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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【53話:サギの告白!】

 サギの目の前に出されたものは魔術を組んだお札だった。ほんの小指の先程の大きさの紙に似た素材で出来たものだった。そのお札にマギはフッと息を吹きかける、そうするとその中に隠されていた呪術式が宙に浮かび上がってきた。マギがやっている事って呪術夢戻じゅじゅつゆめもどしか? いや違う! 魔術は術式解き明かす事は出来ても其れを浮かび上がらす事までは出来ないはずだ、じゃあなんだ其れは? 

「あら、ラリーはお札の術式よりも私の魔法の方に興味があって?」

 マギがニッコリと微笑みながら俺に問いかけてくる。

 そう言われるとそうなんだが、お札の術式は浮かび上がった瞬間に読み取れたので二の次にしてしまっていた。で今、魔法と言いましたよねマギさん?

「そう、魔法っ! だって私、魔族だし――魔法使いって言ったでしょ!」

 まあ、そう言われればそうなんですけど……余りに自然にそんな高等魔法を起こされても俺達ついていけませんから。

 魔術と魔法は根本的にそのあり方から違う。魔術は術式をイメージして其れを自分の内から沸き上がる魔力とともに詠唱えいしょうする事でことわりを発動する、無詠唱と言う事はあるがあくまでも声として発していないだけでイメージの中で詠唱は済ませている。あと、魔力も自分の内からという事も有り基本は有限である。それに対して、魔法はその名の様に法である、魔界という世界の法をもってことわりの代わりに魔力を世の中に作用させる。依って術式などは特に無くそれぞれの魔法使いの能力で使う魔法のレベルや内容が変わる。魔力のあり方も自然界の中の魔力を引き入れる事によりほぼ無尽蔵に放出する事も可能だ。但し、受け入れる魔力量はそれぞれの魔法使いの許容する力量が支配する事となる。

 そんな魔法を人間が目にする事はあまりない、何故なら魔法は魔人=魔族しか使えないからと言われているのでまず魔族に会わない普通の生活では見る事は無い。とは言っても魔族が皆、魔法を使えるという訳では無く幼き折に皆、魔術から始めるがその上の魔法の段階に行く事が出来ずに魔術の段階で終わる魔族も大勢いる。端的に言うと魔術の上に魔法が有り魔術もある程度素質、血縁に拠るものであったが、魔法はさらにその上の魔族性を持った血縁によりのみ才能が開花すると言う事だ。そうは言っても魔法も修行も無しでいきなり出来るものでも無いらしく、しかも魔術の様に術式の体系が出来てる訳では無いので学校の様に学ぶべき場所も無いのが実態だ。要は魔法は魔族の家系で代々伝えていくべき物で一子相伝と言う事になる。と言う事で俺の中では魔法を学べる環境という物が無かったのでマギの存在はまさに師匠が湧いて出てきたというべきものだった。

 そんな中でマギが見せた魔法は俺に取って興味が湧く程度というレベルのものでは無かった。


「あらっ、『魔法』の事なら是からいくらでも見せてあげますからねラリーっ、今はこっちでしょ?」

 そう言いながらマギがお札の術式の方に話題を戻してきた。

 そう言われてしまうと確かに隣で肩を小刻みにふるわしているサギの事を忘れていた。そう言うサギは今にも消えてしましそうなびしい風情で何かに怯えているようにも見える。

「サギ?」

 俺の問いかけにも返事をする事など無く唯々うつむいていた。

「サギっ、そんなにしょげる事は無くてよ。さあ、あなたの想いをしっかりとのニブチンに言ってあげなさい」

 ニブチンって俺の事か? マギの言葉に何かを決意したのか、すっと顔を上げると俺をジッと見つめてすがる様な表情をしながらサギは喋り始めた。

「出会った時はまだラリーの周りにはそんな女性の影なんか無かったの、私と出会って私もラリーに会う事が楽しくてでも嫌われるのが怖くて自分で無い様な振る舞いもしていたと思うわ。でも、ウギが現れて彼女は『ラリーの事が大好きです』って言い切るくらい自由で自信に満ちていて私もそうありたいって思ったわ、少しずつ自分を変えてきたつもりだったの……ウギには負けたくないって気持ちで……」

 語り出したサギの目は俺を見つめながら少し潤んできている様だった。それでも気丈に話しを進めていった。

「其れは其れで気持ちの整理はついたつもりだったのですけれど、其の後にリアーナお嬢様がラリーの事を好いてくる様になって其れに嫉妬する自分に気付いたの……ラリーがリアーナお嬢様の事が好きになってそっちに行ってしまうのが怖かったわ、其れでも私も負けないって思って、まあ、お相手は貴族様だし負けたらそうなったらまだ仕方が無いかなって思っていたけど――あなた、マギは違ったわ女性としても魔術師の相棒としても――まったく勝てる気がしなかったの、と言うか次元が違うって一瞬にして理解してしまった自分がいてラリーを取られるって感じたわ、そう、思ったんじゃ無いの感じたのよ。それでそのお札をラリーの身体に付けたのよ、他の女性の気配がしたら私が解るようにって……ラリーっ――ご免なさい」

 そう言い終わるとサギは潤んだ其の瞳から大粒の涙をこぼしていた。

「私、ラリーが大好きっ! マギには負けるけどっ、ラリーを取られるのは、私を忘れちゃうのはいやっなの!」

 サギは最後にそう叫ぶと俺の胸に飛び込んできてくずれこむ様に泣き出した。

「ラリーっ! ご免なさい! でも好きなの……マギには取られたくないのぉ、私の事も忘れないで欲しいのぉ……ぐすっ――ん」

 俺の胸の中で泣き崩れるサギに俺は――自分の鈍感さを今更ながら恥じていた。貴女かのじょの肩に手を置きながら俺はサギに掛ける言葉を無くしていた。

「ああっ、彼女に其処そこまで言わせてあなた其れでも男なのっ――ラリーっ! まったく! 恋愛感情ニブチンの極限みたいなあなたにはサギの方から言い出さないと絶対無理だと思ったわ……世話の焼ける二人だこと!」

 マギは最後に締めの言葉の様に俺に向かってそう言い放った。

 えっ! マギっ! 其れって何か今までの事はこのための布石か?

 俺はハッとしてマギの顔を見つめた。其れに応えるかの様にマギはペロッと舌を出してウインクしてくるのだった。

 マギの策略にまんまとまった事を知った瞬間だった。

次回【54-1話:ラリーの覚悟!】を掲載いたします。

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