問3
「貴様、何を……」
「これさ」
僕は手の中に残っていた、長径5cmほどの楕円形の輪を示す。そう、これは――
「0、か……!」
「僕は君が攻撃に集中して僕から気を逸らした瞬間、予め準備しておいた0を、座標軸――つまりxとyに振りかけたのさ。xとyにかけるということは、両辺に0をかけるということ。すなわち、数式は0=0となり、グラフは消失する……!」
僕はここぞとばかりにポーズをキめ、ドヤ顔で言い放つ。
「0をかければ全て0になる……文系でも知っていることだよ」
「てめぇ……! こうなったら、これを抜いてやる!」
彼は腰に佩いていた剣を僕に向けた。それは両端がロココ調っぽくくるんとしていて、Sの字を縦に引き伸ばしたような形をしている。あれは……。
「インテグラル……」
「そうだ、これは積分の記号“ ∫ ”。この剣戟を喰らえ!」
「しまった……っ!」
反比例に囚われている間に僕たちの距離は縮まっていたため、僕は彼の降り下ろした∫に対応できない……!
ザク、という音を聞いた時には、インテグラルソードは僕の体を斜めに通過していた。そして――
「くっ……体が肥大化していく!?」
みるみるうちに僕の体は巨大化していき、2m、3m……5mを越えた。
「積分とは、微分と逆に次数を上げる計算だ。それを喰らったお前は体を構成するあらゆる数式の次数が上がり、結果、巨人になったってわけだ」
「くそ……」
彼の狙いは分かっている。僕の体、つまり的を大きくすることで、彼の必殺技である微分を当てやすくすることだろう。そしてその狙いは正しい。この小回りの利かない体では、僕は彼の攻撃を避けることができない。
「これで終わりだ、シブン。浪人したら駿台に行くか河合に行くか、今のうちに決めておくんだな」
ポケットから“ ' ”を2つ――1度積分したから2度の微分が必要なのだ――取り出しながら<殺人関数>が言う。その顔には、勝利を確信した余裕の笑みが浮かんでいる、が――
「君の方こそ、代ゼミか東進か決めておくべきじゃないかな」
「0をかければ全て0になる……文系でも知っていることだよ」
これはなろう名文スレに載る。間違いない。




