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6年前……『国が殺された』。



余りにも不自然な言葉だが、そう表現するしかないだろう。

この世界では、『ディスタニア』と呼ばれる珍しく自ら戦争を吹っかけない国があった。

その国が殺されたのだ……『王を殺した』だけなのならまだ分かるだろう……『戦争に敗けた』というのならまだ理解できるだろう……だが、『国そのものが殺された』。



突然、ある日に世界新聞に載せられたこの一言は世界中に混乱を呼び寄せた。



ディスタニア国の民は殆どが行方不明……辛うじて偶然、事件当時(国が殺された時)に現場にいたという人間が現れたが、新聞の記事と同じこと、つまり『国が殺された』としか言わなかった。



戦争では敗北の二文字すら存在しなかったディスタニア国は一体何に殺されたのか調べようとしても、国があった土地の地盤は崩れ落ち、その中から瘴気が噴出するようになると、魔物と呼ばれる化け物が集まりだし、人々は寄り付けなくなってしまっていた。






所変わってここは平和国『サンブルド』。ここもディスタニアと同じく、戦争を自らせず、ずっと平穏のまま繁栄し続けた国。

ここにはある黒い無地の服を着た、蒼眼の男がいた。彼は上機嫌で城下町を散歩する。今日の仕事はやりごたえがあって、報酬も良かったからだろう。彼はいつも通りにピザ屋に立ち寄った。彼にとってピザとは必需品であり、一日を始めるためにかけがえのない存在なのであった。男はピザを食べながら城を見る……少し嫌な匂いがする気がした。







同じくしてサンブルド城城内にて、大勢の執事とメイドたちが城の中を忙しなく動き回っている。それもそうだろう。今日はサンブルドを治める『グラドシース=リングベリー王』の愛娘である『クリアリース=リングベリー』の20歳の誕生日なのだから。城内のパーティー会場は既に定員オーバーとなっており、厨房はいつも以上に白熱している。コックたちは、今日は誕生日ケーキと称して、高級のホールケーキを作るだから腕が鳴るというものだ。

だが、クリアリース本人は少し気分が沈んでいた。まぁ、一国の姫が20歳にもなれば、結婚がどうとかうんぬんかんぬん言われなくてはおかしくない頃である。一昨年あたりからその傾向が強くなっていき、最近では行きたくもないのに、お見合いにも参加させられる。結婚したくないわけではないが、誰かに命令されてするものではないと思っているため、最近は父親に反抗的になってきた。



トントン。不意にクリアリースの部屋の扉をノックする音が響く。ああ、来てしまったのかと観念する。



「お嬢様。グラドシース王がお呼びです」


「はいはい。分かったわ。今行くから退いてなさい」


「かしこまりました」



クリアリースはベッドから起き上がると、長い金色の髪をまとめて、シュシュで結んでポニーテイルにする。その出来を鏡で見終わると、部屋を後にし、謁見の間へと向かった。




クリアリースが到着すると、先に着いていた母と妹が出迎えてくれる。



「遅いわ『クリス』。今日は貴女の誕生日なのですから、貴女が元気であることをあの人に教えなくては」


「ごめんね、お母様。でも、分かるでしょう?誕生日を祝われることに関してはうれしいけど、お見合いとかの話はもうだめ。私には合わないわ」


「ふふっ。お姉ちゃんったら最近はいっつもそれね」


「『ジェリス』だって嫌なものは嫌でしょ?私はそれを正直に言うだけよ」


「はぁ……」




クリアリースと妹のジェリアリースは家族の間ではクリスとジェリスと略称されて呼ばれている。クリスの我が儘さに母親はため息をつく。どうしてこのような子に育ってしまったのだろうかと、女の子としてはいいが、姫としては少しあれなところが多い。

それはひとまず置いておいて、謁見の間に入ると、玉座にはグラドシース王が座していた。普段は真面目な顔をしているのだが、今日ばかりは表情筋を緩めていた。



「おお、クリス!20歳の誕生日おめでとう!さぁ、今宵のパーティーはよりよいものとなるな!今日ぐらいは何でも欲しいものを言うといい!」


「私は自由な時間が欲しいでーす」


「何を言うかと思えば……今日のパーティーは夕方からだから、昼間までは自由だし、パーティー内でも参加さえしてくれれば後は自由だ」


「はぁ……(そういうことじゃないんだよ……)」


「ふふっ」


「何が可笑しいんだジェリス?」


「いいえ?何でもありませんよ」




クリスの皮肉が父親は勘違いして受け取ってしまい、通じないことにただため息をついた。それを知っていたジェリスは笑い、母親もやれやれと呆れ返っていた。もうやっていられないと、適当なことを言って、クリスが回れ右して部屋を出ようとした次の瞬間、部屋の窓がすべて割れ、黒ずくめの数人が侵入してマシンガンの銃口をクリスたちに向ける。

突然のことに驚く暇すらないが、母親は慌てて声を荒げる。



「な、何ですかあなたたちは!?」


「黙っていろ……!」


「ひぃ!お、お姉ちゃん……」


「大丈夫よジェリス……あんたらテロリストってことかしら?」



クリスの冷静さにテロリストたちは驚く。こいつ……立場が分かっていないのか!?と……するとクリスは、ふっと笑い、



「ええ、分かっているわよ?自分の立場は……私は『クリアリース=リングベリー』!この国の第一王女ですわ!」


「なっ!?」



心を読まれたことと、予想外の答えが返ってきたダブルパンチのショックにより、動揺してしまうテロリストたち。その隙を突いて、クリスは魔術を行使する。



「燃やせ!『フレム』!」



クリスが右手をかざすと、そこから小さな火の玉が発射され、テロリストの一人にクリーンヒットする。当たった直後に全身に燃え広がり、消そうと転げまわるが、周りが見えなくなったため窓から転げ落ちてしまった。

ドスンという音がした後、クリスはまた、ふっと笑った。



「さぁ、燃えたい奴からかかってきなさい!」


「クク……随分と勇敢なお姫様だ……だが、これはどうかな?」


「ぐおっ!」


「「お父様!」」


「貴方!」



テロリストのリーダー格と思われる人物はいつの間にか現れ、グラドシース王を盾にして、更に首に小型ナイフを突きつけていた。流石のクリスも父親を人質に取られてはどうすることもできない。

グラドシース王は後ろの男に問う。



「何が……目的だ!?貴様まさか……」


「まさか『国殺し』!?」



『国殺し』。6年前に一国を滅ぼした張本人か……いや、テロリスト集団だったのか。



「クク……さぁ、どうだろうな。だが、この国は今日で終わ……」



テロリストのリーダーがそう言い終わらない内に、その場から弾かれ、玉座の後ろの壁まで吹き飛ばされる。万事休すかと思われた次の瞬間にはテロリストのリーダーは吹き飛ばされているという衝撃の逆転劇にテロリスト集団だけでなく、クリスたちも呆然としている。



「狙い撃つ斬撃。『背後からの牙(バックタスク)』の味はいかがだ?テロリスト共?」


「な、なんだ……だれだ…貴、様……!?」



テロリストのリーダーはよろめきながらクリスの後ろにいた男に問う。

黒い無地の服を着た、蒼眼の男は剣の先を向けながら答える。




「俺は『シュバルツ=サイト』。金さえ貰えれば何でもやるような仕事をしているが、今日は緊急的に王たちの護衛を頼まれた。王と姫は俺が守る」




突然の助っ人の登場にクリスの胸がドクンと跳ね上がる。どんな状況に陥っても起きなかったことだ。ドクンドクンと胸の高鳴りが収まらない。



(ああ……私、恋しちゃった……)



これが運命の出会いの始まりであった。


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