【60話:御令嬢のお忍び巡回警備!】
リアーナお嬢様はもともと巡回警備で警邏隊の面々がリアーナお嬢様を護衛する事を余り可としてはいなかったようだ、そうは言っても城主の御令嬢が同行する警邏で無理も言えずそんな気持ちをメイラーさんに相談していたとの事だった。その話しをメイラーさんがサギに打ち明けた所マギの方にそのお鉢が回ってきたらしい。マギもそう言う手の相談事は大歓迎だったらしくメイラーさんに今回のシナリオを伝えたとの事だった。
「マギそうは言ってもだよ、お嬢様に何か合ったらどうするつもりだった? 俺とマギの二人だけだぞ、護衛についているのは」
「あら、ラリーともあろうお人が何をそんな気弱なっ! 今の私達に勝る護衛がいて?」
マギが冷たい目で俺の事を見てくる。まぁね、確かにマギの実力は得がたいものではあるがサギもウギもいないんだぞっ! そう言う風に自信過剰な警邏でもしもって言う事があるだろう。
「マギ、二人の集中が切れた時が危ない時だろう。其れが無いって言えるのか?」
「ない!!」
あらま~ぁ、速攻で返してくるわ、この娘は!
「まあ、お嬢様が女子専用の場所に行く時があるから、私がいる必要がありますけどそれ以外ならラリーひとりでも十分でしょ、ヴィエンヌ城下ですしね」
「そうなのかな~ぁ、確実って事は無いと思うがな~ぁ」
俺は手を頭の後ろに回して天を見上げながら口癖の様に呟いた。
「ラリーっ! 護衛はバランスなのよ、大勢いれば言い訳では無いわ。人だよりにして隙も生まれやすくなるし他人に依存する気持ちが多くなればなるほど烏合の衆になるのよ、人間って言うものは」
「そうかな、そう言うものか」
「そういうこと」
マギの言う事も一理あると思った。俺は少し自分の考えを思い直そうとしたマギは思ったより考え深い様である。
「其れにラリーが女性の弱みを守らないわけが無いでしょ、そんな男をサギやウギがあれ程まで恋い焦がれる事は無いと思うわ」
そう言いながらマギは俺の顔を覗き込む様にして目配せしてきた。なっ、なんてことを口走るんですか。サギがウギが――そんな事は無いでしょ。
「ああっ、二人が其れを聞いたら地団駄を踏んで嘆くわよ~っ、ラリーっ!」
俺とマギの雑談の間にリアーナお嬢様が着替えを済ませて二人の前に姿を現した。
「お二方、お待たせしました」
お嬢様はマギが持ってきたメイラーさんの町娘風の服装に着替えていた。そんな貧相な服に着替えても醸し出しているお嬢様オーラは完全には防ぎ切れてはいなかったね。雰囲気が完全に上品すぎている。
「――んっ、やっぱり服装を変えただけでは足りなかったですわね」
マギも思ったよりリアーナお嬢様の気品のオーラが強い事を考慮に入れてなかった様だった。
「仕方が無いですわね、サギには悪いけどラリーの左手を借りますか――ラリー手を貸して」
そう言いながらマギは俺の左手を取るとリアーナお嬢様の右手を其処に添えてきた。
「『あっ、え~っ』」俺とお嬢様の声がハモった。
「あら、お嬢様? お嫌でしたか? 手……離しても良いですわよ」
「えっ! 嫌なわけ無いじゃ無いですか――ラリー様に手を取っていただいて嬉しいですわ、いきなりだったので心の準備が……」
リアーナお嬢様はまた頬を朱に染め俯き加減でそう呟いた。お嬢様がデレた!
その瞬間、お嬢様オーラが少し和らいで町娘の様相になじんでいた。
「良しっと、これなら問題無いですわね。さっ、出かけましょうか」
マギがしれっとそう言って廃墟の出口の方にささっと向かっていった。おい、繋いだこの手はどうしてくれるんだ。俺はマギの後を追いかける様に一歩前に足を進めたが繋いだ手は俺を引き戻してきた。
「ラリー様は私と手を繋ぐのがお嫌ですか?」
リアーナお嬢様が少し潤んだ目で俺にそう問いかけてきた、これはやばいモードだ。俺は反射的に首を左右にブルブルと振って其れを否定した。
「リアーナお嬢様、俺もお嬢様と手を繋げて嬉しいです」
「まあ~っ、本当ですか」
お嬢様は満面の笑みを浮かべてまるで向日葵が咲き誇った様な明るさを振りまいていた。その笑顔は俺の心を鷲づかみにしてくるほど強烈に可愛かった。
「あら~らっ、そんなに心を移し込んでいるとサギに言いふらしちゃいますよ」
マギが俺の傍までいつの間にか戻ってきて、耳元で悪魔の如くそっと囁く様にそう言い放った。
「マギさん其れは勘弁して下さい」
俺は少し涙目になっていたと思う。
「ラリーっ! じゃぁ、貸しひとつと言う事で良いですわ」
マギは俺にウインクをしてきながらそう宣言してきたのだった。
俺とリアーナお嬢様は手を繋いだまま街中を歩いていた。その周りをくるくると歩き回りながらマギが付いてきていた。そんな変なトリオが街を意気揚々と歩いているのは傍から見ても浮いていたと思う。俺はこれでは何の為にお嬢様にこんな変装まがいの事までさせたのかと思っていたが……。
リアーナお嬢様は俺に寄り添う様に歩きながら街の中の目に付いたあらゆる物事を質問してきた。
「ねえっ、ラリー様あれはなんですか?」
お嬢様の指さす方向を見定めて質問の意図を探った。あれって――ん、あれか?
其れは路上に置かれた屋台であった。リアーナお嬢様の見つけた屋台は串焼き屋の屋台で香ばしい肉汁の焼ける匂いが空きっ腹を刺激してくるのだった。
『――くるぐる~っきゅっ――っ』
お嬢様のお腹も同様だった様だ。
「嫌ですわっ、もうっ! ラリー様耳を塞いで下さいませ」
そう言うとお嬢様は両手で顔を隠してその場にしゃがみ込んでしまった。そんな仕草がとても可愛らしく思えた。俺は串焼き屋の屋台へと足を向けた。
「オヤジさん、串焼きを三本下さい」
「ハイよ、まいどあり! そこの可愛いお嬢さん達に少しサービスしておいたよ」
「ありがとう、お代は此処に置いておくね」
「ああ、また来てくれよな、あんちゃん!」
そんなやり取りを店のオヤジさんと交わして串焼きを彼女等に持って行った。
「ラリー様、これが串焼きなる物ですか? で、テーブルは?」
「えっ! ああ、お嬢様これは道すがら歩きながら食べるんですよ、まあテーブルがあれば座っても良いですが、屋台だと普通は立ち食いですから」
「まあ、そんなはしたない事を――良いのですか?」
リアーナお嬢様は目をパチクリしながら俺に食い入る様に聞いてきた。その横でマギはもう串に食らい付いている。
「美味しいです! 御令嬢は流石にはしたなくて無理ですか? 私が貰っても良いですわよ」
マギがそう言ってお嬢様を嗾けてくる。
「マギ様――いいえ、是も巡回警備の一環ですから何事も経験ですわ」
そう言ってリアーナお嬢様は串に齧り付いた。
「う――っ、美味しいっ!」
破顔一笑、旨い物は人を笑顔にするね。リアーナお嬢様はその後言葉を発する事無く夢中で串焼きと格闘していたわ、ほんとニコニコしながら。
そんな風に巡回警備とは名ばかりの単なる昼下がりのお散歩の様相で街中を練り歩いく三人のデート? の時間が過ぎていった。
「さて、そろそろ警邏隊と合流してお嬢様は馬車に戻っておかないと拙いですね」
マギが時間を見てそう言う風に促してきた。
「うん、そうだね。戻るとしようか」
「え~っ、もう終わりなのですか? 私はもう少しこうしていたいですわ」
リアーナお嬢様は俺の腕に縋りながらだだっ子の様に嫌々してくる。
「リアーナお嬢様っ! 此処で折角協力して下さっているメイラーさんに迷惑を掛けては二度とお忍びは出来ませんよ、我慢のしどきです」
「うっ! わかりました」
お嬢様は俯き加減で項垂れながら渋々了承してくれた。
戻り方は抜け出した方法の逆をなぞる様に行うだけだった。まあ、マギの裸っ変態……もとい変身がちょっとネックとなったがまあ結果オーライであった。
お城に戻って馬車から降りてきたお嬢様の満面の笑顔は警邏隊の皆を魅了するだけの可愛らしさが漂っていた事は今回の成果と言えた。
城に戻ってリアーナお嬢様と別れた俺はサギとウギを探す事とした。
次回【61話:サギーナの日記編(魔獣相手の修行一日目)!】を掲載いたします。




