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なまけものは、今日も修羅の道を行く  作者: 闘者 在前
第二章
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エルツミディア城の私室にて

 ここは『サン=ドニール王国』

 その王都の中心に、この国の象徴として大きくそびえ立つ『エルツミディア城』

 城の外観は美しく優雅、繊細にして大胆な造りで、これほどの城は他に類を見ないだろう。

 ここは、その城の王家と王家に許された人物しか立ち入る事を許されない一角の中の一室。

 その部屋の主は『リサ=ヴェルタネン』という初老の女性だ。

 現国王『アレクシ=ヴェルタネン』の実の母である。

 リサは十年近く病に侵されていて、滅多に部屋から出る事は無かった。

 いつもベットの中から窓の外を眺める事しか出来なかった。


 そんなある日、リサは珍しく夢を見た。

 そんなにはっきりと夢の内容は覚えてはいなかったが、とても暖かく、そしてとても懐かしい、遠い昔の事の様な夢だった。

 目を覚ましたリサは何故か涙を流していた。

(涙?私、夢で泣いていたの?それに今日は体が軽いわ)

 いつもはベットの中で上半身を起こした状態で呼び鈴を鳴らすのだが、今日は自分でベットから起き上がり、椅子に腰かけ呼び鈴を鳴らした。


 するとリサの専属メイドである『ノーマ=エンクシー』が完璧な作法で部屋に入って来た。

 リサとノーマの付き合いは四十年以上になる、家族以外では一番信用出来る人物だ。

「リサ様、横になられていなくて大丈夫なのですか?」

「えぇ、今日はとても体が軽いのよ、そして気分がいいの、だからと言う訳ではないのだけれど紅茶を頂けるかしら?」

「そうでございますか、ご気分がよろしいのであれば、食事はいかがなさいますか?」

「そうね、少し頂こうかしら」

「かしこまりました、少々お待ちください」

 そう言って、ノーマは部屋を出て行った。

 リサは待っている間、自然に夢の事を考えていた。

(どんな夢だったのかしら、今回の夢に限っては覚えていないのが悔やまれるわね)


 暫くすると、ノーマが食事と紅茶を持って部屋に入って来た。

 一緒に息子であり現国王であるアレクシとその子供である娘の『キエリ=ヴェルタネン』の姿があった。

「リサ様、お待たせいたしました」

「ありがとう、ノーマ、あらキエリまで来てくれたの、うれしいわ」

「母上、今日は気分がいいとお聞きしたので、キエリも連れてきました、何分会いたがっていたもので」

 キエリは椅子に腰かけているリサの前に膝立ちになりリサの膝の上に上半身をあずけ甘えている。

「お婆様会いたかったですわ、何日ぶりでしょう?」

「あらあら、まだ何日も経ってはいないでしょうに、でも私も会いたかったわ、キエリ」

「ほら、キエリ、母上が食事も出来ないではないか」

「あぁ、お婆様すいません、嬉しさのあまり、気がつかなくて」

 キエリは飛びのいて、謝った。

「いいのよキエリ、私の気分がいい時くらい好きにしてちょうだい」

 リサは満面の笑みで答えた。

「はい」

 と答えながら、キエリはリサの向かい側の椅子に腰かけた。


 ノーマが三人分の紅茶を用意する。

 リサがキエリの顔を見つめながら。

「キエリは本当に私の若い頃にそっくりだわぁ」

「お婆様の孫ですもの、似ていても不思議はないですわ」

 するとノーマが三人に紅茶を出しながら。

「私はリサ様にお仕えして四十年以上が経ちます、勿論その前からリサ様の事は存じておりました、キエリ様は若かりし頃のリサ様に本当にそっくりでございます」

 そこにアレクシも交ざる。

「そうだな、私も私の妹であるサラも、どちらかと言えばお父様の方に似ているが、キエリは何故か私や妻よりお母様に似てしまっているな」

 リサとキエリは、この国では珍しく黒髪で瞳も黒い、しかし二人ともその黒髪と黒い瞳は美しかった。

「こうゆうのを隔世遺伝っていうのでしょうね」

 紅茶を飲みながらリサがつぶやいた。


 そしてアレクシが本題だと言わんばかりに話始めた。

「実は今日ここに来たのは、お話したい事がありまして」

「あら、私に相談事なんて珍しい、何かあったのかしら?」

 アレクシがわざわざリサに話したい事があるなどと切り出すのは珍しい事だった。

「昨日ノネット村から村長の書状を持ってきた者がいまして」

「あら、リーナからなんて珍しい、それは誰宛てだったの?」

 最近では会う事は少なくなったがリサとアレクシとリーナは三十年来の付き合いになる。

「私とお母様宛てでした、しかしその内容が信じられなくて今日まで持ち越したしだいで」

「とりあえず、その書状を読ませてもらってもいいかしら?」

「もちろんです」

 アレクシがリサに書状を渡し、リサは眼鏡をかけて書状に目を通した。

 書状の内容は要約するとこうだ。

 モンタニュ窃盗団の頭であるハシッドと三鬼の内のアムディルとトーマスを倒し、残る一人ミカネルは事情があり捕らえてある、倒した三人は城に運ぶが、ミカネルの処遇はこちらで決めさせてもらいたい。

 と言うものだった。

 書状を読み終わったリサは、紅茶を一口飲んで。

「あのリーナが書状を送って来てまで嘘をつく事なんてある訳がないわ、おそらく本当に倒したのでしょう」

「ですがあの四人をどんな魔法を使えば倒せると?」

 そしてキエリが口を挟んできた。

「私は、リーナさんが窃盗団に負けて、この書状を書かされた可能性もあると思うのですけど」

「勿論その可能性もあるけれど、その場合リーナだったら文章の中になにかしら私達にしか分からない様に警告とか入れてくるはず、この書状はそれが無いのよ、アレクシもそう思うでしょ?」

「そうですね、この書状は純粋に私達に送られたとしか思えない」

「ともあれ、リーナが負けていた事も想定に入れつつ、倒した三人を運んで来るように使者を送りましょう、リーナに会うのは久しぶりね、楽しみだわ」

 リサはリーナが窃盗団を倒した事を全く疑っていなかったが、アレクシとキエリは半信半疑だった。

「そういえば、この四人には国から懸賞金がかかっていたわよね、アレクシ?」

 思い出したようにリサが聞くと、アレクシはそれに答えた。

「ハシッドが一億ギル、三鬼がそれぞれ三千ギルですから、今回の場合一億六千ギルですね」

 それを聞いたキエリが驚きながら聞き返した。

「そんなにかけられていたのですか?桁を間違っているのではなく?」

「仕方が無いのだよ、奴らが何かする度に徐々に吊り上がってしまって、この国では倒せる者などいないと思っていたからね、我らが騎士団まで大敗したのだから」

「懸賞金を用意しておいてね、リーナを迎える準備も同時に進めておいてちょうだい」

「そうですね、早速取り掛かるとしましょう」

 そう言うと、アレクシとキエリは部屋を出て言った。


 キエリは悔しさに震えていた、十六歳のキエリは今年騎士団に入団したばかりだ。

 その実力は抜き出ていて、剣でキエリに勝てるのは騎士団の中でも十人いるかいないかである。

 そのキエリよりも実力者達が大敗してしまっている事実。

 だから自分が必ず倒すんだという思いがあったからだった。

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