【59話:御令嬢のお着替えぇ!】
マギもさすがに毎回変身するたびに人間に戻る時は真っ裸って言う事に自虐を感じていたらしい。廃墟の物陰で服を纏いながら独り言の様にぼそっと呻きを洩らしていた。
「毎回裸体を晒すのはあまりにも屈辱的ですわ――何とかしなければっ!」
だから着衣魔術を詠唱してから変身しろって言うの、まさにそれじゃ変身でなくて変態だろうが……。
大魔法が使える程の魔女である訳だが生活魔術程度の小技は結構不得意らしい、マギのそんなところを知って少し親しみを感じている自分がいた。
そんな事を考えているとコートを羽織って露出を抑えた服装になってからマギは俺の前に立ち戻ってきた。
「ラリーっ! お待たせっ!」
そう言ってマギはちょっとは照れた様子で俺の傍に立つとリアーナお嬢様に相対して話しを始めた。
「リアーナお嬢様のそのドレス姿は街中では目立ちすぎますわね」
その言葉をマギっ! そのまま君に返して上げたいわ! 俺は! あなたはどっちがどれ程目立つ格好だって思っているんだか、わかっていますか? 俺はそう思っているのだけれどマギは違うらしい。そんな俺の思いとは裏腹に話しを続けていった。
「まずはお嬢様の服装をランクダウンさせないと街中には出られませんわね」
マギはそう言って人差し指を顎に当てたまま小首を傾げて考える素振りをしている。暫くその仕草をしていたがポンと手を打って妙案を思いついたかの様に話し出した。
「そうですわ、まずはお嬢様にはそのドレスを脱いでいただきましょうか」
「えっ! 此処でですか? いまですか?」
「無論いまですわよ、私とラリーしかいないじゃ無いですか? 何か不都合でも?」
いやいやラリーって俺の事だろう、俺の前でリアーナお嬢様が服を脱ぐってなぁ~、其れが問題だろう。
「おいマギ待て待てっ! 俺がいるから拙いんだろう。その~ぉ、お前の中の俺の存在はどうなっているんだ?」
「あら、ラリーはお嬢様のお着替えを事細かく見れるチャンスじゃ無いですか? はて? 何故に反対されるのですか? ラリーには感謝されても文句を言われる筋合いは無いと思いますが?」
済みませんマギさん、何か俺の事を大きく勘違いされていませんか? 其れは俺も男の端くれですから女性には興味はありますけど……。
「あのね、マギっ! 俺は――」
速攻でマギが俺の話しに言葉を被せてきた。
「あ~ぁ、そうですねラリーには私を含めて三人も姫御前がおりますものね――今更お嬢様の下着姿なんかには興味は無いと――そうおっしゃいますか」
「なっ――そんな事は――っ」
「――無いと言えますか? ラリーっ」
そういいながらマギは俺の方にウインクをして合図を送ってくる。何かを企んでいる様だ。
リアーナお嬢様はマギの話しに最初は戸惑いを見せていたがサギ達の話題が出たとたんに目つきが変わってきた。
「マギ様、わかりました。いま此処でドレスを脱げば宜しいのですね」
そう言うが早いかリアーナお嬢様は俺に後ろ向きになってドレスを脱ぐ手伝いをお願いしてきたのだった。
「ラリー様、ドレスの後ろの紐を外して下さいませんか……あっ、いやなら無理にとは申しませんが……殿方にお願いする事ではありませんものね」
リアーナお嬢様は少し照れながら俺から目を逸らして話している、其れがやけに可愛らしく思えた。
「あっ、嫌という事は無いですが――俺がですか?」
「はい、ラリー様にお願いいたしたいのです」
俺はマギの方を見てみたがマギは俺から視線を逸らしてあらぬ方角を見ている、しかしその顔はしてやったという様な表情をしていた。俺はマギに完全に謀られている事を知った、が……他に手は無かった。
俺はリアーナお嬢様の後ろに回りドレスの背中の編み上げ紐をほどいていった。俺がお嬢様のドレスの紐をほどき終わるとお嬢様はくるっと俺の方に向き直って肩口からドレスをゆっくりと脱いでいった、其れも俺にまるで見せつけるかの様な仕草で……。
「さっ、ラリー様、私をとくと見て下さいませ。サギには負けておりません事よ」
なっ! 何でサギの名前が出てくるのかな? 俺に対して皆何を競っているのですか?
「ねえ、ラリー様、私の躰は如何かしら?」
「何を仰っているのですかリアーナお嬢様は」
俺は視線を宙に迷わせながらお嬢様から少し離れた。其れを可とはしないかの様にお嬢様が俺の手を掴んで引き寄せてくる。
「あら、ラリー様其れは少し酷いですわよ、私がお嫌いですか?」
そう言いながらお嬢様は下着姿で俺にしがみついてきた。
「なっ! お嬢様っ! 何をなさいますか?」
「私だって恥ずかしいのですよ、其れを無碍になさっては私の立場が無いじゃ無いですか、違いまして?」
俺の胸の中に飛び込んできたお嬢様はその頬を朱に染めながらはにかむ様にそう言ってくる。その表情が無性に可愛らしく思えた。俺はリアーナお嬢様を両腕で抱き締めながらお嬢様の耳元にそっと囁く様に話しかけた。
「リアーナお嬢様、申し訳ありません。あなたのお姿が余りにも神々しくて直視出来ない美しさを纏っているからですよ」
俺の言葉とは思えない台詞が口を衝いて出てくる。はて? と思うと俺の背中にマギがピッタリと張り付いていて俺の台詞を復唱していた。お前~っ!
「あらっ、もうばれましたかしら? 腹話魔術ですわよ、ラリーったら折角お嬢様があなたにせまっているのにニブチンなんですものここは此マギにお任せ下さい」
「――マギっ!」
俺は全身の力を込めてマギの呪縛を解いた。
「あらま~ぁ、そんな簡単に解呪してしまうとは……折角でしたのに、こんなシチュエーションまで用意してましてよ、ラリーの為と思いまして――ダメでした?
「ダ・メ・です!」
俺はマギにリアーナお嬢様の代わりの服の用意を頼んだところあっさりと出てきて逆に驚いてしまった、しかも白々しくこんなことを言うのだった。
「さっ、お嬢様前座はこれくらいにしてメイラーさんの服に着替えて下さい。終わったら街中に出かけますわよ」
お前たちはグルかよっ! さっきまでの事は何か~っ、前座って芝居か?
「あらっ、ラリーどうしまして?」
「最初から仕組んでいた事なのか? だったら馬車の中で先にお嬢様のドレスをメイラーさんの服と取り替えてきたら済んだ事だろう」
「まあ、其れではラリーのドギマギしたところを見られないでしょ、お嬢様もラリーに見て貰いたいのよ、其処のところはお芝居では無くてよ、ほんとニブチンなんだから!」
「マギ様――その話は~っ、秘密の約束ですわよ!」
俺の横でリアーナお嬢様が真っ赤な顔をしてマギに食って掛かってきた。えっ! なにっ! 何のこと? 俺の頭の中では“???”が飛び交っていた。
「ほらっ、お嬢様! ラリーにはこれくらいの事をしても――っ、ねっ!」
「うっ! 本当のようですわね、ラリー様の初心さは国宝級ですこと、さあどうしましょ?」
リアーナお嬢様も俺の事を呆れ顔で睨み付けてきていた。
俺はまた何か失敗したのか? 二人の呆れた顔を見ながら俺は背筋に冷や汗をかいていた。
次回【60話:御令嬢のお忍び巡回警備!】を掲載いたします。




