王都観光
イツキとカレンは王都の中央広場に来ていた。
広場の真ん中には噴水があり人々の憩いの場になっているみたいだ。
広場の周りには様々な露店が並んでいて、値段交渉など色々な声が飛び交っている。
イツキ達は目についた美味そうな物を買い、食べながら、カレンの案内する王都の名所を回っている。
「しかし、本当に人が沢山いてどこも賑やかだなぁ」
「そうでしょう、最近では結構他の国からも行き来があるから、色々な珍しい物が売られてたりしますよ」
そう言うとカレンはとある店の前で立ち止まった。
その店には手作りであろうアクセサリーが並んでいる、イツキが見ても意外と凝った作りだ。
「へぇ~、なかなか良く出来てる」
「そうね、目移りしちゃう、どれも綺麗でかわいい」
しかしカレンは少し立ち止まっただけで歩き出した。
イツキはカレンが立ち止まった際に、一つのイヤリングを見つめていたのを見逃さなかった。
それはワンポイントに桜の様な花が付いているイヤリングだった。
カレンが先に行ってしまった隙に、イツキはこっそりイヤリングを購入したのだった。
その後、陽が傾いて夕方になる頃、カレンが自分のお気に入りの場所を教えてくれると言うのでイツキはそれに従った。
それは、王都にある時計台の内の一つだった。
時計台は誰でも登って行く事が出来る、そして眺めがいい。
ただ結構高さがあるので一番上まで登るのは若者でも大変なのだとか。
しかしイツキにとってこのくらいは、なんて事の無い高さだった。
なのでイツキは階段を上る速度をカレンに合わせて登り切った。
カレンは到着するなり息を切らせ座り込んでイツキに問いかけた。
「イツキさん、こんなに階段を上ってきて何でそんなに普通でいられるんですか?」
「ん?何でって言われてもなぁ、このくらいは平気だぞ、カレンさんが運動不足なんじゃない?」
「私が普通なんです、まぁいいですけど」
そう言うとカレンは太陽に向かって街を見下ろしてから、空を見上げた。
「私、この時期のこの時間のこの場所からの眺めが大好きなんです」
「確かに、この景色は圧巻だね」
眼下に街並みが一望でき、小高い山や森が遠くに見えて、何とも言えない景色が広がっている。
イツキがカレンの横顔を見ると、そよ風に髪の毛が揺られ、太陽に照らされていてとても綺麗だった。
「そう言えば、私ここに誰かを連れて来たの初めてかも」
「そいつは光栄だな」
カレンはイツキをみて、ニコッとほほ笑んだ。
(ヤッベ~、カレンさんてマジでかわいい、アシリアといい勝負だわぁ)
「あのぉ、イツキさん、一つ質問してもいいですか?」
「改まっちゃって、何が聞きたいの?」
「イツキさんて、この国のご出身ですか?」
「えっ!何でそんな事が気になるの?」
「いえ、嫌なら答えなくていいんです、本当に全然」
「逆にカレンさんが何でそんな質問したのか気になるんですけど」
「そうですよね、変ですよね、え~とですね、イツキさんは黒い瞳に黒い髪じゃないですか」
「そうだね」
「実は、この国では珍しいのですよ」
「そうなんだ」
「そうなんです、本当に珍しいんです、私の知る限り二人しかいません、イツキさんで三人目です」
「ふ~ん、それでオレ以外の二人ってどんな人?」
「それがですねぇ、聞いて驚いて下さい、現国王のお母さまで王太后のリサ様と王女のキエリ様なんです」
カレンは両手を両腰に置き、胸を張って、エッヘンとでもいうかっこうで答えた。
(なんでカレンさんが偉そうにしてんだろ?それに、そんなに胸を張っても小さいもんは小さい)
そしてカレンは両腕で胸を隠して
「イツキさん、今私の胸が小さいって思いませんでした?」
「げっ!カレンさんて、人の心が読めるの?」
「ひっど~い、冗談だったのに本当に思ってるなんてぇ、私ショックです」
カレンは本当に落ち込んでいる様だった。
イツキは、何とか機嫌を取ろうとして思い出した。
「あのぉ~、カレンさん」
「何ですか?」
あからさまに機嫌を損ねているカレンがイツキを見る。
「実はぁ、これぇ、今日色々な場所を案内してくれたお礼なんですけどぉ、受け取って頂く事は出来ますでしょうかぁ?」
イツキは恐る恐る小さな袋をカレンの前に出した。
カレンは無言でその袋を受け取ると、イツキに背を向け袋の中身を確認して固まっていた。
(やっぱりこんなんじゃダメだよなぁ、あぁ、こんな時どうすればいいの?)
イツキが頭をフル回転させてどうしようか模索していると、カレンが振り向いた。
イツキの緊張感が高まり、額から嫌な汗が流れる。
「イツキさん、これ、いつの間に買っていたのですか?」
「いやぁ、カレンさんがこれをジッと見てたから、気に入ったのかなぁなんて思いまして、でもサッサと歩いて行っちゃったので、その隙に、はい、お礼もしなくちゃなぁ、なんて思ってましたし」
「あの、これ、付けてみてもいいですか?」
「もちろん」
(ん?これはあれか?一発逆転か?イヤ、安心するのはまだ早いぞイツキ)
カレンがイヤリングを付けてイツキに向き直った。
「イツキさん、どうですか?似合っていますか?」
日の光を浴びて微笑むカレンの美しさにイツキは言葉を失った。
そんなイツキの反応を見てカレンは
「似合ってないですかねぇ?」
イツキは声を絞り出した。
「とても、似合ってるよ」
「本当に?ありがと」
無邪気に喜んでいるカレンを見て、イツキも少し落ち着いてきた。
「本当だよ、あまりにもカレンさんが綺麗だったから言葉が出てこなかったよ」
「また得意の冗談ですかぁ?もう騙されませんからねぇ、それと、これ、もう私の物ですから返しませんよ」
「返せなんて言わないよ」
(まぁ、何はともあれ機嫌が直って良かった)
「そろそろ暗くなり始めますし、戻りましょうか」
「そうだね」
日も暮れ始めて来たので、二人は宿屋に戻る事にした。
宿屋に戻る途中、イツキはとある店の前で足を止める。
その店は一見武具が無造作に置かれていて、商売っ気が無いように見える。
「イツキさんどうしました?このお店が気になるのですか?」
突然立ち止まったイツキにカレンが訪ねてきた。
「気になるってほどじゃ無いけど、なんとなく」
「私もあまり詳しくは無いのですけど、ここのご主人はとても気難しい人らしいですよ」
「ふ~ん」
「早く戻らないと、リーナさんに怒られるかもしれませんけど、どうします?」
「そうだった、村長が戻る前に戻らないと何を言われるか分からない」
「気になるのでしたら、また後で案内しますよ」
「うん、今日の所は戻りますか」
二人は足早に宿屋に向かった。
実は店の奥に刀の様な剣が置いてあったのをイツキは見逃さなかった。
ただ暗かったので実際は何だったのかは確証が持てなかったが。
そしてイツキはリーナより早く宿屋に着いて事なきを得た。