身の振り方
オレは朝日の眩しさで目を覚ました。
(ん~、よく寝たぁ)
ベットから出て伸びをしたところでノックをする音が鳴った。
「イツキ、起きてる?」
アシリアの声だ、起こしに来てくれたらしい。
「起きてるよ」
アシリアが部屋に入ってきた。
「おはよう、よく眠れた?」
「おはよう、おかげさまで、久しぶりに寝たって感じ」
「それは良かったわね、朝食の用意出来てるから、早く来て」
と言って部屋を出て行った。
朝食を食べていたら、髪の毛ボサボサの村長が頭を抱えて入って来た。
「う~、頭が割れる」
「おはようございます、二日酔いみたいですけど、大丈夫ですか?」
「おはよう、このくらい何ともない」
オレは食べ終わったので、席を立とうとすると。
「イツキ、もう少ししたら長老の所に行くから、部屋で待っててくれ、時間になったら呼びに行く」
「長老ですか、分かりました」
部屋で待つ事、多分一時間くらい経って、村長に呼ばれた。
村長、ヴィレム、オレ、三人で長老の家に向かった。
長老の名は『アンディ=エリッサ』と言い、御年九十七歳で、最近は体調が思わしくないみたいだ。
顔合わせと、自己紹介程度の話をして外に出された。
村長は、中でなにやら話をしたみたいだった。
そしてその後、村人のほとんどが広場に集められ、村長が皆にオレを紹介してくれた。
村長とヴィレム、そしてアシリアのおかげで、村の人達はオレを受け入れてくれるみたいだ。
心優しい人達で良かったと、心の底から思った。
オレがこの村に来てから、半月ほどが経っていた。
村の人達は、よそ者だったオレに本当に良くしてくれる。
まるで昔からこの村に住んでたかのように接してくれる。
時に優しく、時に厳しく、オレは居心地の良さを感じていた。
だからオレも出来るだけ村の手伝いをするようになった。
畑仕事やマキ拾い、その他雑用も進んで引き受けた。
しかし最近は子守をする事が多くなっていた、子守というより、子供達の遊び相手と言ったほうがいいのかもしれない。
オレは子供に懐かれる方ではなかったはずだが、この村では違っていて結構人気者。
特に四人の子供達はオレの所に毎日来ていた。
いつものように子供達と遊んでいると、ヴィレムが近寄ってきた。
「イツキ、お前はこの村に溶け込むの早かったな、特に子供には人気者だ」
「そっかなぁ?確かに子供達には懐かれてるかもなぁ」
そこに洗濯中のアシリアが通りかかって、不機嫌さ丸出しでこう言った。
「きっと精神年齢が同じくらいだからですわ、兄さま」
オレは恐る恐る聞いてみた。
「アシリアさ~ん、なんか怒ってないですかぁ?」
「イツキは私のどこが怒ってるように見えるのかなぁ?私は、お洗濯手伝ってくれるって約束したにも関わらず、遊びほうけて約束を破られて、不機嫌になるほど心の狭い人間ではありませんから」
オレはぐうの音も出ない、嫌な汗ばかり流れてくる。
しかしヴィレムはニヤニヤしながらこう返した。
「なんだアシリア、最近イツキがかまってくれないから、焼きもち焼いてるのか?イツキを子供たちに取られちまって」
アシリアの顔が一気に真っ赤になった。
「ちっ、違うわよ、兄さまのバカ!」
と、一言だけ言って走っていってしまった。
「おいヴィレム、変な事言わないでくれよ、アシリア怒っちゃったじゃないか」
「怒らせたのはイツキだろ?まぁ大丈夫だ、気にするな」
「お前は気にしろよ」
オレは子供たちに向き直り。
「よーしお前ら、今日は予定変更だ、アシリアを手伝うぞ作戦に変更する、みんな先にアシリアの所に行って手伝っててくれ、オレも後から行くから」
子供たちは全員で「は~い」と返事をして、アシリアの方に走っていった。
「おいおいイツキ、子供に手伝わせるのか?」
「オレも後から行くさ、それより聞きたい事があるのだが」
そう言ってオレは村の外れで、剣の練習を一人でしている女の子を指さした。
「あの子、いつも一人だよな、話した事も無いし、こないだは弓の練習してたっけ」
ヴィレムはどうしたもんかと思いながらも話してくれた。
女の子の名前は『フローラ=ムスタング』十四歳、元々はこの村の人間ではなかったみたいだ。
フローラは肌の色は白く綺麗な金髪は肩くらいでそろえてある、愛らしい顔立ちをしている。
何年か前まで、この村にムスタングという夫婦が住んでいて、なかなか子宝に恵まれなかったらしい。
どうしても子供が欲しかった夫妻は、王都の孤児院で当時二歳だったフローラを養子に迎えた。
ムスタング夫妻は二人とも弓の名手で、この村で右に出る者は無かった。
そんな二人に可愛がられ大事に育てられたフローラは活発でよく笑っている子だったらしい。
しかし四年前、用事がてら王都に三人で行った帰り道で賊に襲われた。
ここからは推測みたいだが、ムスタング夫妻は逃げきれない事を悟りフローラを林の中に隠し、自ら囮となって、村から遠ざかって走り、殺されたらしい。
フローラは一人で村に帰って来たという。
それ以来フローラから笑顔は無くなり、人とあまり接しないようになったという。
フローラの弓の腕は両親に鍛えられていた為、大人顔負けだそうだ。
その腕を買われ、狩りには必ず連れて行くみたいだ。
その話を聞いたオレは。
「弓の練習はともかくとして、剣の練習は復讐のためか?」
「フローラは何も言わないが、恐らく親の仇の顔を見て覚えてるのかもしれない、とオレは思ってる」
「何とかならないのか?」
「もう四年間もあの調子だ、多分フローラは復讐すると固く心に誓っているのだろぅ」
「仮に復讐を遂げたとして、その先には何も無いと思うけどな」
するとヴィレムが思い出したとばかりに。
「あっ、イツキ、村長が呼んでたんだ、すまん、すっかり忘れてた」
「それを先に言えよ、お前後で殺す」
と言いながら、オレは全速力で走った。