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梅津と大城はすでに見張られていた。


          二


二〇〇四年九月六日。朝。台風十八号はウチナー島に接近してきていた。空は黒い雲が激しく蠢いて移動している。時おり激しい雨が降ったりしている。大城が住んでいるアパートはギノワンシティーのフテンマヘリコプター飛行場に隣接する住宅街の一角にあった。

大城のアパートから百メートルほど離れた道路沿いに一台の車が停まっていた。車の中には二人の男が乗っている。助手席で仮眠を取っているのが鈴木であり運転席で大城の部屋をじっと見張っているのが斎藤であった。大城の部屋を見張っていた斎藤が助手席で仮眠をしている鈴木の肩を揺すった。

「鈴木君。大城達が出て来たぞ。」

コンクリート建ての家やアパートが密集しているギノワンシティーのフテンマヘリコプター飛行場に隣接する住宅街の狭い道路に車を停車して鈴木と斎藤は昨夜から大城のアパートを見張っていた。ワイパーが動いていないフロントガラスは雨の滴がいくつもの筋となって流れ、外の景色が歪んで見える。

鈴木は斎藤に肩を揺すられて起き上がり目を開くとフロントガラス越しに百メートル近く離れた古い三階建てアパートの二階を見た。フロントガラスの向こうに大城と梅津とハッサン、シン兄弟の四人の男がアパートの二階から下りて来た。

アパートは大城が借りているが二日前に梅津が東京からやって来て大城のアパートに泊まった。昨日の夕方にはハッサンとシンが台湾からやって来て大城のアパートに大城や梅津と一緒に泊まった。

大城達の見張りをしている斎藤と鈴木は防衛庁の武器盗難特別捜索班に属している防衛庁の職員である。

二日前に東京からウチナー島にやって来た梅津は関東一帯の自衛隊基地に所属している不良自衛隊員が盗み出した拳銃や自動小銃などの武器を買い集めているという噂があり、鈴木は二ヶ月前から梅津の身辺調査をやっていた。梅津は鈴木が尾行を始めてから数人の自衛隊と接触をしていて、自衛隊員と一緒にスナック等で飲食もやっていた。しかし、梅津が自衛隊員と拳銃や自動小銃等の取引をしている現場を押さえることはまだできなかった。

二日前に、都内のパチンコ店で昼間からパチンコに興じていた梅津に電話が掛かってきた。電話の声を聞いて梅津は急に神妙になり、話しながら電話の相手に何度もおじぎをした。梅津は電話を終えると急に慌しい行動を取った。

携帯電話をポケットに入れた梅津はパチンコの玉を隣りの人間にあげてパチンコ店を出るとタクシーを拾って羽田空港に向かった。そして、ウチナー島行きの旅客機に乗った。梅津を調査していた鈴木も梅津を尾行してウチナー島にやってきた。


梅津とハッサン兄弟を自分のアパートに泊めている大城という男はウチナー島在住の男で、彼も梅津と同じように自衛隊員やアメリカ兵から拳銃や自動小銃等の武器を買い集めているという噂のある人物であった。大城は拳銃の不法所持でウチナー警察に逮捕されたこともある。運転席に座っている斎藤は一ヶ月前から大城の身辺調査をしていた。


ウチナー島には二人の武器盗難調査隊員が配置されていた。斎藤はウチナー島の中北部の自衛隊員やアメリカ兵から拳銃や自動小銃等を買い集めていると噂のある人物を調査していて、もう一人の天童は南部一帯の自衛隊員を調査していた。最近の斎藤は中部で暗躍しているという情報がある大城の調査を集中的にやっていた。鈴木が調査をしている梅津が二日前にウチナー島にやって来て大城と合流したことで、東京から梅津を尾行して来た鈴木と大城を調査していた斎藤は合流し、一緒に二十四時間張りつきで大城と梅津の調査を遂行することになった。


          三


 梅沢から大城に電話が掛かってきた。

「大城。那覇空港に梅津という男が午後五時十分にやって来る。迎えに行ってくれないか。」

「俺のアパートに泊める人間か。」

「そうだ。梅津の電話番号を教えるから書きとめてくれ。」

梅沢は梅津の電話番号を大城に教えた。

「どんな奴だ。」

「どんな奴だと聞かれても困る。まあ、普通の人間だと言うしかできないな。」

「梅沢さん、断っておくけど、俺はちやほやした接待はしないよ。仕事だから仕方なく俺の家に泊めるだけだからな。その梅津という奴にも梅沢さんから俺の考えをちゃんと伝えてくれよ。」

梅沢は苦笑しながら、

「分かった。伝えるよ。」

と言って電話を切った。


羽田空港からナーファ空港に到着した梅津を迎えたのは大城であった。ナーファ空港のロビーに下り立った梅津は電話を掛けた。すると同じ空港ロビーにいた大城の携帯電話が鳴った。大城は携帯電話のモニターを見た。モニターに映った電話番号は梅津の電話番号であった。

「もしもし、大城だ。」

「大城さんか。俺は梅津だ。今、どこに居るか。」

「ロビーに居る。」

ロビーで立ち止まった状態で携帯電話を耳に当てていたのは大城と梅津だけだった。二人は電話で話し合いながらお互いの存在を確認し合った。

「あんたが梅津か。」

「そうだ。あんたが大城さんか。」

「そうだ。」

「梅沢さんから聞いていると思うが、俺は梅沢さんに頼まれて仕方なくあんたを俺のアパートに泊める。それだけだよ。俺はあんたをお客さん扱いはしないよ。」

「それでけっこうだ。」

ロビーで顔を合わせた梅津と大城は笑顔で挨拶することもなく、一度握手したきりで親しそうに会話を交わすことはなかった。

 二人はナーファ空港の駐車場に行き、大城の車に乗った。ナーファ空港を出て国道五八号線に入った時、

「腹が減っているか。」

と、運転している大城は助手席の梅津に聞いた。

「ああ、減っている。」

「俺も腹が減っている。それじゃあ、飯でも食おう。」

梅津と大城はウチナー島の中心都市であるナーファシティーのレストランで食事を取った。

「梅津はスラグマシンをやるか。」

レストランを出ながら大城は梅津に聞いた。

「スラグマシンは余りやらない。しかし、パチンコは好きだ。毎日やっている。」

大城が微笑した。

「そうか、そいつはよかった。俺はこれからウラシーシティーのパチンコ店にスラグマシンをやりに行く。お前も行くか。行かないならウラシーシティーに連れて行くからそこで適当にぶらぶらしてくれ。スラグマシンが終わったら迎えに行く。」

「俺もパチンコ店に行く。」

大城と梅津はウラシーシティーのパチンコ屋で夜遅くまで梅津はパチンコに興じ大城はスラグマシンに興じた。パチンコ店で遊ぶのが二人の共通点のようだ。大城と梅津は夜遅くまでパチンコとスラグマシンを興じた後はウラシーシティーのラーメン屋で食事を取った。

大城はスラグマシンをやった後にラーメンを食べ、それから馴染みのスナックに行くのが習慣であったが、梅津と一緒にスナックに行く気にはならなかった。大城はスナックに寄らずに梅津を連れてギノワンシティーの大城のアパートに帰った。


「大城はラーメンを食べた後にスナックに行くのが習慣ですが、今日は行かなかった。梅津がスナック嫌いなのかな。」

「そんなことはありません。梅津も毎日スナックに行っています。変ですね。」

梅津と大城はほとんど毎日スナックやバーに通っているのに今日に限って行かなかった。

「大城と梅津はお互いに酒を酌み交わす気になれないのかな。」

「そうかも知れませんね。」

二人の会話の少ない不自然な行動を観察して、梅津と大城が合流したのは二人が親しい間柄であるからではなく二人に共通する何者かの指示によるであろうと鈴木と斎藤の推測は一致した。そのことをはっきりさせたのは大城と梅津がハッサンとシンを迎えに行った時だった。


 翌日の早朝に梅沢から大城に電話があった。

「今日の午後三時に台湾からハッサンとシンがナーファ国際空港に着く。迎えに行ってくれ。」

「台湾からか、台湾人にしては名前が変だな。」

「ハッサンとシンは台湾人ではない。インド人だ。」

「インド人だって。俺はインドの言葉を話せない。」

「心配するな。ハッサンは英語が話せる。」

「そうか。」

「よろしく、頼む。」

「分かった。」

大城の返事を聞いて、梅沢は電話を切った。


梅津がウチナー島に来た翌日の大城と梅津は午前中は昨日と同じウラシーシティーのパチンコ屋でスラグマシンとパチンコに興じていたが、午後になるとパチンコ屋を出てナーファ国際空港に向かった。二人はロビーに出て来た白いターバンを巻いたインド人を探した。梅沢の電話ではハッサンとシンを見つけやすいために二人は白いターバンをやることになっているという。大城と梅沢はロビーに出て来る外国人を見ていたが、梅津が白いターバンを巻いた若いインド人を見つけて大城に耳打ちした。

「大城。あのターバンをやっている二人がハッサンとシンではないか。」

「そうだろうな。」

大城は梅津の言葉に頷いた。白いターバンを巻いたインド人は立ち止まり周囲を見回した。大城は白いターバンを巻いたインド人に近寄っていった。

「ソーリー。アー ユー ハッサン。」

と大城が言うと、ハッサンが、

「イエス。」

と答えた。

予想通りターバンを巻いていた二人はハッサンとシンであった。大城は梅沢に頼まれてハッサン兄弟を迎えにきたと話し、自分の名前を紹介した後に梅津を呼んで梅津を紹介した。四人はお互いに自分の名前を紹介し合って軽く握手を交わした。ハッサン、シン兄弟は握手をする時に親しみを込めた笑顔を作ったが、大城と梅津はにこりともしないで握手をした。

大城は握手をした後は、「ついて来い。」と言うと、ハッサン兄弟を背にしてさっさと歩き出した。あっけに取られているハッサンに梅津は手を振って着いて来るように合図した。ハッサンとシンはロビーを出る時に梅津と大城がハッサンとシンを見つけるための目印に使った白いターバンを取った。

ロビーを出て、四人は駐車場にある大城の車にやって来た。大城は運転席に乗るとドアのロックを解いてハッサン兄弟を見向きもしないでハンドルを握りエンジンを始動した。梅津はハッサンに後ろに乗るように指示してハッサンとシンが車に乗るのを確認してから助手席に乗った。大城の無愛想にハッサンは呆れたように肩をすくめた。

「アー ユー ハングリー。」

大城はハッサンに聞いた。ハッサンとシンを顔を見合わせた後にハッサンが、

「イエス。」

と答えた。

「こいつらにはなにを食わせはいいのかな。」

大城は梅津に聞いた。

「インド人だから、カレーがいいじゃないのか。」

「それじゃあ、インドカレーを食わすことにしよう。」

大城はハッサン兄弟をナーファシティーのインドカレー専門店に連れて行った。それが大城のハッサン兄弟への唯一の接待だった。 

インドカレー専門店を出た大城は昨日と同じウラシーシティーのパチンコ屋に直行した。車を運転しながら、

「ハッサン。パチンコを知っているか。」

と聞いた。

「ノー。」

とハッサンは答えた。


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