さくらの全力
遅くなってすいません。
「話を聞いているのか?人間。」
「はっ、はひぃ!!」
蛇ににらまれた蛙とはまさにこの事。悪魔族と話をしているシリウスは常にギリギリだった。
「あのー……、下にいる女の子は大丈夫なのでしょうか……?」
操り人形のように動いていた少女は悪魔が登場してからピクリとも動いていない。生きていますよって言われるよりも本物の人形でしたって言われた方がまだ納得がいく。少女は現在そのような状態だった。
「ああ、小娘のことか。現在は我が乗り移っているから生きているかどうかと問われたら微妙なところだ。なにせ体は生きているが意識は正常に働いてないのだからな。」
悪魔は少女を生物として見ていない。どうやら本当に道具を扱っているような気分のようだ。
「女の子とはどのような関係なのでしょうか?」
「近くの街で拐ってきた。どうやら貴族の娘だったようだが我には関係ない。なにぶん我が依り代にピッタリだったものでな。」
あれ……なんか嫌な予感がするぞ?
「名前とかは知っているのですか?」
「そんなもの我が知っているわけ……。いや、ちょっと待てよ。確かこの小娘にくっついていた奴がアイリーンヒメと言っていたな。」
アイリーンヒメ……。アイリーン……姫……。
「貴族どころか王族じゃねえかーーーッッ!!」
「なに、問題はない。楯突くなら街ごと地図からバイバイしてもらうだけだ。」
「そんなこと出来るわけ…」
「可能だ。1分あれば十分に消せる。」
(ヤバイ……。こいつは本当にヤバイやつだ。)
「そろそろ時間だ。おしゃべりももう終わり。」
「ちょっと待ってください!」
(さくらからの合図がまだ見えていない。もう少し時間を稼がないとッッ!)
悪魔の身に付けていたローブが禍々しい4対の黒い羽に変わる。その視線はシリウスの後ろに向いている。
(き、気付かれてるのか……。)
視線の先は魔法の準備を行っているさくらが居る場所だ。
「ふむ……。凄まじい魔力だ。そろそろ完成が近いようだな。」
(気付かれてるか。でもどうしてこんなに余裕でいられる。)
悪魔の様子を見る限り、魔法の完成を待ちわびているようだった。もちろん、その魔法が自分に向けられることなど承知の上だろう。
「ずいぶんと余裕なんだな。」
すでに気付かれていると知ったシリウスは元の口調に戻っている。
(何でこんな平然としていられる……。そんなに上級の悪魔なのか?それでもさくらは勇者に最も近いといっても過言じゃないほどの魔法使いだ。そんな筈は…。)
「君は相当に彼女の力を信用しているようだな。でも残念だな。そんな筈が…あるんだよ。」
(…………ッッッ?!考えていることがわかるのか?!)
「でもわざわざ魔法の完成を待つ必要はなかっただろ………。そんなもの発動する前に俺達を殺してしまえば良かったはずだ。」
「君は本質的なことを忘れている。君はもう気付いているようだが私は悪魔である。どうせ相手を殺すなら絶望を与えてからの方が楽しいだろ?例えば……、必殺の魔法を発動したが効かなかった、とかな?」
悪魔は冷たく、そして先で絶望しているシリウスたちを思い浮かべて………
わらう…… 笑う…… 嗤う……!
シリウスは悪魔の放つ負のオーラに呑み込まれていた。自分は捕食される側なのだ。目の前の強者にひれ伏さなければならないのだと。ああ……なんと愚かで無りょ…………
「あんたが折れていてどうするのよ。」
さくらの声がシリウスのネガティブ思考を止める。声の方へ顔を上げてみると回りの空気を魔力のオーラで歪ませている女の子が立っていた。その表情はこの神々しい見た目とはミスマッチな怒りを露にして。
「そこの下級悪魔さん。あまりうちの子を怖がらせないでもらえますか?震え上がっちゃったじゃないですか。」
「あのー、さくらさーん?犬扱い止めてもらえますか?」
「あなたはそこでお座りでもしてなさい。」
「扱いが辛辣?!」
軽口を交わせる程には平静が保ててきた。さくら、ありがとな。安心させてくれたんだよな。
恥ずかしいだろうから心の中でお礼をいっておく。
「シリウスのことはともかく、私の最大火力を見くびってもらったことには苛立っているから、そこで的になってて貰えるかな?」
さくらは挑発ぎみに悪魔に微笑みかける。微笑みなんて可愛い表現したけどこれは悪魔サイドの笑い方だな………。
「人間の魔法使いよ。お前も大概こっち側だな。」
あーーー。悪魔にも言われちゃったよ。さくら本人も悪魔に悪魔と言われたのが余程ショックだったのか墜ちた天使のような光のない目をこちらに向けてきた。
「大丈夫か、シリウス。私を見て漏らしてないか?」
「漏らしてねーよ!!!」
思わぬカウンターパンチが飛んでくる。いや、今はそんな場合じゃないだろ!!
「さくら、あの子が心配だ。早々に終わらせた方が良いと思う。」
そう、悪魔の下で倒れている王族の少女アイリーン。なんか長い時間をあの状態が続くのは不味い気がする。
「分かっている。もう準備は整ったさ。」
「なッッ?!」
声の方へ振り向くと悪魔が両手足を蔦のようなもので縛られていた。
「いつの間に……。魔法はいっぺんに発動できないんじゃなかったか?」
「話してるときに発動させてもらった。忘れたか?私のスキルに連続詠唱ってあったろ。それに無詠唱で放つことができる。これであいつは攻撃も防御も出来ない。ありったけをぶちこんでやる。」
そう言うと、さくらの周りの魔力が膨れ上がり1ヶ所に収束していく。空間ごとかき混ぜる嵐がさくらの前で吹き荒れている。やがて暴力的なほどの魔力が1つにまとまり………
「焼き尽くせ!!我が焔の魔法よ!」
放つ!!!
「インフェルノバーストッッッッ!!!」
灼熱の炎の柱が目の前に現れる。森で炎魔法とはいかなるものかと思ったが熱が強すぎて燃える前に墨と化している。圧倒的な熱の暴力。悪魔の姿は見えなくなっていた。
(あっ、姫様なら悪魔が両手足縛られている間に回収しときました。)
「流石にやりすぎじゃないか?」
火が消えるにはたっぷり30分ほどたった。魔法は用意した魔力を使いきったときに自然と消える。30分燃え続けるなんて異常だ。これ程の魔力を持ち合わせてるものなんてこの世界に数えられるほどしかいないだろう。さくらも全力だった為かうつ伏せになって起き上がってこない。
(悪魔が倒れたのに姫様が起きないのは……体力が回復していないからだよな………?)
「ハッハッハッハッ。流石あれほどの口を叩くだけのことはある。正直想像以上だったよ。」
「ッッッ?!」
「うそ………でしょ……。」
炎の中から出てきたのは会ったときの状態から少しも変化をしていない悪魔の姿だった。
「信じられないようだな、人間よ。」
「な………ん…で………。」
「我は剣のアンドラス。魔法を切ることなど造作ではない。まあより絶望した顔を見たかったから魔法が消えるまで出てこなかったがな。」
「魔法を切る……だと……。」
「そして、バイバイだ。」
アンドラスの姿が目の前から消える。気付いたときにはすでに俯せのさくらの側に立ち、真紅の剣を降り下ろされようとしていた。
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