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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黄色は何色か。

作者: 相羽 偉央

「おい! 早く援護兵を連れてこい!」

「支給品はまだなのか!?」

「このままじゃジリ貧だ!」


 怒号が飛び交う。

 そこは、土の地面を人ひとり分ほどの深さの溝であり、十数メートルも続く塹壕には、人がこれでもかというほど詰まっていた。

 大ルーラ帝国 vs グリージャ共和国の最前線、ルマド戦線。

 ここを突破するかされるか、それによってこの八年も続く戦争の結末が決まる。

 

「どうします隊長、ここにいるといつやられるかわかりませんぞ」

「そうは言っても下手に動けない、パニックを引き起こしかねないしな」


 戦争が始まってから、18歳以上の男子はすべて従軍が義務付けられた。

 そして、地元の期待と母の不安を背負って銃を握る分隊長、新島 東機も塹壕で動けずにいた。

 分隊員である西井が、慌てる様子もなく戦闘糧食をかじる。 戦況が硬直してから、既に22時間が経とうとしていた。

 ここにいるのは、主に第三小隊と呼ばれる一小隊のみだ。 しかし、ここが全滅したら戦線は崩壊する。


「増援の魔法部隊はまだ到着しないんですかね」

「先ほど末野少尉が伝書鳩を放していた、じきに援軍が来るだろう」

「それまでにやられてなければいいですけどね」


 吐き捨てるように呟く西井。 その声を聞いたものでも、誰一人として説教する人物はいなかった。

 この戦争の始まりでもある魔法の存在。

 それは戦場を大きく動かす力であり、世界までも制することの可能な悪魔の業。

 そして、国と国の対立を大きくする原因なのであった。

 ここにいる第三小隊は、主に魔法の使えない歩兵で構成されている。

 現在、第四魔法小隊が敵魔法小隊と交戦し、それによって歩兵は塹壕を出ることを許されない。

 

「なんとかして生き残ろう、戦争を終わらせるんだ」

「もちろんっす、俺にも母ちゃんが待っ――――――」


 西井と新島の会話は、大きな爆音によって遮られた。

 そして、再び巨大な物が風を切る音。 そして爆音。


「う、うわあああああああああ!」

「どけ! にげろおおおおおお!」


 塹壕内は一瞬にしてパニックに陥った。

 敵の迫撃砲による砲撃、それは魔法部隊が壊滅しないと行えない。

 つまり、それはルマド戦線の崩壊を意味していた。


 狭い塹壕を右に左に人が駆け回る。

 半数は塹壕から這い出て、拠点まで走っていく者、敵陣に走っていき両手を上げる者、それぞれいた。

 そして、例外なく一切合切、魔法により人型を留めなくなった。

 塹壕内にいた者たちは、必死に逃げ惑うがどこへ行く。 逃げ道がなくなってることで、更にパニックを起こしていた。


「落ち着けぇ! 銃を持つんだ! 戦えぇええ!」


 匍匐になりながら、人に踏まれるの覚悟で塹壕内を進んでいた新島は、末野少尉の怒声が聞こえてきた。

 だが、それに耳を貸すものはいない。 銃で魔法に勝てるわけがない、そして逃げないと死ぬことは分かり切っていた。

 

「新島伍長! 貴様も敵前逃亡する気か!」

「もう戦線は崩壊です! 撤退しましょう!」

「ぬぁあんだとぉお!? ルーラ男児が敵に背を向け――――」


 しかし、その続きは聞こえてこない。

 代わりに、血しぶきの音、人の頭が飛ぶとき特有の破裂音がこだまする。

 目の前には、銃をこちらに向けたまま立っている体。 その人物を特定するのは、肩や胸にある勲章のみだ。

 そして、その大柄な体が音を立てて倒れると、その後ろから現れたのは大勢の敵軍人。

 

 銃口はすべて、新島の頭を狙っていた。

 

「世界平和を……望んでいるだけなのに……」


 死を覚悟した新島が放った言葉は、あまりに典型的な軍人の言葉であった。

 だが、それは意味を成さず、天使は新島という軍人を迎えには来なかった。


 火薬の音はせず、バタリ、バタリという重い音だけが鳴る。

 恐る恐る目を開けていくと、そこにはただの人の塊が倒れているだけだった。

 そして、その中心には血染めの刀を持つ少女。

 彼女がここにいた軍人を殺したこと、そして彼女が魔法部隊の一員だということは直ぐに予想できた。


「早く撤退なさい、私たち第四魔法小隊は壊滅したわ。 ルマド戦線は崩壊、大ルーラ帝国もお先真っ暗よ」

「――――新島隊長ッ……ガハッ」


 魔法部隊の忠告を聞いていると、後ろから知っている声が聞こえる。

 新島が振り返ると、そこには両手で這ってくる西井の姿があった。


「西井! 無事だっ――――」

「無事じゃ……ないです」


 新島は、言葉を詰まらせる。

 西井が這ってきた道には、土に滲んだ血が天の川のようになっていた。

 そして、西井は立ち上がることはすでに不可能になっていた。 生きているのが不思議なくらいである。


「足を持ってかれ……ました」

「西井ッ……!」

「俺……新島隊長のもとで死ねて……良かったっす」


 砲撃はまだ止まない。 近くに着弾した砲撃の余波で、土が顔にぶつかってくる。

 両足を失くした西井の後が長くないのは、医学の知識がない新島にもわかることだった。


「そこの君! 魔法使えるんだろう!? 回復できないのか!?」

「私は戦闘系しか出来ない、治療は専門外」

「クソッ……」

「いいっすよ……ただ、これを俺の母ちゃんに……」


 震える西井の手には、汚れた一枚の写真だった。 そこには、出征前の西井と母親と思われる人物がいた。

 それを新島が受け取ると、満足そうに目をつぶってしまった。

 

「西井ッ……」

「早くいかないと、敵歩兵部隊が来る」

「あ、あぁ……」


 軍帽を西井の顔に被せると、新島はすぐに立ち上がり走っていく。

 砲撃はまだ止まない。 でこぼこになる地面の底に、西井の亡骸は埋まっていった。

 

***


「戦闘糧食は?」

「これが最後だ、夜明けまでに拠点へ行こう」


 あれから二日。

 森の中、二人の声と小さな篝火が輝いていた。

 再び別拠点で戦線が硬直すると、相手の攻勢も止まり、安息の時間がやってきた。

 しかし、ルマド戦線が崩壊したことで敵軍は一気に近くの拠点を制圧。

 ルーラ軍は前線を大きく下げることになった。


 新島と魔法部隊の少女、シャーロットがいるこの森は、前線よりも敵拠点側に位置する。

 つまり、敵陣のど真ん中ということだ。


「現在の最前線拠点に戻るには、確実にこの町を通らないといけない」

「でも、多分落とされてる」

「ここは切り通しが出入り口の町だ、どうにかして突破しないと駄目だ」


 森からでも明かりが見える場所がある。

 そこは既に敵が駐在し、更に検問を行っている。

 前線拠点に行くにはこれを突破しなければならない。

 松明に火を移し、篝火の火を消す。

 火のパチパチとした破裂音に嫌悪感を示しながら、新島は銃を肩にかけ、移動する準備をする。


「なにか案があるのか?」

「入るだけなら、二人分の透明化魔法が使える。 それで魔力は尽きるけど」

「いや、入れればそれでいい。 それで行こう」


 門の近くまで到達した二人は、松明の明かりを消す。

 そして、シャーロットが何語かわからない言語を呟き始めた。

 すると、暗闇の中で赤紫色に周囲が発光する。 それは一瞬であったが、変化するには十分だった。

 

「本当に消えてる……!」

「時間がない、急いで入ろう」


 そう言ってシャーロットと新島が門の前まで走る。

 門は締まっており、唯一の扉には兵士が立っている。

 新島は、道端に落ちていた手ごろな石を拾い上げ、門から少し離れた所へ投げ込む。


「なんだ……?」


 そう言って、異音の正体を探るために兵士が扉の前から離れていく。

 

「いまだ」


 小声で囁くと、シャーロットも頷き、そそくさと扉から中へ侵入する。

 流石に深夜なだけあり、大半の家は電気が消えている。

 だが、生活の様子から既に一般家庭がいることが伺える。

 中央通りから家の隙間を抜け、路地裏へと出た二人。 そこで、ちょうど魔法が切れ、徐々に体が見え始める。


「よし、あとは抜けるだけだ」

「バレない……?」

「こんな時間だ。 それに前線からも離れている、そこまで巡回も厳しくないはずだ」


 二人は、路地裏から路地裏へ移るように移動していった。

 新島の予想は当たっており、巡回の数は少なく、難なく町を進んでいった。

 

「隠れろっ」


 そう言って、家と家の隙間に隠れる。

 巡回兵も、敵がいるとは思っていないので特に注視せずにガムを噛みながら歩いていく。

 離れると、ホッと一息つきながら新島が隙間から出る。

 門まであと少しだ。 この調子ならバレることもないだろうと考えていたちょうどその時だった。


「誰かいるのか……?」


 違うところにいた兵士が家の隙間を覗いている。

 既に出ていた新島のことではない、なぜか家の隙間から抜けないシャーロットだ。


「なにやってんだ、早く出ろ」

「服が……引っかかって」


 そう言われ、新島がよく見てみると、制服のフリルが家の棘に引っかかっていた。

 引っ張ろうにも耐久性が高い制服は破けない、外そうにも入り組んでいてそう簡単ではない。

 そして、その間も兵士は近づいてくる。


「くそ、破けばいいだろ!」


 新島は、そういってナイフを抜き取り、制服の肩の部分をばっさりと切り捨てる。

 間一髪で抜け出したシャーロットとともに、近くの家の中へ逃げ込む。  


「ただのゴミか……」


 巡回兵は、制服の残骸を見て、また順路に戻っていった。

 新島も流石に懲りたようで、ナイフをしまいながら腰を下ろした。

 家の中だが、大人のいる気配はない。 空き家だろう。


「ふざけんなよ……全く」

「ごめんなさい……でも、あんまりこっち向かないで」


 そう言われ、よく見てみると肩の部分をばっさりと切ってしまったのではだけてしまっている。

 すぐに目をそらし、気にしていない風を装う新島。 こんな時に何考えてんだと自分にツッコミを入れ、再び立ち上がる。


「――――おまえたち、てきのぐんじんだろ!」

「――――なッ!」


 高い声がした。

 すぐさま手を伸ばし、ふり絞った魔力で迎撃しようとするシャーロット。

 だが、その先にいたのは厳つい兵士ではなく、子供。

 その手には、小さい体には不釣り合いなショットガンが抱えられていた。 銃口はしっかりとシャーロットに向いている。


「ガキがいたのか……!」

「子供は想定外……」

「おんな! おまえルルシア人だろ! ルーラに負けたからって、兵士になってわるいとおもわないのかよ!」

「ッ……それは……」

「とうさんのかたきだ――――――」


 子供は、シャーロットが腕を下ろしたのを見逃さず、銃を再び構え、引き金に手をかけた。

 だが、その引き金が引かれるよりも先に、新島の手にした銃が火を噴いた。

 小さい頭を確実に打ち抜き、綺麗なキッチンとダイニングが血で染まる。


「貴方っ、なんてこと――――ッ!」

「早く逃げるぞ! 侵入してるのがバレた!」


 そういって、ショックを受けているシャーロットのことを気にせず、腕を掴んで引っ張っていく新島。

 まるで、あの状況では撃ち殺すのが当然だといわんかのように気にせず走っていく。

 シャーロットは、陰鬱な気分を払拭することはできず、下を向いたまま新島についていった。


***


「ここで休憩を取ろう」

「……」


 洞窟につき、月明かりを頼りに休みを取る。

 だが、シャーロットよりも水滴の落ちる音のほうがうるさい。

 先ほどから一言も話さない。


「どうしたっていうんだ?」

「貴方は世界平和を望んでいると言った」

「急にどうした?」

「……貴方の黄色は、本当に黄色なの?」

「……いや、言ってる意味が分からないんだが」


 唐突に、話を切り出したシャーロットに新島はついていけなかった。

 だが、シャーロットにとっては十分核心をついた質問であったのだ。


「貴方は……土台はなんでもいいの?」

「だから、さっきから何を言っているのか全く分からないんだが」

「――――ずっと考えてた、私がなぜ第四魔法小隊で唯一生き残ったのかを」


 その時、夜明けが訪れた。

 太陽は、地平線から現れ、平等に世界を照らしていく。 だが、その光は早い者勝ちだ。

 洞窟の入り口に立ち、新島を正面に見るシャーロット。 その背には太陽光が輝き、シャーロットの大きな影を作る。

 

『号外放送です。 大ルーラ帝国は降伏しました。 我々の勝利です。 我々の勝利です。』


 号外放送が爆音で流れてくる。

 その音は響き、洞窟の中にいる新島にも十分聞こえていた。


「そんな……やはり負けたのか……クソ共和国民め……」


 地面に手を付けてうなだれる新島。 予想していたこととはいえ、ショックが大きかった。

 シャーロットの表情は、新島からはまぶしくて見ることが出来ない。


「ねぇ……」

「どうし――――」


 そう声を掛けられシャーロットの方を向いた新島。

 シャーロットから延びる腕は、新島を狙っていた。 手には、魔法陣。





「貴方の世界平和は、なにになるの?」




 そして、ただ響いた爆発音は勝利放送によって掻き消された。



『号外放送です。 大ルーラ帝国は降伏しました。 我々の勝利です。 我々の勝利です。』

友人からミリタリー話を聞かされた影響と、その他諸々の運命が重なって、書きたくなったので殴り書きしました。

軍事表現とか全くの初心者なので、足りないところもあるかと思います。

三人称も実は初めての挑戦だったりで、拙のチャレンジも多々含んだ作品でしたが、読んで下さりありがとうございました。


短編はノリと勢いとパスタで書くので、どうかまた見かけたらよろしくお願いします。

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