暴風雨の中、大城たちは動いた。しかし・・・
「スラグマシンを知っているか。」
と大城は言い、ハッサンが返事に困っていたのでスラグマシンについて説明した。
「知ってはいるがやったことはない。」
大城はハッサンの返事を聞いてがっかりした。
「こいつらはパチンコを知らないしスラッグマシンはやったことがないらしいぜ。」
「それじゃあ、パチンコ店に行くのは止めるか。」
「冗談じやないよ。お前とハッサンとシンと俺の四人でどこに行けばいいと言うんだ。俺は四人であっちこっちうろうろするのはやりたくない。俺はパチンコ店以外に行く所はない。お前がハッサンたちとどこかに行きたいならこの車を貸すぜ。」
「馬鹿言え。俺も後ろの二人と一緒にぶらぶらするのはやりたくない。」
「それじゃあ、パチンコ店に行くしかない。」
「そういうことだ。」
大城と梅津は笑った。大城の車はウラシーシティーのパチンコ屋に向かった。
大城の車はパチンコ店の駐車場についた。車から下りた大城はハッサンにパチンコ店に一緒に行こうと誘った。
「ハッサン。俺はパチンコ店でスラグマシンをやる。梅津はパチンコをやる。お前たちもやったらどうだ。」
大城に誘われてハッサンは迷っていたが、車から出てシンと一緒に大城たちの後ろをついて行った。大城、梅津、ハッサン、シンはパチンコ店に入って行ったが、暫くすると耳を押さえながらハッサンとシンはパチンコ店から出て来た。ハッサンとシンを追って大城もパチンコ店から出て来た。大城はパチンコ店に戻ろう説得したがハッサンは店の中がとてもうるさいからといって断った。
大城は車のドアを開けてハッサンとシンを車に乗せた後に、パチンコ店に戻って行った。ハッサンとシンは大城がスロットマシンに興じている間は車の中でじっとしていた。外国からはるばるやって来たハッサン兄弟を丁重に持てなす気持ちは大城や梅津にはなかった。
四
大城、梅津を尾行している鈴木と斎藤はナーファ国際空港から出て来た大城、梅津、ハッサン、シンを見た。
「斎藤さん。二人の男はインド人に似ています。」
「そうですね。二人は顔や体躯が似ているから兄弟だと思います。」
「そうですね。私はインド人二人の素性を調べます。斎藤さんは四人を尾行してください。」
「分かりました。」
斎藤はナーファ国際空港から出た大城の車を尾行し、鈴木はインド人の素性を調べるためにナーファ国際空港に残った。
斎藤がウラシーシティーのパチンコ店の駐車場に停まってから数分すると鈴木から電話があり、ナーファ国際空港に下りた二人のインド人は兄弟であり名前が兄はハッサンで弟はシンであることを伝えてきた。
「斎藤君は今どこにいますか。」
斎藤は車を駐車しているウラシーシティーのパチンコ店の名前と場所を教えた。
「分かりました。私はタクシーで斎藤君の所に向かいます。」
「待っています。」
数十分後に鈴木はウラシーシティーのパチンコ店に到着した。鈴木はパチンコ店の入り口近くでタクシーから下りて斎藤に電話した。
「鈴木です。四人の様子はどうですか。」
「斎藤です。大城と梅津はパチンコ店に入っています。ハッサンとシンは車の中に居ます。」
「私はパチンコ店の入り口に居ます。斎藤君の車はどこに駐車していますか。」
鈴木は斎藤と電話で話しながらハッサンやシンに見られないように斎藤の車に近づき背を屈めて車の助手席に乗った。
「インド人がやって来るとは以外でした。」
「そうですね。」
「外国からも仲間を呼んだということは大掛かりな武器窃盗が目的なのでしょうか。」
「多分そうだと思います。そうでなければ、大量の武器弾薬を国外に運び出すつもりだと思います。」
「面識のない四人が『大きな仕事』をやるために謎の人物によって呼ばれたことに疑いの余地はありません。」
「四人を集めた人物はどんな人間なのだろうか。」
「外国人を呼べるということはかなりの大物でしょうね。」
「そうだと思います。その男を見つけて逮捕したいです。」
「同感です。」
と斎藤と鈴木は武器窃盗団の大物を捕らえることができるかもしれないことに緊張が高まっていった。
深夜の十一時頃に大城と梅津はパチンコ店から出て来た。四人は昨夜と同じラーメン屋で食事をしてから大城のアパートに帰った。
大城と梅津の親しみのない態度。大城と梅津のハッサン兄弟に対する無碍な扱いが四人は旧知の間柄ではないことを示していた。無理矢理一緒に寝泊りさせられていることは明らかである。四人を呼び集めた人物がいる。四人をウチナー島に呼んだ人物が彼らのリーダーであろう。なぜ四人をウチナー島に呼んだのか。リーダーの正体は誰なのか、鈴木も斎藤も具体的には何も知らなかった。ハッサン兄弟と梅津、大城の四人が合流してからの行動をつぶさに観察していた鈴木と斎藤は以下のように分析した。
一、大城と梅津の個人的な関係は希薄である。
二、インド人のハッサンとシンは大城、梅津とは初対面である。
三、ハッサンとシンの正体は不明だが知的教養があるとは認められない。恐らく二人は肉体労働かそれに近い仕事をやっている。
四、四人は大城が集めたのでもなければ梅津が集めたのでもない。
五、四人を集合させた人物が存在する。
六、その人物がリーダーに違いないが、リーダーの正体は不明である。
七、梅津、大城、ハッサン・シン兄弟が合流したということは近日に自衛隊基地かアメリカ軍基地から窃盗した武器の取り引きがあるか、でなければ自衛隊基地かアメリカ軍基地から武器を窃盗する計画がある。
八、外国からハッサン、シンが合流したということは大規模な武器の取り引きあるいは武器の窃盗が近日中に行われるであろう。
以上が鈴木と斎藤の分析結果であった。気になるのは四人を合流させたリーダーの正体が分からないことと取り引きあるいは窃盗の規模と実行日がまだ予測できないことであった。ウチナー島の自衛隊基地から大量の武器が盗まれたという情報はなかったし、アメリカ軍基地から大量の武器盗難の報告が防衛庁にあったという事実もなかった。そして、自衛隊基地かアメリカ軍基地から大量の武器を窃盗する計画があるという情報も皆無であった。しかし、東京から梅津、台湾からハッサン兄弟がウチナー島にやって来て大城と合流したということは近い内に大きな武器取引きまたは武器窃盗があることを予感させる。四人を徹底して尾行すれば彼らの犯行現場を押さえることができるだろう。鈴木と斎藤の緊張は高まった。
五
大城のアパートを出た梅津、ハッサン、シン、大城の四人は大城の運転する車に乗りアパートの駐車場を出た。
「これからパチンコ店に行くのでしょうか。」
「パチンコ店に行くには時刻が早すぎます。違うと思います。それに四人の表情が普通と違います。」
「そうですね。緊張している表情をしていますね。」
大城達の表情は明らかに緊張していた。これから四人の男達はどこに行きなにをするのだろう。大城達を見張っている鈴木と斎藤も緊張した。
大城達の乗った車は家やアパートが密集している窮屈な狭い道路を通り抜けてフテンマタウンの大通りに出た。大通りを直進するとフテンマ三叉路に出る。フテンマ三叉路は大通りから国道三百三十号線に出る交差点であり、大城達の車はフテンマ三叉路を右に曲がって国道三百三十号線を北に向かった。
「ウラソエシティーのパチンコ店とは逆方向です。」
「そうですね。」
国道三百三十号線を北上している大城達の車は坂を下っていった。暫くすると坂は上り坂になった。坂を上りきると再び長い下り坂になった。道路の左側はアメリカ軍基地であるキャンプズケランを囲う金網が続き、右側もアメリカ軍施設のキシャバテラスハイツを囲っている金網が続いた。この通りは道路だけが民間地域で右も左もアメリカ軍基地であるといういびつな国道である。
大城達の車はアメリカ軍基地の金網に挟まれたいびつな国道三百三十号線を走り続けた。キャンプズケランの金網に沿ってゆるやかな坂を下ると、やがて三叉路が見えた。大城の運転する車は三叉路を左折して間道に入った。間道を直進するとウチナー島の西側の幹線道路である国道五十八号線に出る。
大城達の車は国道五十八号線に出ると右折した。右折して国道五十八号線を北に進むと右側にはアメリカ海軍病院のあるキャンプクワエというアメリカ軍の敷地があり、左側の海岸には映画館や観覧車等の娯楽施設が集合しているウチナー島の新しい繁華街になっているミハマタウンがある。大城達の車はミハマタウンを過ぎ、なおも北の方に向かった。
「大城達の車はどこに向かっているのだろうか。」
「これから先はカリナーシティー、ユンタンヴィレッジ、ウンナヴィレッジです。もう少し進むと国体道路入り口がありますが、国体道路はコザシティーに通じている道路です。コザシティーに行くのなら国道三百三十号線を直進した方が近いですから国体道路に入ることはないとおもいます。」
「そうですか。暴風雨はますます激しくなりました。運転は注意してください。」
「はい。」
激しい雨がフロントガラスを襲い視界を悪くした。ワイパーを最速にしても次々と襲い掛かる大粒の雨がフロントガラスを覆い視界は悪かった。
キャンプクワエの敷地はコザシティーに通じている国体道路入り口まで続いていた。国体道路入り口を過ぎるとアジア最大のアメリカ空軍基地であるカリーナエアーベースである。大城達の車は国体道路入り口を過ぎ、カリーナエアーベースの金網沿いを走り続けた。
大城達の車はカリーナエアーベースのゲートを通り過ぎ、カリーナエアーベース専用のゴルフ場、スナビヴィレッジ、アメリカ空軍貯油基地を通り過ぎてカリナーシティーのミジガマに入った。カリーナエアーベースの広大な滑走路が金網の向こう側に広がっている。カリーナエアーベースの滑走路は全長四キロメートルもあり、ジェット戦闘機だけではなくB―52などの重爆撃機も難なく離着陸できる。
大城達の車はカリナーシティーのミジガマに入ると国道五十八号線沿いにあるコンビニエンスの駐車場に入った。
「コンビニの駐車場に入りました。私たちも駐車場に入りますか。」
と斎藤が言った。
「いや、それはまずいです。コンビニの駐車場は小さいです。駐車場に入ったら尾行していることが知られてしまう恐れがあります。しかし、国道に停まるのもまずいですね。」
「コンビニエンスを過ぎたらドライブインがあります。ドライブインの駐車場に入りましょう。」
斎藤はコンビエンスを通り過ぎて、ドライブインの駐車場に入った。大城達四人はコンビニエンスでおにぎりや弁当、ハンバーグにソ
フトドリンクなどを買い込んで車に戻った。大城の運転する車はコンビニの駐車場を出て再び五十八号線を走った。
大城達を尾行している斎藤と鈴木は次第に緊張が高まってきた。フテンマのアパートから出た大城の運転する車はフテンマ三叉路からキャンプズケラン沿いを通り、国道五十八号線に出てミハマヴィレッジ、ハマカーヴィレッジ、スナビヴィレッジそしてカリナーシティーへと走り続けた。朝食はコンビニエンスで買い、車を走らせながら食べている。大城達の車の走り方は大城のアパートを出てから迷わずにある目的地へ向かって一路に走っている様子を窺わせた。
大城、梅津、ハッサン、シンはこれから仕事をやろうとしている。鈴木はそう確信した。
「斎藤君、どう思いますか。私は彼らがこれから仕事をするのではないかと思いますが。」
「そうですね。アパートを出た時から四人には緊迫感が漂っていたし、普通ではないですね。しかし、今日はこれから暴風雨が激しくなります。今日のような天候では仕事はできないと思います。私は仕事をやる可能性よりも彼らのリーダーに会う可能性が高いと思っています。大城と梅津が合流したのは一昨日、ハッサン、シンが合流したのは昨日ですからね。仕事をするには準備期間が不足していると思います。多分、彼らはリーダーに会って仕事の打ち会わせをするのではないですか。私はそのように推理しています。」
斎藤の説明の方が理に適ってはいるが、鈴木の直感は斎藤の意見と違っていた。アパートから出てきた時の四人の顔つきは戦場に赴くのに似た緊張感が漂っていた。リーダーに会い、リーダーから計画を聞くという緊張感とはなんとなく違うように鈴木には思われた。しかし、彼らが仕事をするという根拠は鈴木の直感であり、はっきりした根拠に基づくものではないから強く主張することはできなかった。
「斎藤君の言う通りかもしれません。とにかく、四人のこれからの動きは要注意です。我々の意見を青木隊長に報告したいと思いますが、斎藤君はどう思いますか。」
「私も同意見です。もし、彼らがリーダーに会うとしたら、リーダーを尾行する必要があります。車一台で大城達とリーダーの車の二台を尾行することはできません。できたら応援を頼んだ方がいいと思います。」
「そうですね。」
助手席に座っている鈴木は携帯電話で彼らの隊長である青木に連絡をした。
武器盗難調査班の隊長は青木である。青木は斎藤と天童の調査情況の報告を聞くために一週間前からウチナー島に滞在していて、梅津、大城、ハッサン兄弟の四人が合流したことを報告すると青木は非常に関心を持った。青木は大城達を徹底して尾行しろと鈴木と斎藤に厳命した。