問2
ヒュンッ、と音をたて、黄金の矢が彼の放った点に向かっていく。そして点と矢は僕と<殺人関数>との間で激突し、点は明後日の方向へ、矢は地面――先程「1922年」が舞い降りた辺りへ突き刺さった。
「ほう、オレサマの“ ' ”を逸らすとはな」
「国語常識は得意なんでね」
やはりあれは“ ' ”――微分する時に関数f(x)のfの肩に出てくるアレか!
微分とは、式の次数を下げる操作。僕が存在しているのは3次元の世界だから、まともにあれを喰らえば2次元、つまり平面の存在になってしまう。そうなると僕はペラッペラになり、戦闘不能で不合格してしまうのだ。だから、あの技を受けるわけにはいかないのだけど……。
「だがまだだ! 喰らえ、y=1/xッ!」
彼が両手を大きく広げると、僕の体に謎の直線が描かれる。右肩から左肩へ、そして爪先から頭へと走り、胸の辺りで直角に交わった直角――これは……!
それに気付いた途端、僕は体の左上と右下から重圧を感じ、動けなくなった。
「ぐっ、こ、これは……!」
「そうさ、これは反比例の式だ。お前の体に浮き上がった2本の線はグラフの軸、斜め上からプレッシャーをかけているのは、反比例のグラフだ」
数式y=1/x は、そのグラフを第一象限と第三象限に描く。だから僕は、彼の方から見て第一象限と第三象限に当たる僕の左上と右下から、強い圧力を感じているのだ。
そしてこの状況。このままじゃ僕は動けない。今も一歩ずつ迫ってくる<殺人関数>は、容易く僕を仕留めることができるだろう。
「さて、今度こそ微分してやるよ、シブンくん」
そう言って彼は、再びポケットから“ ' ”を取り出す。それを握った右手を振りかぶり、僕に叩きつける――
しかしその前に、僕は彼の前から姿を消していた。
「何ッ!?」
得意技の微分が空振った彼は虚を突かれて周囲を見回し……すぐに僕を見つけた。まあ、ここに隠れる場所なんてないし、ちょっと横に逸れただけだからね。




