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さあ、ノンストップアクションの始まりだ。


「青木隊長ですか。鈴木です。斎藤と私は大城、斎藤、ハッサン、シンの四人が乗っている車を尾行してカリナーシティーの国道五十八号線を走行中であります。四人の行動には只ならぬ気配を感じます。私と斎藤隊員の共通の判断と致しまして、これから彼等は仕事をやるかそうでなければ彼らのリーダーと会うのではないかと思われます。は、いえ、まだ確信があるわけではありません。四人の緊張した顔つきが気になりますし四人の乗る車もなにやら目的地にひたすらに向かっているような走りをしています。私達の誤判断かも知れませんが、気になりまして青木隊長に連絡したわけでありまして。はい、分かりました。よろしくお願いします。」

携帯電話を切った鈴木はほっとした顔をした。

「青木隊長と天童が応援に来てくれるそうだ。」

「そうですか。それはよかったです。今日こそは梅津と大城の尻尾を掴んでやりましょう。」

「そうですね。」


          六


大城達の乗る車はカリナーロータリーに入ると国道五十八号線を右折して県道二十四号線に入った。国道五十八号線をそのまま北進すればヨミタンブィレッジに入り、オンナブィレッジそしてナゴシティーへと続く。右折して県道二十四号線に入り東の方に進路を取ると、再び広大なカリーナエアーベース沿いを走ることになる。カリナーロータリーからコザシティーまでは五キロ以上もあり、カリナーロータリーからコザシティーの間はカリーナエアーベースを囲っている金網が延々と続いている。

「あれ、右折しました。北進は止めました。」

「どこに向かっているのだろう。」

「そのまま進めばカリーナエアーベース沿いを走ってチバナ十字路に出ます。チバナ十字路は国道三百二十九号線にありますが。チバナ十字路に行くのならフテンマから国道三百三十号線を真っ直ぐ進んでコザ十字路で左折して国道三百二十九号線を通った方が早いです。国道五十八号線に出てカリナーロータリーを右折してチバナ十字路に行くのは遠回りになります。」

「そうですか。すると大城達はチバナ十字路には行かないということなのですか。」

「そのように考えるのが普通だと思います。しかし。この道路は一本道です。チバナ十字路つまり国道三百二十九号線に出る道路なのです。大城達はどこに行くのだろう。変ですね。」

斎藤は大城達がカリナーロータリーを右折して県道二十四号線に入ったことに戸惑った。

「鈴木君。大城達が方向転換したことを青木隊長に連絡したほうがいいと思います。」

「そうですね。」

鈴木は急いで青木に電話をした。

「隊長ですか、鈴木です。」

「おう、鈴木君。大城達の動きはどうなっているのか。」

「はい。大城達はカリナーロータリーを右折してチバナ十字路方向に向かいました。」

「右折したのか。」

「はい。右折してチバナ十字路方向に向かいました。」

「そうか、わかった。私たちもチバナ十字路に向かうことにする。鈴木君。梅津、大城にハッサン・シンの四人が合流したということは彼らが確実に大きな仕事をやるということだ。梅津は関東をテリトリーにしている人間で大城はウチナー島をテリトリーにしている人間だ。二人とも弾薬・火器類の密売はしているが二人には直接的なつながりはない。二人を支配している人間が梅津をウチナー島に呼んだのは確実だ。その人物は外国からハッサンとシンも呼んでいる。大きい仕事をやる目的があるから梅津やハッサン達が大城とウチナー島で合流したのだ。暴風雨であっても油断はしないことだ。気をつけて尾行してくれ。君が話した通り、これからの四人の行動は要注意だ。絶対に四人を見失いなわないでくれ。当然のことだが尾行していることを彼らに気づかれることは絶対にあってはならない。尾行は細心にやってくれ。私と天童も応援に向かっている。鈴木君、絶対に武器を窃盗されてはならない。絶対に大城達の尻尾を掴むのだ。」

「はい、承知しました。」

鈴木は電話を切ると、

「大城達を絶対に見失うなと青木隊長に言われました。」

と斎藤に言った。斎藤は黙って頷いた。二人は前方を走っている大城達の車を凝視した。


 二年前、コザシティーの自衛隊員が住んでいる借家で大爆発があった。爆発で借家人の自衛隊員が即死した。警察が調べてみると爆発で即死した自衛隊員の借家には拳銃や自動小銃だけでなく、手榴弾や対戦車用のバズーカ砲まで発見された。警察が武器の入手経路を調査していくとそれらの武器は自衛隊基地やアメリカ軍基地から盗み出された盗品であるということが判明した。現役の自衛隊員が大量の盗品武器を所持していたのだ。そして、他の住民を巻き込んでしまうような大爆発を起こしてしまった。防衛庁は大量の武器が盗まれていた事実が判明したこの大爆発事件にショックを受けた。それ以来自衛隊からの武器盗難に防衛庁は神経過敏になっていた。上からの自衛隊の武器盗難を徹底して無くすようにという厳しい通達に青木隊長はじめ武器盗難特別捜索班のメンバーは武器窃盗犯を捕まえるのに必死になっていた。


          八


大城達四人の乗った車はカリナーシティーのヤラを過ぎセンガンダも素通りした。センガンダはカリナーシティーの東端にあり、コンビニエンス、ガソリンスタンドと続き、カリーナエアーベースを見学する観光客相手のお土産店を過ぎると家並みは途絶える。県道二十四号線の右側はカリーナエアーベースの金網が延々と続き、左側は濃い緑が絨毯のように広がっている森林地帯であった。濃い緑に覆われている森林地帯はカリーナ弾薬庫と呼ばれ、車窓からは見えないが広大な森林地帯には密かに建っている弾薬倉庫が数多く点在している。カリーナ弾薬庫はアメリカ軍のあらゆる種類の銃や爆弾やミサイルが格納されているアジアで最大の弾薬の宝庫である。


大城の運転する車はカリーナエアーベースとカリーナ弾薬庫に挟まれた県道七十四号線を東進し続けた。暫くすると前方に十字路が見えた。カリーナエアーベース第三ゲート前の十字路である。大城の車はカリーナエアーベース第三ゲートの十字路に近づくとスピードを落として十字路をゆっくりと左折した。

「大城達の車が左折して間道に入りました。」

ハンドルを握っている斎藤が言った。

「左折したらどこに向かうのですか。」

「そのまま間道を進めば三二九号線に出ます。しかし、間道には左折する道路が数ヶ所あります。それらの道路がどこに行くか私は知りません。」

「大城達の車を見失ったら大変です。急いで十字路を左折しなければ見失うかも知れません。」

「そうですね。」

大城達の車の二百メートル後方で車のハンドルを握っていた斎藤は左折した大城達の車を見失わないようにとスピードを上げた。

大城達の車を追って十字路にやって来て、左折指示のランプを点滅しながらスピードを落とした時、鈴木は大城達の車が十字路を左折していないことに気づいた。

「あれ、大城達の車が駐車場にあるぞ。」

「え。」

斎藤は鈴木の声に驚いた。そして、

「しまった。」

と叫んだ。

十字路を左折したと思っていた大城達の車は十字路を左折してはいなかった。カリーナエアーベース第三ゲートに面している十字路の左側には道路に沿って十台ほどの車が駐車できる小さな駐車場があり、大城達の車は十字路を左折したのではなくて十字路手前で左折して小さな駐車場に入ったのだ。駐車場には五台の車が駐車していて、駐車場の入り口に近い所に駐車していた大城の車を鈴木は見たのだ。

大城達が十字路を左折したと思ったのは斎藤と鈴木の錯覚であった。その駐車場はアメリカ軍関連の事務所が使用しているが駐車場には囲いがなく管理者も居ないので誰でも自由に駐車することができた。駐車場は車道からは見通しが悪く、第三ゲートの十字路近くまで来た時に始めて左側にある駐車場の存在に気づくほどだ。


斎藤の運転する車は左折のランプを点滅させながら十字路の白線近くまで来ていた。信号は青であった。信号が青であるのに停車をすれば大城達に怪しまれてしまう。斎藤は停車することもバックすることも許されなかった。

「あそこに駐車場があるのは知りませんでした。信号は青です。停車はできません。もう左折するしかありません。」

斎藤はハンドルを左に回転させて間道に入った。

なぜ、尾行している大城達の車が十字路手前の駐車場に入ったのだろうか。鈴木は大城達に尾行を感づかれてしまったのかと心配になった。

「なぜ、あの駐車場に入ったのだろうか。もしかして私たちの尾行に気づいたのだろうか。」

と鈴木は言った。

「そうですね。私達が尾行しているのに気づいて、尾行されているかどうかを確める目的で十字路の駐車場に車を駐車させたかもしれません。」

と言いながら斎藤は十字路を左折するとスピードを上げて駐車場の横を通り過ぎ、駐車場の車が見えなくなった場所でスピードを落とした。斎藤はバックミラーを見ながら、

「もし、大城達が私達の車を怪しんでいたら、私達の車を追ってくるかも知れません。」

と言った。雨水がフロントガラスを流れていてバックミラーでは後続の車を見ることはできなかった。

「鈴木君。大城達が追って来ているかどうかの確認をお願いします。」

「わかりました。」

鈴木は後部座席に移ってフロントガラス越しに後続車があるかないかを見た。

後続車は見えなかった。

「私たちを追ってくる様子はありますか。」

「走って来る車は一台もありません。」

「そうですか。」

斎藤は車を停車した。

「まだ、後続の車はありませんか。」

鈴木は注意深く後ろを見た。車の姿は見えなかった。

「ありません。大城達は私達を追ってきてはいないようです。」

「そうですか。もしかすると、私達の尾行から逃れようとカリナーシティー方向に逃げて行ったかも知れません。」

「そうですね。」

「私は大城達の車がまだ駐車場にあるかどうかを確かめてきます。」

鈴木は車から下りようとした。

「下りるのは待ってください。車をバックさせます。」

斎藤は車をバックさせて、駐車場から百メートルほど離れた場所で止めた。

「それじゃ、駐車場の様子を見てきます。」

と言って鈴木は車を下り、強風雨の中を背を屈めてカリーナエアーベース第三ゲート向かいの駐車場に向かった。

大城達の車はまだ駐車場にあるかどうか斎藤は心配だった。大城達の車が駐車場を出てカリナーシティー方向に引き返していたら尾行は失敗である。ハイスピードで追っても大城達の車を再び見つけ出すのは困難だろう。それに尾行していることに気づかれていたらこの車の車種やプレートナンバーを覚えられているだろうからこの車で尾行することはできない。

斎藤は苛々しながら駐車場の様子を調べに行った鈴木が帰って来るのを待った。五分ほど過ぎて鈴木は戻って来た。助手席に座ると、

「大丈夫です。大城達の車はありました。私達の尾行にはまだ気づいていない様子です。」

と鈴木は言った。斎藤は鈴木の報告を聞いてほっとした。

「そうですか。私達の尾行は大城達にまだ気づかれていないですね。安心しました。私達の尾行に気づいて駐車場に入ったのではないとすると大城達四人はあの駐車場に来るのが目的だったということです。一体あの駐車場でなにをするのでしょうか。やっぱり彼らのボスとあの駐車場で会う予定なのですかね。」

「駐車場には五台の車が駐車しています。もしかすると五台の車の中には大城達のボスの車があるかも知れません。」

と鈴木は言った。

「そうですね。」

暴風雨の最中で駐車場の側を通る車がほとんどないとは言え、道路から丸見えの小さな駐車場で武器の売買をやるとは考えられない。鈴木はアパートから出てきた大城、梅津、ハッサン、シンの緊張した顔つきを見て危険な仕事をやるに違いないと予想していたが、どうやら自分の予想ははずれていたようだ。斎藤が予想した通り、今日は大城、梅津、ハッサン、シンの四人を集めたボスに会うのが目的なのかも知れない。鈴木は張り詰めていた気持ちが緩んだ。

「斎藤君の予想が当たったようですね。あの小さな駐車場で武器等の取引きはあり得ません。彼らの今日の目的はボスとの待ち合わせでしょう。」

「そうだと思います。」

「もう少し車を駐車場に近づけましょう。道路沿いは金網だけで身を隠す場所がありませんし、この風雨ですから車の外で見張るのは厳しいです。」

と鈴木は言って、後部座席に移った。

「駐車場がぎりぎり見える所まで誘導しますのでゆっくりバックして下さい。」

「わかった。」

斎藤はゆっくりと車をバックさせた。駐車場から五十メートルほどの場所まで近づいた時に鈴木は車を止めるように斎藤に指示した。

「大城達の車が見えました。」

と鈴木は言った。斎藤と鈴木は駐車場から五十メートルほど離れた場所に車を停めて大城達の車を見張った。

鈴木は青木に連絡した。

「もしもし、青木だ。」

「鈴木であります。大城達の車はカリーナエアーベース第三ゲート向かいの駐車場の中に駐車しました。駐車場には大城達の車を含めて五台の車が駐車しています。私たちは駐車場から五十メートル程離れた場所に居ります。」

「四人の乗った車の様子はどうだ。」

「はい。大城達に気づかれないように大城達の車がぎりぎり見える場所に駐車していますので車内の様子を見ることはできません。大城達の車は現在も駐車したままです。移動する気配は今のところはありません。」

「そうか。その場所で見張りを続けてくれ。その駐車場に新たに入って来る車もチェックするように。カリーナエアーベース第三ゲートにもう直ぐ私たちも到着する。到着したら連絡する。」

「了解しました。」

鈴木は車の中から駐車場を見続けながら電話を切った。


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