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なまけものは、今日も修羅の道を行く  作者: 闘者 在前
第一章
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プロローグ

 乙葉(おとは) (いつき)  現在17才

 オレは普通に無難な高校生活を送れているはずだ、勉強も運動も、狙って中の上くらいを維持している。

 本気を出せば、学年でもトップクラスだと自負しているが、もちろんこれには訳があるのだ。


 それは、家が『乙葉(おとは)神刀(しんとう)念流(ねんりゅう)』と言う古武術の道場を開いている事に由来する。

 表向きは、刀術や空手や柔術の類を門下生に教えているけど、それはあくまで表向き。

 実態はどんな流派かというと、簡単に言えば、刀と無手でいかに人を殺せるかを追求した武術なのだ。

 ご立派な流派の名前の中に『神』という文字が入っているのは、何かの間違いだろなんて、口が裂けても言えない、言ってはならない。

 口は災いの元、言わぬが仏である。

 嘘か誠か700年以上続いているとかいないとか。

 なので目立ってはいけないらしい。


 現在の平和な日本で何が悲しくて人を殺す技を磨かにゃならんのか、理解に苦しむよねってのが、オレの持論なのだけどね。

 そんな事を物心ついた頃からみっちり仕込まれてきた生まれを不幸に感じた事もある。

 しかも親父は、どちらに名を継がせるか、そろそろ決める気でいるみたいだし。


 どちらに名を継がせるか、そうオレには二つ年上の兄がいる、名を『乙葉 (あさひ)』という化物だ。

 それ以外に言いようがないくらい強い。

 しかも容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、そして鬼、全く非の打ち所がない良く出来た人間ですよ、いや魔人。

 オレは兄に勝った事が一度しか無い、あれは人ではないのだから仕方ない、そう仕方がない(涙)

 体格的には、オレとさほど変わらないんだけどなぁ。


 親父は兄推し、しかし何故だか兄はオレ推し、オレは兄推し。

 だから多数決で兄に継がせればいいじゃんかよぅ、と声を大にして言いたい。

 まぁ、なんにせよ兄が継ぐでしょ、と無理やり納得しとく。


 そんな事に嫌気がさしたのか、そうではなかったのか分からないが、突然思い立ち、オレはふらりと従姉の家に向かった。

 代々継がれてきた、二(ふり)りある刀のうち、一口りを持ち出して。

 理由は無い、ただなんとなく、だ。

 刀といっても、江戸時代とかに武士が持っているようなご立派なものではない。

 木の鞘、握りの部分も木で出来ている、なんの飾りも無い、一見すると木刀みたいな感じだ。

 長さは小太刀くらいなんだと思う。


 従姉の家は近くもなく、遠くもなく、自転車で一時間くらいで着く。

 家の裏には、それほど大きくない裏山があり、そこに小さな神社があり、近くには小川が流れている。

 子供の頃は、優奈、兄、オレ、三人で良く遊んだもんだ。

 そんな景色を遠目に見ながら、到着。

(そういや、ここに来るの久しぶりだなぁ。おじさん、おばさん元気にしてるかなぁ)

 ここの家は、ごくごく普通のよくある家庭だ。

 オレの家みたいな、しがらみもナッシング!!少し羨ましい。


 おばさんは居るはずなので、チャイムを鳴らしてすぐに玄関を入る。

「こんちは~、ふらっと来ちゃいましたぁ」

 思った通り、おばさんが出てきた。

「あらあらぁ誰かと思ったら、樹ちゃんじゃないの、久しぶりねぇ」

 いつもの優しい笑顔で迎えてくれたけど、おばさんは少し痩せた気がした。

「すいません、足が遠のいちゃって」

「さぁさぁ何も無いけど、早く上がって」

「お邪魔しま~す」

「それと優奈(ゆうな)にも会っていってあげてね、樹ちゃんの近況報告聞かせてあげて」

 少し悲しげな笑顔でオレに言った。

「うん、先に行ってくる」


 オレは仏壇の前に正座をして手を合わせる。

如月(きさらぎ) 優奈(ゆうな)』オレの三つ年上の従姉だ。

 幼少期は男勝りな姉ちゃんに、べったりだった時期があった。

 五年前の事件?というか事故?で行方不明になったまま今も帰らない。

 おばさんが一年半くらい前に、待ってるだけは辛いし、気持ちの整理も出来ないって事で仏壇だけを作ったしだいだ。

 なので、お墓は無い。

 オレは簡単な近況報告をして、おばさんの待っている居間に向かった。

(早く帰ってこいよな、なにやってんだよ)


 おばさんは、麦茶とお菓子を用意して、座っていた。

 オレはあい向かいに座った。

「こんなものしか無いけど、良かったら食べてね」

 おばさんの進めるがままお菓子に手を伸ばす

「それと、そんな物騒な物を何で持ち出して来たのよ?見つかったら怒られるどころの騒ぎじゃないでしょうに」

 おばさんは、お茶を飲みながら、そう言った。

 オレも麦茶を飲んで。

「そうなんだけどさ、なんとな~く持ってきちゃった」

「まっ、帰ったら元に戻しとくよ、バレないうちに」

 そんな他愛のない話を一時間くらいして、帰る事にした。


「気を付けて帰るんだよ、もうすぐ暗くなるからね」

「うん、分かってるよ」

「今度は旭ちゃんと一緒においで、ご飯も用意するから」

「ありがとう、また近いうちに来るよ」

 自転車を走らせながら、手を振った。


 オレはまっすぐ帰ろうとしたが、なんとなく裏山の神社に向かった、本当に気まぐれだ。

 五年前からずっと意識はしていた、けれど来る気がしなかった、いや来たくなかった、足を踏み入れたくなかった。

 今日はどうしたと言うのか?少しだけ嫌な予感を抱きながら、何かに導かれるように、ここまで来てしまった。

 鳥居の前に自転車を停めて一礼、鳥居をくぐる。

 石畳を歩きながら思う。

(なんであんなに来ることを拒んだ場所に来たのだろう)


 そう、ここは従姉の姉ちゃん『優奈』が行方不明になった場所。

 正確には、優奈とオレ二人が行方不明になった場所だ。

 五年前オレは十二歳、姉ちゃんは十五歳。

 あの日、兄は何か用事があり、ここには居なかった。

 突然二人が居なくなったのだ、そりゃ大騒ぎになったらしい。

 警察、消防、近所の人達、その他大勢の人が捜索隊に駆り出され、二十四時間体制で探し回ってくれたらしい。

 そして、何故かオレだけが二日後にこの神社に倒れていたのを発見された。

 すぐに目を覚ましたオレだが、二日間の記憶が一切無い、いくら思い出そうとしても、神社で優奈と走り回っていた記憶までしか無かった。

(ここは変わらないな、あの時と、せっかく来たんだからお参りくらいはしていくか)


 本殿の前まで来たオレは違和感に気付く、すごく小さな声が聞こえる、何を言っているのか分からないが、耳にではなく頭の中に直接聞こえる。

(なんだぁこの声にならない声は、女の人の声?それとも子供か?小さすぎて聞き取れない、何を言っている?何か伝えたい事でもあるのか?いったい誰が?)

 体も自由が利かなくなっていく、頭が痛くなってくる、右手で額の辺りを押さえる、無意識に背中に背負うかっこうになっていた刀をなんとか左手に取る。

(いったい何が起きてるんだ?でもこの感覚は覚えがある!)

 そして次の瞬間目の前に、眩い光が広がった。

「お願い、誰か助けて」

 最後に心の叫びとも取れる必死な声が、こう聞こえた気がして、オレは意識を失った。




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