ノネット村 襲撃
ある集団がノネット村に向けて移動中である。
ここ近年、勢力を拡大しつつあるモンタニュー窃盗団、総勢30名。
この窃盗団の中でも、精鋭の部類に入る。
集団の先頭に頭であるハシッド、その後ろにハシッドの右腕と言える三人、通称『三鬼』が続く。
一方イオアニス村に向かわせたのは、どちらかと言えばどうでもいい、捨て駒になってもなんともない者達を送り込んだ。
それでも窃盗団の頭であるハシッドは、奇襲作戦を授け、奴隷売買の為のエルフを何人か確保出来ると踏んでいた。
もう少しでノネット村に着く所で先頭を行くハシッドに、三鬼の一人『アムディル=モイス』が声を掛ける。
アムディルはこの窃盗団の中で一番の古株だ。
「なぁ、お頭、一つ聞きたい事があるんだが、いいですかい?」
「ん?なんだ?」
「あの村を攻めるのに、お頭とオレら三鬼、この面子は多過ぎじゃありませんか?」
「まぁ、そうだな、アムディルお前一人でも事足りるだろうな」
「何か思惑があるんで?」
「あの村の村長リーナを完全な下僕とする為だ、あの女は気が強い、タダでは心が折れない、だから完膚なきまで叩き折る、それとリーナの娘もいい女に育っているだろう」
「そうゆう事ですかい」
「まっ、そうゆうこった」
窃盗団が村に近づくとノネット村の人々の動きが慌ただしくなった。
今度は三鬼の内のもう一人『トーマス=サザーラン』が質問した。
トーマスは三鬼の中でも一番の実力を持つ、そして男前だ。
「お頭、なんの作戦も聞いてねぇけど、どうするんです?」
「作戦なんて考えてねぇよ」
「まぁ、そうなんでしょうね、で、どうするんです?」
「とりあえず村の入り口にでも陣取れば、誰か挨拶しに来るだろ、それと全員に伝えろ、指示があるまで絶対に動くな、命令違反は死罪とする」
「了解、すぐに伝えます」
「特に、ミカネルお前が一番心配なんだが?」
三鬼の内最後の一人『ミカネル=レップル』は一番頭がキレる、そして残酷で、すぐに手が出る。
「否定はしねぇですけど、お頭の命令なら絶対守りますよ、後が怖えぇですから」
「オレは優しい人間なんだがな」
「誰が言ってるんだか」
そんな会話をしながら、村に着き入り口に陣取った。
ハシッドを中心に右にアムディル、左にトーマス、その左にミカネル。
その他は四人の後ろに並んでいる。
窃盗団が来た事は、すぐに村長であるリーナに伝えられた。
リーナは武装を整え、ヴィレムを従えて家を出た。
前村長であるリーナの夫の仇を必ず討つと心に誓って。
村の戦闘員十二人以外は家の中にいるように伝えた。
リーナを先頭に村の入り口に向かい、両陣営が睨みあった。
ハシッドが最初に口を開く。
「リーナ久しぶりだな、二年ぶりか?」
「お前の首は私が貰い受ける、覚悟は出来ているのだろうな」
「覚悟ねぇ、どうしても一戦交える気でいるみたいだが、お前がオレの物になるんだったら、この村には手を出さないでいてやる、悪い話じゃないだろ?」
「誰がそんな事信じると思っているんだ、それにお前の物になる訳が無いだろう?」
そこにアムディルが口を挟む。
「お頭、そんなの誰も信じませんぜ」
「お前が言ったら、元も子もないじゃないか」
窃盗団全員が笑っている、そしてハシッドが提案をする。
「そうさな、どうしてもオレの首が取りたいって言うなら、このアムディルに勝ったら相手をしてやる」
「ふざけるな!、臆病風に吹かれたか?」
リーナが戦闘態勢に入る。
「オレに押し付けるんですかい?」
アムディルはおどけているが、やる気満々だった。
「おい、アムディル、一つ言っておくぞ、あまりキズ物にするなよ」
「そんな注文聞けるか分かりませんぜ、まぁやるだけやってみますけど」
「母さん、オレにやらせてくれ」
ヴィレムが叫んだ。
「これは村長としての戦いだ、あいつを倒してハシッドも倒す、お前は他の盗賊達を注意しときな、何を仕掛けてくるか分からないからね」
そう言うとリーナは前に進み出ていった。
両者とも得物は同じような剣だが、リーナの方が刀身が長い。
先に仕掛けたのはリーナ、女性とは思えない剣さばきだが、アムディルは難なく剣で避けている。
リーナの方が優勢に見えるが、その実、攻め切れないでいる。
(女だからって少し侮りすぎたな、だがそろそろ決着といきますか)
少し疲れが見え始めたリーナの隙をつき、アムディルの攻撃がリーナの剣を弾き飛ばした。
「なっ!」
アムディルは剣の切っ先をリーナの喉元に向けた、勝負ありだ。
そこにハシッドが歩み寄り、リーナの顎を指で持ち上げ言った。
「残念だったな、こんなんじゃオレには遠く及ばない」
リーナは腹を殴られ、気絶させられた。
そして物陰から一人の少女が剣を片手にミカネル目がけ切りかかった。
「父さんと母さんの仇!」
ミカネルはスッと避けて少女の腹を蹴り上げた、そして剣を奪う。
その少女はフローラだった。
「仇を討つ」
フローラは、うずくまりながら言った。
「てめぇ、オレにこんな事して生きていられると思うなよ」
そう言うと剣を抜いた、しかしハシッドがそれを止めた。
「ミカネルそこまでだ、それ以上手を出すな」
「だけどお頭、コイツはオレに剣を向けたんだ、万死に値する」
「ミカネル、オレの命令が聞けないのか?お前は女を押さえとけ」
「あぁ、分かった、分かったよ、クソッ」
「この女も連れていく、いいな」
「おい女、命拾いしたな、チクショウ」
ヴィレムや他の者達はリーナが簡単に負けてしまい、さらには人質に取られ、手出しが出来ずにいた。
しかもフローラまで囚われては、どうする事も出来ない。
そして悪いことは続くもので、そこにアシリアが現れてしまった、両陣営の真横から。
それを見たヴィレムが叫ぶ。
「アシリア逃げろ」
アシリアは何が起きているのか理解出来なかった為、その場に棒立ちになってしまった。
「何が?起こっているの?」
すかさずハシッドが命令を下す。
「トーマス、あの娘を無傷で捕らえろ」
トーマスは命令された瞬間に動き出し、アシリアの腕を取り動きを封じた。
「キャッ、な、何をするの、あなた達は何者なの?お母さんに何をしたの?」
そこにハシッドが近づいてきた。
「やっぱりいい女に育ってるじゃないかぁ」
「あなた誰よ?」
「オレは誰かって?こいつらの頭をやってるハシッドってもんだ」
「お母さんに何をしたの?それにフローラまで!」
「オレ達は何もしていない、リーナがオレの首を取るって言いだすもんだから、オレの右腕であるあいつに相手をさせて、リーナが負けたのさ」
そう言ってハシッドはアムディルを指さして笑っている。
「嘘よ、お母さんが負けるはずがない」
アシリアはヴィレムを見るが、ヴィレムは両拳を握りしめ悔しそうにうつむいているだけだった。
「ここにいる全員が見てるんだぜ、それにフローラちゃんだっけ?あの娘はあろうことか、オレの仲間に突然切りかかってきたんだ、だから捕らえた、連れて帰ってよ~く事情を聞かなきゃな」
「そんな」
アシリアの顔が青ざめていく、そこへハシッドが追い打ちをかけるように提案という脅しをかける。
「なぁアシリアちゃんよぉ、一つ提案があるんだけどさぁ?」
アシリアがハシッドを睨みつける。
「そんな怖い顔すんなよぉ、オレ達は窃盗団だが、なにも全てをかっさらおうって言うんじゃねえんだ、もしアシリアちゃんがオレ達と一緒に来てくれるってんなら、オレ達は村には入らず、このまま帰ってもいいんだけどさぁ」
「なっ」
アシリアは言葉を失った。
「まぁ、アシリアちゃんしだいって事だな」
ハシッドは笑いながらそう言った。
どうしたらいいか分からないアシリアがヴィレムの方を見ると、誰かが後ろから歩いて来るのが見えた。




