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空から人が降ってくる  作者: 五月琵琶
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起床転落


「やばい、遅刻遅刻!」

 目覚ましの音で飛び起きた私は、どたどたと階段を駆け下りる。洗面所で顔を洗い、パジャマのままダイニングの椅子にすとんと着席。ちょうどテレビがいい位置に来る場所を定位置するこの席は、同時に朝食を作る母親に頭をはたかれやすい位置にもなるので、案の定はたかれる。


「あらおはよう。都合のいい頭だわ。遅刻癖の娘がふたりもいてストレスが溜まっているの」

「んーおはよう。朝飯ちょうだい。」

「はいはい。もうできるから、顔でも洗ってきたら?」あ、分かって言ってるな?


 家は和食派なので、決まって朝は味噌汁。主食の白米をよそうのは自分自身なのがこの家のルール。おかずになるネギ入り卵焼きを隣で作ってるのが見えたので、私はご飯を少し多めに茶碗に盛る。炊飯器を閉めるとスリッパの音が聞こえてきて、

「おはよう、お姉ちゃんわたしのぶんもご飯よそって」

さっそくだわもんがおるぞ。


「いただきます」合唱。い、しか重ならない3人分の声を合図に思い思いにご飯を食べ始める。母は味噌汁、私は卵焼き、妹はデザートから。

 ゆっくりと食事と会話をする母と妹を尻目に、話題の提供元であるテレビの内容もほどほどに私は手早く食事を済ませる。今日はまだ準備が出来ていないのだ。着替えねば。

 歯ブラシを咥えながら自分の部屋へと戻り、

「やばい、遅刻遅刻! やばい、遅刻遅刻! やばい、遅刻遅刻! やヴぁ…」

なぜかまた鳴り響きだした目覚ましをチョップで止め、携帯を充電器から引っこ抜く。あとは鞄の中身をチェックして、ハンカチも忘れずにポケットに入れる。あー、二日休んだはずなのにかったるい。

 家の中だから愚痴が出る出る。

「なんでこんなに月曜日って眠たいんだろう、もっと祝日増えればいいのにな」

「お姉ちゃん、そういう日は結局昼まで寝てるじゃん」

 よく歯磨きしながら着替えられるよね、といつの間にか2階に上ってきた妹が怪訝そうな顔をする。こういうのは慣れだから気にしないで。かくいう妹も鏡見ずに髪セットするの上手いのでおあいこだろう。

「先洗面所使うから」

「どうぞ」

 どちらも、洗面所がひとつしかないために編み出された技だなだと私はふと感じた。


「ちょっとまって、洗濯物まだあるから」

 さっきまで着ていたぐうたらお家セットを家事を始めようとする母に渡して玄関へと向かう。朝の時点でやることはたくさんだ。ああ、私専用の朝代行ロボットがいればいいのに。でも、その場合どんだけ指示を出さないといけないのだろう。そっちの方が面倒くさいか。

 ならば登下校ん時んくらい、家と学校が一直線になればいいのにな。そんな願望は口に出ていたようで、「あら、実際そうじゃない。行ってらっしゃい。」相槌を打たれる。

 ん?どういうこと?

 気づいた時にはもう扉を開けていたので、現状把握に時間がかかる。目の前の視界は青空が広がっていて、………青空が広がっている。おや?道路どこ行った。

 私が探し求めていたものは下を向いたら存在していたが、明らかにイメージしていた角度から見るものじゃない。ほら、道路の交差具合とかビルの屋上の形まではっきり分かるし。飛行機も私の下。

 こういう時は深呼吸。震える手に力を込めて、そーと、そーっとあとずさり…

 

「ちょっとお姉ちゃん、はやくしてよ」

 どんと、背中を押されて、


 あ、これ落ちるわ。


 ドアノブをつかんでいた手が離れて、





「うひゃああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁーーーーーっっ!!!」

 私は、なすすべもなく空中に放り出された。

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