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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【58-2話:ヴィエンヌ城下の巡回警備!】

 警邏隊けいらたいの面々はリアーナお嬢様を護衛する形で馬車の陣形を整えていた。俺達はその後方を少し遅れてついていく事にした。今日の巡回警備は初日と言う事でまずは近場に落ち着いた。お城の周辺の商店街を回って歩き城下内の治安のレベルを確認するという事らしい。

 まあ、こんな集団がいきなり繁華街で警邏を始めて治安のレベル確認も無いだろうと本音で思っていても口にする事は無い。と、此奴こやつはそんな事はお構いなしだった。

「大勢で大挙して押し掛けて治安のレベル確認って言う事ですか……馬鹿ですか皆さんは?」

 マギが頭に後ろ手の格好で少しっくり返りながら赤裸々にののしった。おいおい、皆が俺達の事をにらんでいるって。マギっ押さえろ! 思わず俺はマギの耳たぶを引っ張って忠告して置いた。

「マギっ! 本音がだだ漏れっ!」

「だって本当の事でしょう、誰も真実を進言する強者つわもの此処ここにはいないのですか?」

 だいたいこの巡回警備自体が形式的なものなんだから、其処そこに目くじら立ててもしょうが無いだろう。そう言ってマギを後ろから羽交い締めにしてその口を俺の手で塞いだ。

「ふごふご――っがっ!」マギが俺の腕の中でジタバタしながらもまだ何か言っている。しょうが無いからそのまま耳元で小声で話しかける。

「マギっ、頼むよ少しは俺の立場も考えてくれないか? 自重してくれ」

 ふっとマギが大人おとなしくなったので、拘束をほどいた。

「むっ、ラリーの為とあれば致し方ないですね」

「マギ、解ってくれるか?」

「ん、わかりませんが――取り敢えず大人おとなしくしておく事にいたしますわ」


 確かにマギの言う通り警邏隊けいらたいの通り道には人気ひとけけた形になっている、そんな中でも少なからず人はいたが、そういう道行く人たちも怪訝そうな顔をしながら一行が行き過ぎるのを待っている様だった。警邏隊けいらたい一行はただ道すがら歩いているだけの巡回警備が続いた。

「やっぱり、つまらないです~ねぇ」

 さすがに我慢が出来ずにマギが愚痴を言い始めた。

 その時、一行の真ん中にある御令嬢の乗る馬車が止まった。車窓からリアーナお嬢様が顔を出している。そのお嬢様が事も有ろうかマギを呼んでいるのだった。

 あ~ぁ、マギよ、お小言を貰うかも知れないぞっと。俺は冷や汗をかきながらもマギと一緒にリアーナお嬢様のところに駆けていった。

「マギ様、ちょっと相談があるのですが――こちらに乗っていただけませんか?」

「あっ、私がですか? ラリーは?」

「マギ様おひとりでお願いいたしますわ」

「……ふ~ん、わかりましたわ」

 そう言うとマギは馬車のドアを開けて中に這入っていった。おい、大丈夫か? サギがいないのがこんな風に困る事になるとは……そんな状況が俺の心の不安をさらにかき立てていった。


 しばらくするとマギが馬車から降りてきた、何か違和感が漂っていたが……しかも深めにフードを立てて顔を隠して出てきた。マギが降りると馬車はまた静かに動き出した。俺の隣にマギが寄り添ってきて、そうしてそっと彼女は腕を絡めてくる。

「んっ、マギ? どうした?」

「……」

 マギは無言のままその場に立ちすくんでいた、其れも俺の腕に彼女の腕を絡めたままで。

 そんな俺達の事にはお構いなしに警邏隊けいらたい一行はその歩みを進めて行った。

 しばしそんな状態で警邏隊けいらたい一行を見送る様に俺とマギはその場に立ち尽くしていた。

 警邏隊けいらたい一行が遙か彼方に行ってしまってからマギはフッと大きい溜息をついた。そうしてそのフード越しに俺を見上げてきた。俺はマギの顔を見つめて始めて起こった事に気が付いた。

 そう、其処にいたのはマギでは無かった。

「なっ! えっ! リアーナお嬢様っ!」

 俺は思わず自分の口を押さえて漏れ出す声を隠そうとしたのだった。


 “相変わらずにぶちんですわね~ぇ、ラリーは”

 マギの魔力念波が聞こえてきた。マギいるのか?

 “此処ここです! 此処ここっ!”

 “マギっ! 何処どこだよ?”

「あっ、ラリー様? もしかしてマギ様をお探しですか?」

 リアーナお嬢様が俺の挙動から察してくれたのかマギの居場所を教えてくれた。其れはまたいつもの場所だった!

「マギっ! お前な~ぁ!」

 蜘蛛の姿のマギが居た場所は――お嬢様のドレスからこぼれそうに盛り上がっている胸の谷間の中だった。其処そこがあなたの定位置ですか? って!

 “まあ、それは今は置いておいて私も姿を戻したいのですが良い場所を探してくれませんか、ラリーっ”

 確かに此処でマギが蜘蛛からいきなり人間に姿を戻した日には街の界隈で噂になってしまうのは必至だからな。俺はリアーナお嬢様の手を引いて路地裏へと人目を避ける場所を探すことにした。

 街並みから少し離れると人気ひとけが全くない空き地があった、しかも都合良く廃墟となっていた建物も見える。

「あそこに行きましょう」

 俺はリアーナお嬢様をその廃墟の中へと導いた。廃墟の中は誰も居なかった、まあ当たり前と言えば当たり前だが――誰も居ないから廃墟になっているのだし。俺は念のため周辺に結界を掛けて置いた。

 マギは早速、蜘蛛の姿を戻す魔法を掛けて人間の姿へと戻った。其れをずっと見ていたリアーナお嬢様は感慨深げにマギの事を慕う眼をしてきた。

「マギ様も英雄様なんですね」

 リアーナお嬢様は深々と一礼をしながらマギに手を差し出してきた。

「マギ様どうか私達をお守り下さい」

 そう言ってマギの手を取ったまま膝をついて拝礼までしてくる。

「え~っ! 私は単なる一塊の魔導師ですわよ、お嬢様っ! さあ、お立ち下さい。其れでは私が困りますから――それと、コートを返して下さらないでしょうか、この格好ではラリーの目の毒ですからっ~ねっ」

 リアーナお嬢様も結構天然である事が解った。だって、マギは今、真っ裸でお嬢様の前に立っているのだから。俺は目を逸らしたままマギの事を見る事が出来ないでいた。

次回【59話:御令嬢のお着替えぇ!】を掲載いたします。

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