7:お茶会と不届きもの
今回は山大様からお一人お借りしています。
ローブの裾を丁寧に持ち上げ、顔は伏せず、視線だけを階下に向けたまま一段一段上っていく。
東屋の階段を登り切った私は、待ち受けていた目の前の人物に対して、最上級の礼をした。
「本日はお招きいただき光栄です。ユーナ殿下」
「ようこそいらっしゃいました。楽しみにしていたわ、ミア」
そう言って、ユーナ王女殿下は嬉しそうに微笑む。光沢のある青色の生地をふんだんに使った、それでいて華美になりすぎないドレスを身に纏い、背筋を伸ばして佇む姿は、愛らしくも気品に溢れていた。
今日、私はユーナ殿下主催の庭園茶会に招かれていた。主催と言っても殿下の個人的なもので、招待客は私ともう1人のみ。
「あなたも座ってね、エマ」
「……はい、失礼致します」
そのもうひとりの招待客──エマが、殿下に促され、ややぎこちなく椅子についた。護衛見習いとしてこの場にいるエマは、学院の制服でもある訓練着を身に纏っているというのに、式典用のローブを着る私やドレス姿の殿下よりよほど動きが鈍い。どうやら緊張しきっているようだ。らしくない様子に、口元が緩みそうになるのをそっと噛み殺す。
使用人がそれぞれのティーカップにお茶を注ぎ、茶菓子を並べる。主催の殿下がお茶とお茶菓子に口をつけるのを待って、私とエマもカップに手を伸ばした。
ユーナ殿下がす、と手を上げる。使用人が一礼して、音もなく退室していった。流れるような人払いは、あらかじめ意図されたもの。
「こんなまどろこしいやり方でごめんなさいね。王宮もなかなか面倒なのよ」
「気になさらないでください、殿下。殿下の立場では仕方がありません」
「お父様もお兄様も過保護すぎるのよ」
拗ねたように小さく頬を膨らませるユーナ殿下に、つい苦笑が滲む。こんなふうに子供じみた一面を見せていただけるようになった事情こそが、過保護の原因だというのに。
「仕方がありませんよ、殿下。現在、我が国において……いえ、この世界において、異世界人の価値は途轍もなく高く見られておりますから」
「異世界人というだけで同じ括りに入れるのは、心の底からどうかと思うの……本当に……!」
「それに関しては、心から同情いたします」
カップに添えた手を小さく握りしめて切々と訴えるユーナ殿下に、私もエマも深々と頷いた。
「僭越ながら、発言をお許しいただけますか。王女殿下」
「ユーナと呼んでくださいな、エマ。ここは秘密の女子会よ、ここでしか言えない愚痴を言う貴重な場所なの。ミアから貴女も絶対言いたいことが溜まっているはずだと聞いての招待なのだから、どんどん言ってちょうだい」
半ば据わった目で促したユーナ殿下に、エマは少し躊躇ったようだけれど、結局はエマらしく率直に表現することを選んだようだった。
「……畏まりました、ユーナ殿下。──百歩譲ってフウと同じ扱いされた時点で、私なら胃に穴が開きます。もう1人に関しては、もはや同じ人間の括りに入れてほしくありません」
「エマ、遠慮をなくすのはともかく、配慮はしてもいいのでは……」
控え目に意見を述べるも、エマは澄ました顔で私の訴えを黙殺した。ユーナ殿下がくすくすと笑う。
……前ヴァスト国王が「異世界から来た英雄」によって倒された後。前ヴァスト国王に抗う血族の祖先が異世界人であったことも併せて、異世界人を「この世界に恩恵を与える特別な存在」と見る人が一気に増えた。教会や我が国が筆頭となって、重要なのは成し遂げた功績そのものであることを説いているけれど、それでも「異世界人」というだけで価値があるという考え方を持つ人は、国の上層部にすら少なくはない。
ユーナ殿下は、「英雄」よりも先にこの世界へと迷い込んだ異世界人だ。王家に匿われずっとその事実を隠して生きてきた。もちろん今も知っているのはごく一部ではあるけれど、人の口に戸は立てられない。「異世界人」への注目が高まっている今は尚更だ。それ故に、お茶会ひとつ開くにも王家の方々がひどく神経を尖らせていると聞く。
そんな中で私やエマが招かれたのはとても光栄なことだ。殿下のお茶相手として──口が固く信頼できる、と認められたということなのだから。
……ユーナ殿下にとっては、それよりも私やエマが「異世界人」を色眼鏡なしで見るということが重要なのだろうけれど。
「それにしても、先日の報告は驚きました。彼がこの世界に客人として訪れるのは、もっとずっと先のことだと思っていましたもの」
ノワールと再会した時のやりとりは全て私の胸ひとつに収めているけれど、ユーナ殿下には私的ルートを利用して来訪の報告はしていた。彼が国賓級の英雄と見做されている限り、知りませんでしたでは済まないのが国というものだから。
それに対して改めて感想を口にしたユーナ殿下に、エマが大きく頷いて同意を示した。
「本当に。しかもてっきりミアを攫いにきたのかと思いきや、普通に置いて行くし……」
「もう……まだそんなことを言っているのですか、エマ?」
「ミアの気持ちは理解してるけど、あいつの態度に関しては次に顔を見たら声が枯れるまで文句を言ってやるつもり。そこは譲らない」
「あら、その時はぜひ私も同席させてね?」
楽しそうな顔で何を頷き合っているのか、この2人は。私はなんとも言えない気持ちで、そっと苦笑いを飲み込むためにカップに口をつける。
その後も他愛のない話題がしばらく続いた。エマも徐々に慣れてきたようで、余計な肩の力が抜けて彼女らしい語り口で会話を盛り上げてくれる。
貴族の護衛としてもやっていけるようにとエマ自ら学んでいる行儀作法もかなり仕上がってきている。けれど、やはり本人はそれなりに負担に感じているようで、実質無礼講に等しいこの場はいい息抜きになるのかもしれない。もちろん、今後も招かれるかどうかは、ユーナ殿下の心ひとつではあるけれど。
ユーナ殿下が紅茶のおかわりを自ら用意してくださるのをありがたくいただく。最初は私がやろうとしたのだけれど、「こんな時くらい自分でやりたいの」と我が儘の形で押し通されてしまった。
「殿下は、以前はご自身で紅茶を入れていらっしゃったのですか?」
「もちろんよ。私はどちらかといえば、エマに近い立場でしたもの。友人が紅茶の淹れ方にこだわりがあって、コツを教えてもらったからそれなりに得意なのよ。もちろんこちらに来てから、淹れ方は鍛え直されたけれどね」
さらりと語られた以前の生活に、そっと息を吸い込む。彼もそうだったけれど、これまでと全く異なる文化の地で生きていくというのは、きっと想像するより遥かに大変で、学ばなければならないことが多いのだろう。
エマもそう思ったのか、不用意に話を振ったことをやや後悔する表情になった。それに気づいたユーナ殿下が苦笑する。
「大丈夫よ。吹っ切れた……と言い切るわけではないけれど、ここでの生活にきちんと根付いているから。それに私は元々住む場所を転々とする時期が長かったから、別の文化に馴染むのは得意なのよ?」
「そんなことが……?」
「移民、みたいなものですか……?」
驚いた私とエマの問いかけに、ユーナ殿下は小さく首を傾げて答えた。
「ううん、少し違うわ。定住していたけれど、定住地が数年単位で変わるの。いわゆる外交使のような一族だったと思ってもらえれば、おおよそ間違いないわ」
「なるほど……」
その説明で、学友の顔が数名浮かぶ。なるほど、確かに彼らから聞く話と重なる部分がある。顔の広いエマも同じなようで、何度か頷いている。
「それに──」
「邪魔するぜ」
「!」
「殿下!」
咄嗟に立ち上がり、声の聞こえた方角を向きつつ杖を構える。エマはすでにユーナ殿下を背に庇う位置で構えていた。
「お、なかなかいい動きするじゃねえか。いいねえ、うちのもんにも見せてやりたい」
満足げな声を出しながらも、表情はニヤニヤと軽薄な笑いを浮かべた男。黒一色に統一された服装に、ノワールにも負けない長身。横幅はこの男の方があり、騎士のように武器を振るうべく鍛えているようだ。片手をポケットに突っ込みだらりと立つ姿は油断しきっているようにも見えるけれど、私の目には余裕の表れに見えた。エマもそう思ったのか、腰に添えていた手に力がこもる。
「……ここがどこか、どのような場か理解しているのでしょうね」
「まあ落ち着けや。俺は嬢ちゃん達の敵じゃない」
顔を一文字に横切る火傷のような傷跡を歪ませるようにして笑う男に、エマがゆっくりと魔道具を抜いた。
「いやはや、おっかないねえ」
「くだらない惚けは結構よ」
男の戯言をエマが一言で切り捨てる。私も魔力を練りつつ、慎重に問いかけた。
「少なくとも、無断侵入の不審者でしょう。周りにいた護衛はどうしたのですか」
「あー、あいつらちょっとばかり働かせすぎじゃね? 疲れてるのかぐっすりだったぜ」
「……」
つまり、この男が単独で制圧したということだ。声を掛ける瞬間まで私たちに悟らせなかったことを考えても、ほぼ抵抗を許さず制したとみて間違いない。
そう判断した私は、そっと体の位置をずらしてユーナ殿下をしっかりと背に庇う。魔道具に魔力を注ぎながら、いつでも障壁を張れるよう口の中で詠唱を始めた。
「……あー。ちょっとばかし『落ち着かないかお嬢さんたち。俺はただ話をしにきただけなんだ』」
「え──」
「耳を塞いでください!」
咄嗟に叫んだ私は魔道具を起動した。エマも、ユーナ殿下も包むように障壁を展開してその男の言葉から守る。
「……マジか、こいつは驚いた。こっちに言霊の概念はねえって聞いてたんだがな」
軽く目を見開いた男が、私をまじまじと見つめた。その反応で確信した私は、にこりと笑って言い返した。
「以前に聞いたことがあります。世の中には、友好的な会話をするふりをして言葉に魔力を練り込み相手を傀儡化するような碌でなしがいる、と。私の持つ魔力は通常より耐性があるから、おかしいと思ったら障壁で魔力を遮り決して口車に乗ろうとするな、むしろ交渉の席に誘われても絶対に座るな、と」
スラスラと記憶したままに口にすると、男の顔が微妙に引き攣る。
「…………なあ。なんか無茶苦茶具体的っつーか、ピンポイントに想定されてねえ? 誰に聞いたん?」
「あら。そのように言われてしまうだけの心当たりがおありなのですね。私の判断も誤っていなかったようです」
「うわ、なんかもみじみたいでやりづれえ……」
ガシガシと頭をかいてぼやく男と私のやりとりに、エマが少しだけ私の方を見て恐る恐る問いかけてきた。
「ちょっと、ねえ。それってもしかして、この男……」
「はい。私も半信半疑でしたが、おそらく間違いないと思います。……貴方は、我が国の英雄の、知人ですね」
「ぶっはっ!!」
「……あ、なるほど。これは間違いなく知り合いね」
私の言葉に盛大に笑い転げだした男を見て、エマが納得したように頷く。こっそりユーナ殿下まで頷いていたのは、気づかなかった振りをした。
しばらくの間笑い転げた男は、ようやく落ち着くと転げ回っていた床にそのまま座り込んだ。いかにも荒くれ者然とした顔に無理のあるにこやかな笑みを浮かべ、さらりと嘯く。
「ま、そういうわけだ。俺はノワールの古い知り合いでな、瀧宮羽黒ってんだ。あいつにちょっと頼まれてこっちの様子を見にきてな」
「嘘ですね」
「嘘ね」
私とエマの声が綺麗に重なってしまう。思わず顔を見合わせたくなるのを堪え、微妙な顔をした男──タツミヤハクロを、にこりと微笑んで見下ろす。
「彼はこちらの世界に関わらないことで彼らの問題に巻き込まない、と言いました。わざわざ知人をこの世界へ転移させてまで、接触を図るとは思えません」
「というか、あいつが誰かに様子見を頼むとかありえないでしょ。むしろもう用済みとばかりに忘れられてても驚かないし」
「いえあの……そこまでは流石に……ですが、頼まないだろうというのは同意見ですね」
「あんたら結構、ノワールに容赦ねえな……?」
タツミヤハクロが何故だか引き攣ったような表情でそんなことを言うので、思わず小首を傾げてしまった。エマも同意見だったようで、率直な言葉をぶつける。
「むしろあんた、本当にあいつの知り合いなの? ってくらい見え見えの嘘なんだけど」
「言うねえ。ま、確かにどっちかっつーと俺個人の興味かね。あのノワールが学生……ぶっくくっ……失敬。学生、っとして、仲良くやってたっつー相手がどんな奴らなんかと思ってな」
「はあ?」
エマが思い切り顔を顰めた。すでに遠慮を無くしている友人のらしい態度に過度な緊張が取れるのを感じつつ、タツミヤハクロの言葉に慎重に耳を傾ける。
「ノワールの報告書ってこう、無駄に細かくてきっちり書いてある割に肝心なところはしれっと隠してあったりすんだよな。あんたらのこと、「同じクラスの学生」としか書かれてないのってどーなん?」
「単純に興味ないんでしょ。……やっぱり次会ったら殴る」
「文句から殴るになりましたね」
ユーナ殿下がこっそり呟いた。私は表情の選択に困りつつ、タツミヤハクロに続きを促す。
「ま、そういうわけでだ。俺としては、その「学友」がどんな奴らなんか、ちょっと見てみたかった。ついでに、あいつが好き勝手暴れた世界を観光でもしてみようかとね」
「観光……」
「王宮は観光スポットとしては代表格だろ?」
「んなわけないでしょうが! 不敬罪で首飛んでもおかしくないわよ!?」
エマが吠えるように反論する。確かに祭典では王宮入り口の広場を開放することもなくはないので、私や殿下はやや反応が遅れてしまった。
「まあまあ、そこは余所者の物知らずっつーことで見逃してくれや。ほら、ノワールの最近の様子とかも教えるからさ」
「え」
「おや、興味があんじゃん?」
「私じゃないわよ!!」
……なんとなく、ではあるけれど。この男、エマを揶揄うのに楽しみを見出し始めている気がする。思わずため息をついて、私から声をかけた。
「それでは聞きましょうか。彼は今何をしているのでしょう?」
「んー、襲ってくる敵を皆殺し?」
ひゅ、と息を飲んだのは、エマ。ぐっと何かを飲み込んだのは、ユーナ殿下。多分、私も一瞬息を止めていた。
けれど。目の前の男は、自身の言葉にもわたしたちの反応にも、軽薄な笑顔のままだ。エマを揶揄う態度のままで、彼の罪を語る。
──それが今の彼にとって必要なことだと、分かっているから。
「……理解できました」
「んー?」
「あなたは正しく、彼らの協力者なのですね」
「それ、あいつらめちゃくちゃ嫌な顔すんだろうなあ」
男は否定も肯定もせず、ただただその吊り目に残酷な色だけを乗せ、無邪気な笑みを浮かべたままそう言った。
ふう、とため息が思わず漏れる。未だ肩を強ばらせたままのエマの方を向いて、微かに苦笑してみせた。
「エマ。おそらくこの男は、一切の気配りをやめたノワールのような認識でいいと思います」
「……何それ最悪じゃない、人としてどうなの?」
「はっはー、いやあそれほどでも」
「褒めてはいません、貴方より性格の悪い方を存じていますし」
「……いや、あいつマジすげえな」
そこで微妙に表情を崩す辺り、あの性格の悪い男に一度は何かしらの被害を被っているのだろう。その部分だけは同情する。
エマが少し気になりそうな顔をしたけれど、私が軽く首を振ると何も聞かずにタツミヤハクロに振り返った。
「で? ノワールが迷いなく鬼畜人生送ってるのは分かったけど、そもそもなんであいつを襲おうとかいう馬鹿がいるわけ? 自殺志願者なの?」
「迷いなく言い切るねえ嬢ちゃん、異世界がおっかないとは思わねえの?」
「あんなのばっかりいるのが人間の住む世界なわけないでしょ、馬鹿なの?」
「あの……エマ、ですから配慮は……」
相も変わらずノワールに対して厳しいエマにやんわり言うも、エマはむしろ不思議そうに首を傾げた。
「え、だってミア達の話を聞く限りそうでしょ。腕吹っ飛んで数秒後に生えるのは人間じゃないと思う」
「……その報告、何度聞いても信じ難いのだけれど、本当なの? ミア」
「いえあの……はい……」
それは確かに、私も驚いたけれど。それに、彼女達はノワールの治癒能力が元は吸血鬼と同じものだと知らないので、色々と反論しづらくて頷くしかなかった。
視線を感じて振り返ると、タツミヤハクロが伺うような視線で私を見ていた。視線だけで小さく頷いてみせると、タツミヤハクロは軽く肩をすくめる。その動作で、彼は知っているけれど、黙っていてくれると悟った。少しほっとする。
「言われてんねえ。まーでも実際、あいつを直接殺そうと突撃かます奴はそうそういねえらしいけどな。本人もたまに暇して研究してるっぽいし」
「研究……」
ノワールはノワールで相変わらずのようだ。そんな状況でも魔法に打ち込んでいるその姿勢に、少し呆れてしまう。
「フウじゃないけど、魔法バカは相変わらずってわけね」
「ま、そーさな」
エマも呆れた様子でそう言った。タツミヤハクロがニヤリと笑う。そのやり取りを見た後で、ユーナ殿下が恐る恐る、といった様子で声を上げた。
「……あの、瀧宮羽黒様」
「おいおい、俺はお姫様に様付けされるよーな……、……ん?」
ふと、何かに引っかかったように、男がユーナ殿下をまじまじと見つめる。即座に身構え直す私とエマをよそに、殿下は何かを確認するように男に問いかけた。
「瀧宮様は、ノワールから『手紙』について何か聞いていらっしゃいますか?」
「……いんや。そう聞くってこたあ、託したか? 『異世界への』手紙を」
「っ、殿下」
咄嗟に警告を告げようとする私の背に、ユーナ殿下の手がそっと触れる。
「いいの、大丈夫。今だけ、見逃してちょうだい?」
「……わかりました」
真剣な声に、仕方なく頷く。それでも背に庇う姿勢は崩さないまま、殿下と男の会話を見守った。
「あなたの言う通り、私は彼に友人への手紙を託しました。……私は異世界から……日本からここへと迷い込んだから」
ユーナ殿下はごくごく身内の場でのみ披露する口調に切り替えている。今は王女ではなく、1人の異世界人として話したいと言う意思表示に、タツミヤハクロは飄々と応じて見せた。
「異世界転移で王女様とはな。確かにあいつも『日本』とは縁があるが、『どっちの』日本かはわかんねーぞ?」
「えっ」
エマが声を漏らす。私も知らない情報に小さく息を呑む。けれど、ユーナ殿下は動じることなく頷いた。
「そうね、ノワールからも聞いてる。おそらく彼の出身である『日本』とは異なる方の『日本』が私の出身地だろうって。けど、そっちにも時々訪れているみたいだったから」
「そこまで話していたのは意外だがなあ」
「だから、もし機会があれば……とお願いしたの。さっきの話で、彼がそれどころでは無い状況なのは分かったけれど」
「俺みたいな知り合いがいるなら、ワンチャン俺にバトンパスしてねえかっつうことな。残念ながら俺も知らんし、誰かがあいつからパスされたっつー話も聞かん」
「……そ、っか」
ユーナ殿下の声が沈む。私の背に触れたままだった手に、僅かに力がこもる。その心情に胸をつかれながらも、私は浮かんだ予感が拭いきれずに、エマと視線を交わした。
「……あの、殿下。お話中に口を挟んで大変申し訳ないのですが、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「構わないわ」
頷いてくださった殿下に突きつけることを躊躇い僅かに口籠ったけれど、意を決して口を開く。
「殿下がその頼み事をしたのはいつのことでしょうか?」
「彼が王宮に初めて招待された時よ」
「初めてと仰いますと、襲撃された夜会の時ですね?」
「そう。襲撃の少し前に、情報のやり取りをするという取引の流れでお願いしたの」
「……手紙を渡したのは?」
「……その次に彼が王宮に来た時だから……襲撃を鎮圧した報酬を渡した後よ。魔法士の血筋たちと彼が会話をした時」
「……」
「……」
私とエマは、もう一度視線を交わした。視界から外さないようにしていたタツミヤハクロにも視線を向けると、エマとほぼ同じ表情を浮かべている。多分、私も似たような表情になっているのだろう。
殿下がかつていた世界の縁に期待する気持ちは理解できる。ノワールと接触し、故郷と関わりがあるとわかった時点で、可能性の低い期待を託すことも当然のことだと思う。
……けれど。
「……あの、殿下」
「……な、何かしら」
ユーナ殿下の声が僅かに震えている。本人も薄々気づいてはいたのだろう現実を、そっと目の前に差し出す。
「大変申し上げにくいのですが……おそらく、失念しているのではないでしょうか」
「いや絶対忘れてるわ。確かその後に仇見つけたんだろ? 王女様のお手紙とか綺麗に忘れ去って吸血鬼に夢中だったって」
「そんな気はしたんだけど、他に頼る人いなかったんだよ……!」
私と違い一切の配慮なしに言い切ったタツミヤハクロの言葉が決定打となったらしい。絞り出すような声とともに、ユーナ殿下が両手で顔を覆ってしまわれた。そのまま泣いてしまいそうな様子に、タツミヤハクロも流石に少し思うところがあったらしく、宥めるような口調に変わる。
「ま、まあ元気だせ王女様。俺の方からあいつにせっついとくから。なんなら俺が探してやるからさ、な?」
「はい……お願いします……ありがとうございます……」
ユーナ殿下が半泣き声でお礼を言った。私も少し安堵しつつ、もしもノワールやあの男に何かの偶然で関わることがあったら、私からも少し言わせてもらおうと心に決める。
「やっぱりあいつ殴るべきなんじゃ……」
「お、代わりに殴っとこうか?」
「ううん、私がこの手で殴りたいから取っておいて」
「あいよ、承った」
エマはエマで、なんだか物騒な言葉をタツミヤハクロと交わしていた。すっかり緊迫した空気やタツミヤハクロへの忌避感が消え失せてしまっているのが、良いことなのか悪いことなのかほんの僅か悩む。
とはいえ、わざわざ口にしてまた空気を悪くするのも躊躇われた私は、エマが気を取り直した様子で話題を変えるのに合わせることにした。
「ところで話戻るんだけど、そっちの世界では腕生えるのって普通なの? こっちじゃトップクラスの治癒魔法使いが寄ってたかって何日もかけて、やっと出来るかどうかって聞いたんだけど。そうよね?」
「はい」
エマの疑問は私も興味がある。視線を向けると、タツミヤハクロは予想に反して少し驚いたような顔をした。
「いやいや、複数人でも治せるって時点で十分すげえだろ? こっちじゃ落ちた腕をくっつけるならまだしも、0からはそうそう出来るもんじゃねえよ」
「そう、なのですか?」
少し、驚いた。ノワールが以前に扱っていた致死傷をも癒す治癒魔法を思えば、治癒魔法もあちらの方がはるかに優れているように見えたから。
「こっちは医療……魔法なしでの治癒技術が進歩著しいからな。魔法だとコスパ悪いってんであんまし研究されてねえのが実情だ。あ、ノワールは例外な。あれは魔力に物言わせて力づくで治してるよーなもんだから」
「「「ああ……」」」
まさかこちら側3人、全員声を揃えてしまうとは思わなかった。少し気まずい思いで、タツミヤハクロが軽く吹き出すのを眺める。私の後ろから同じものを見ていたらしいユーナ殿下は、少し楽しげな声を出した。
「そうなると、ミアの技術はノワールにも勝るかもしれませんね」
「いえ……私は彼に教わった立場ですから」
「んん? どういうこった?」
タツミヤハクロが不思議そうに私をみやる。その反応に驚いてから、ああと気づく。
「そういえば、ご存知ないかもしれません。私は今、治癒魔法使いを目指しています」
「……それはご存知なかったよ。あんた、光属性なんだろ?」
「はい。ですが、光属性の専門家には学院長がいますし、私は治癒魔法の方が適性が高いようですので」
学院でも未だ意見が割れているようだけれど、レオニード先生が背中を押してくれるのもあり、私は光属性の勉強の傍ら、治癒魔法についての知識を深めていた。
「それに、光属性の浄化魔法には、魔物から受けた傷を清める効果があります。光属性が攻撃以外で役に立つ一例を示せたらと思っています」
「ミアは先の戦で怪我人の治療をこなした功績がありますものね。自衛の能力も高いですし、戦場で後方支援を充実させられる治癒魔法使いは貴重です」
何より大きいのは、ユーナ殿下が後押ししてくださっていることだろう。王族の後ろ盾より強いものなど、そうそうない。
私と殿下の言葉を聞いて、男は笑みを浮かべたまま、少しその目を細めた。
「へえ……なるほどなあ。戦うより、癒すを選んだか」
「そう、なりますね。……」
「どうした、嬢ちゃん」
「いえ。大したことではありません」
そう。それは本当に些細な、私が私に向ける期待。
「いつか、お役に立てればいいと。そう思っているだけです」
助けられて、守られて。
私が助けたこともあったけれど、それ以上に助けてくれて、たくさんのものを与えてくれた彼に。いつか少しでも返すことが出来れば、という、期待だ。
「……ほんと、あいつ今直ぐ殴りたい」
エマがそう呟いたのは、苦笑いを浮かべて聞き流した。
「ミア。私は、きっと貴方は貴方の期待に応えられると思っていますよ」
「……ありがとうございます、殿下」
柔らかな声でそう言ってくれる殿下に、少しだけ会釈をする。
タツミヤハクロは、私をじっと見つめていたけれど、ふと破顔した。不思議と、その時の笑顔は軽薄さがなかった。
「──合格だ」
「はい?」
ごくごく小さな声で呟かれた言葉は、私の耳には届かない。聞き返すも、男は応えずにのっそりと立ち上がる。
「んで、嬢ちゃんの治癒スキルはどんなもんなん?」
「え? ええと、一般的な傷であればほぼ問題なく治せますが、時間がかかってしまうのが課題です。それこそ切り落とされた腕を再生させるともなれば、丸一日はかかりますね」
「……お、おお。そりゃすげえな……」
苦笑混じりにそう返答すると、なぜか男が微妙に慄くような様子を見せた。とてもノワールの役に立てる状態ではないのにどうしてだろうと、少し首を傾げてしまう。
「学生の時点でそれが出来るっていうのが既にやばいんだけどね」
「普通は多数で数日かけて癒すものが、1人で丸一日ですからね……」
エマとユーナ殿下がこっそり呟いた言葉に、どうやらこの非常識な男を少し驚かせることができたのだと理解する。それは、少し誇らしくも惜しい。
複雑な感情を抱いた私をよそに、タツミヤハクロは気を取り直したようだ。にっこりと、急に満面の笑顔を浮かべて私に向き直る。
「そういうことなら、嬢ちゃん。ちょっとした商談はどうだい?」
「え?」
「うわ、押し売りだ」
エマの身も蓋もない言葉は笑顔で押し流し、男は滔々と語った。
「そもそも俺の本業は何でも屋……商人なんだよ。そして何の縁か、ちょっとばかし前に嬢ちゃんにぴったりのブツを手に入れてんだ」
「はあ……魔道具か何かですか?」
「んーそんな感じ。ほれ」
ぽいと無造作に投げられ、咄嗟に受け取ってしまう。何を渡されたのかと、恐る恐る手元を覗き込んだ。
「……これは……?」
最初、それが何なのか、直ぐには分からなかった。
手のひらに収まる大きさの、丸く厚みのある銀製のもの。表面が彫られ、5枚の花弁を持つ花が模られている。花弁の部分には透明な石が嵌め込まれていた。
厚みの途中で切れ込みと金具を見つけ、ロケットペンダントのように開閉するものだと気づく。そっと開けてみると、上側はくり抜かれ、下側は複雑な図形が彫り込まれていた。円、三角形、四角形が組み合わされ、文字が細かく刻まれている。赤、青、黄、茶、銀、黒の小さな石が図形の中に配置されていた。
そして、図形の中心にピン留めされるように、長さと太さの異なる3本の棒。それぞれの棒が異なるリズムで小刻みに動いている。
そう、それは、まるで。
「時計、ですか……?」
時を刻む道具に見えた。
「懐中時計に近いですが、文字盤が……」
「これじゃ時間がいまいち分からないわよね……」
いつの間にかエマとユーナ殿下も覗き込んで、難しい顔をしていた。なんとなしに埋め込まれている石に触れて、私ははっと息を呑む。
「これは……魔石、ですか……」
「えっ、本当に?」
エマが驚いた声を上げたのは、おそらく一つでもそれなりの金額になる魔石が複数埋め込まれていることに対してだろう。それにも驚いたけれど、それ以上に、魔石に込められた魔力属性がそれぞれ色の示す──全ての属性を含んでいることに驚く。
普通ならば属性を絞って相互干渉させないはずの魔道具に、全ての属性の魔石を埋め込む。それは、ひどく複雑な魔法を行使する為の、高度な魔道具のみに施される技術だ。
「そうすると……この複雑な彫刻が、魔道具の魔力回路ですか……」
ユーナ殿下もその事実に気づいたようで、感嘆の吐息を漏らしていた。
「これは……どのような魔法を?」
私は顔を上げ、タツミヤハクロに問いかける。楽しそうに笑った男は、そこで何故か首を傾げる。
「さあ、ぶっちゃけよく分からん」
「えっ」
「俺には扱えなくてな。一応、知り合いの魔術の専門家にも何人か聞いてみたんだが、どうやら回復系統の魔術だってことしか分からなかった。そいつらも治癒魔術は専門外で発動出来なくてな。今度ノワールに会った時に聞いてみようと思って持ち歩いてたんだが、治癒魔法の専門家がいるってんなら話は別ってな。丁度いいからやるよ。これも縁だ」
「は、はあ……」
滔々と伝えられた説明に、曖昧に頷く。どういうものなのかも分からない代物を渡されて、私にどうしろというのだろうか。
「──ただ、手に入れる時にこれだけ知った。『これを用いしもの、時を掌握するものなり』、とな」
「……?」
戸惑う私に、男はふと笑みの質を変えた。私を見る黒い瞳は、底なしの深い洞窟のような、深い深い水底のような、手の届かない遥か遠くを思わせる。
「お嬢ちゃんが使いこなせて、その効果を俺に教えてくれるってんなら、それをやるよ。どうする?」
私の何かを試すような問いかけに、背筋を伸ばす。きゅっと唇を引き結び、あらためて手元に視線を落とした。
魔力の流れすら複雑で読み取れないその道具は、けれど不思議と私の手に……魔力に馴染んでいる。何故か手にした瞬間から、私はこれを待っていたような気がしていた。
だから。
「はい」
にこりと、ノワールにしてみせたように、胸を張って笑ってみせる。
「いつか、そう遠くないうちに、お教えしますね」
その言葉に込めた決意を、声に表情に乗せて、タツミヤハクロをまっすぐに見上げた。
「……ふはっ」
タツミヤハクロは、堪えきれないように噴き出した。
「じゃ、交渉成立だ。毎度あり」
「はい。……あの、お代は」
「ん? だからさっき言ったろ、効果を教えてくれることだ」
「えっ、でも……」
「いーんだよ、俺にとっちゃそれが何よりの報酬だ」
そう言うと、タツミヤハクロはふらりと体を動かした。
「そんじゃ、俺はそろそろ行くわ。邪魔したな」
「は、はい」
「そういやこの後始末どうしろってのよ……」
「いやー、悪いな」
好き放題引っ掻き回すだけ引っ掻き回した男は、どこまでも自分の都合でいとまの挨拶をする。エマの恨めしげな声にも軽薄に笑うばかりだ。
ふう、と思わず息を漏らしてしまった私は、気を抜くのが少し早かったのだろう。そのせいで、横をすり抜けたユーナ殿下を引き止め損ねた。
「殿下!」
慌てて制止の声をかけたが、殿下はエマの手もすり抜けてタツミヤハクロに詰め寄る。
「あのっ、瀧宮様! 手紙の件、くれぐれも、くれぐれもよろしくお願いしますね……!」
「うおっ!? お、おう、任されたよ」
「絶対に、絶対にですよ!?」
「わかったわかった、ちっと落ち着け王女様」
必死のあまり両手を取ってまで訴える殿下の勢いに、タツミヤハクロも気圧された様子で宥めにかかっている。止めあぐねる私をよそに、何度も頷くタツミヤハクロの様子に、ほっと息を吐いたユーナ殿下がようやく手を離して下がった。すかさずエマが背に庇う。
「……失礼いたしました、つい」
「い、いや……むしろ、ノワールがなんかすまん……」
気まずげな謝罪の言葉に、私も少し目を逸らしてしまう。その反応でようやく落ち着いたらしいユーナ殿下は、くすりと笑ってから、優雅に一礼した。
「それでは、ごきげんよう」
「おお、王女様に戻って何よりだよ。あんたらも、じゃーな」
「はい、また」
「今度はもうちょい心臓に優しい方法で来なさいよね……」
「はっはっは」
エマの言葉を笑って受け流し、男はその場で掻き消えるように姿を消した。
「……ところで、殿下」
しばらく後。
護衛たちが意識を取り戻し、血相を変えて茶会に踏み込んできたのを宥め、なんとか誤魔化し、あらためてお茶を入れ直して。ようやく落ち着いた頃合いを測って、私はどうしても気になっていたことを殿下に直接問うた。
「先ほどのことなのですが」
「あら、何かしら?」
首を傾げた殿下の手元に目を向けつつ、私は遠慮がちに尋ねた。
「最後、……何かされましたよね?」
「え?」
エマは気づかなかったらしく、驚き声を上げる。
そう。あの、いかにも必死な様子でタツミヤハクロに縋りついた時。手を握った殿下の手元に、なんとなく違和感を覚えた。例えば、私たち貴族子女の間でこっそり伝わる、諸事情で表沙汰にできない関係の男性へ文を託すときのような。
「そもそも殿下も、淡い期待と分かっていたと仰っていましたし……あれほど必死な様子を表に出されるのも、らしくないように見えましたので」
王族として隙を見せられない殿下は、異世界人という秘密も抱える為に普段から立ち振る舞いにひどく神経を使っている。今日は確かに息抜きの為の私的な茶会だけれど、侵入者に対してあそこまで感情を露わにするだろうか。そう問いかけた私に、ユーナ殿下は悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふっ。随分王宮に慣れてきましたね、ミアも」
「殿下のおかげです。……それで、一体何をとお伺いしても?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと走り書きを袖に忍ばせただけですもの」
悪戯を明かす子供のような口調で、ユーナ殿下は声を顰めてそう言った。私もエマも釣られるように笑みを浮かべる。
「どのような走り書きを?」
「大したことじゃないわ。神聖言語で、『今日はありがとうございました。また会える日を楽しみにしています』って書いただけ」
「それは……?」
確かに、ただの挨拶だ。わざわざ忍ばせる必要もないように聞こえる。てっきり、ご友人についての情報か何かだと思っていたので、少し意外に思って首を傾げた。エマも不思議そうな顔をしている。
そんな私たちの反応を見て、ユーナ殿下はそっと口の前で両手を合わせた。内緒話をするような姿勢で、楽しそうに続ける。
「最初にミアが私たちを守ってくれた時、ミアを見て『もみじみたいでやりづらい』とぼやいていたでしょう?」
「ああ、そうでしたね」
言われて思い出し、頷く。つい独りごちてしまった、という呟きだった。
「あの『もみじ』って、きっと名前よ。ミアを見てということはおそらく女性だし、名前を出したときの声音や表情からして、あの男と特別な関係にある人だと思うわ」
「はあ……そうですね……?」
流石の観察力に感心しつつ、話の先が見えずに困惑する。そんな私にを見て、ユーナ殿下はふふ、と小さく笑った。
「その『もみじ』が女性の筆跡の手紙を見つけたら……どう思うかしら?」
神聖文字はあちらの世界の言語でもあるし、と続けた殿下に、私は思わず目を丸くした。エマは何故か笑みが小さく引き攣らせて、問う。
「で、殿下……修羅場を狙ったのですか?」
「彼の普段の行い次第だけど、修羅場にまではならないのではないかしら。けど、紙は普段使っている香水が染み込んだ私用のものだし、少しくらい問い詰められて慌ててくれないかな、と思って」
にこにこ笑顔でサラリと言う殿下に、今度は苦笑を浮かべてしまう。
「殿下も……思うところはございましたか」
「勿論よ。あんな風に侵入されてしまったら、またしばらく私は監視が強まってしまうんだもの。少しくらい意趣返しする権利はあると思うわ。それに、我が国の威信が地に落ちたまま放置するわけにもいかないしね」
そう言って可愛らしく小首を傾げた殿下は、ただ守られるだけのお姫様などではない。笑顔と言葉で華やかな女の戦場の頂点に立ち続ける努力を怠らない、綺麗な花弁に棘を隠した鮮やかな一輪の華だ。
強かな女たちの戦いを知り尽くす殿下を、ただ守られるだけの王女様だと思っていた男が、帰ってからどんな顔をしたのか。少しだけ想像して、私たちはくすくすとしばらく笑っていた。