手前二百メートルの場所に停車したところだった。

「駐車場で仲間と落ち合うか取引相手と会うと思っていたが、私の予測は外れた。気をつけて尾行を継続してくれ。私達は駐車場が見える場所に停車したところだ。私は暫くの間駐車場を見張っている。」

「え、青木隊長は第三ゲートに着いたのですか。」

「今、着いたところだ。」

鈴木は青木が来たことを知りほっとした。

「慎重に大城達を尾行してくれ。」

「分かりました。」


駐車場で大城達が彼らのボスに会うだろうと予測していた青木は自分の予測がはずれたのでがっかりした。大城達が駐車していた駐車場には手掛かりになるものは何もないとは思ったが、念のために駐車場を調べることにした。

「天童、駐車場に行ってくれ。」

青木は車をスタートするように天童に指示した。その時駐車場から新たな車がゆっくりと出てきた。


「天童、車を停めろ。」


駐車場から出てきた車はカリーナエアーベース第三ゲート前の十字路を左折すると十字路から数十メートル進んで止まった。

「大城達の仲間でしょうか。」

「大城達と同じ駐車場から出て来たということは大城達の仲間である可能性が高い。」

青木の顔は険しくなった。

「なぜ、あそこに車を停めたのでしょうか。」

「分からん。とにかく、駐車場には大城達の仲間がすでに来ていたということだろう。もしかすると駐車場で仕事の打ち合わせをしていたかも知れない。駐車場から二台の車が出て来たということは彼らの仕事が始まるかも知れない。天童。しばらく様子をみよう。」

「はい。」

天童はギアをノーマルしてからサイドギアー引いた。

その時、赤いスポーツカータイプの車が青木の車の横を通り過ぎていった。赤いスポーツカータイプの車が十字路に差し掛かった時、第三ゲートから黒い煙を吐きながら大型トレーラーが出てきた。大型トレーラーは山のような荷を緑のカバーで覆っていた。大型トレーラーは轟音を出しながら急停車した赤いスポーカータイプの車の前を通り過ぎカリーナエアーベース第三ゲートの十字路から間道に入っていった。赤い車はトレーラーが通り過ぎた後にカリナーシティーの方に去って行った。

青木は予想もしなかった大型トレーラーの突然の登場に驚いた。

「隊長、もしかするとあの大型トレーラーは武器窃盗集団と関係があるのではないですか。」

「うむ。もしかするとあのカバーの中には盗んだ武器が積まれているのかもしれない。」

「あれが武器だとすると大量の武器が窃盗されたことになります。」

「そうだな。」

天童は沿道に停まっていた車がないことに気づいた。

「停車していた車がありません。」

天童は慌てて大型トレーラーを追おうとしてギアを入れた。

「待て、天童。」

青木が車を発進するのを止めた。

「あのトレーラーが鈴木、斎藤が尾行している武器窃盗団と関係がある可能性は高い。しかし、相手は大型トレーラーだ。せいぜい時速二、三十キロのスピードだろう。尾行はやりやすい。それに鈴木達がトレーラーの前に居る。トレーラーを見失うということない。それよりも冷静に回りの様子を見る必要がある。駐車場にはまだ三台の車が駐車している。彼らの仲間の車がまだ残っているかも知れない。あせりは禁物だ。」

「はい、分かりました。」

天童はギアをニュートラルに戻した。

青木の判断は正しかった。大型トレーラーが間道に入った後に大型トレーラーを追うように十字路近くの駐車場から一台の車が飛び

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