【43-1話:再びヴィエンヌへ!】
俺達は今、護衛師団のしんがりを勤めている。まあ、ウギに言わせれば『お尻持ち』とでも言うのか、兎に角『おしり』が気に入ったようである。俺の右側で口笛でも吹くかのように爽やかな声で歌っている。
「……おし~り、お~しり、おおしっり……」
おぃ、いい加減にこっちが恥ずかしいわ。
「なあ、ウギっ、いい加減に恥ずかしいからその唄、止めてくれないか」
「んっ、『おしり~』をかのぅ~?」
「そう、『おしり~』を!」
その言葉にウギはむっとした顔でおもむろに俺の方を睨んでくる、そんなに怒るような事を言ったか? ウギの感情の基準に時々疑問符がつく事が有るが、今日はいつも以上だなと思う。
「ウギ、俺そんなに酷い事言ったか?」
「妾は恥ずかしくないのじゃ、誰に対して恥じているのじゃラリー、そもそもお主自身の心の持ちようじゃろうが」
「……まあ、其れはそうだが、でもな~ぁ『おしり~』って乙女が叫び続けて良いものか?」
「んっ、乙女って……妾の事かのぅ~?」
「他にいるのか? この話の流れで~ぇ、なあ、ウギ」
「妾が乙女に見えるのかラリーは? 本気か?」
「本気も何もウギは乙女だろう、さっきの人集りもそう言う見方を皆がしているからだろう。まあ、喋らなければだがなぁ」
「そっか、妾はラリーにとっても乙女に見えるのか~ぁ。わかった『おしり~』はもう言わぬぞ」
ウギはそんな言葉で今度はニコニコと満面の笑みで俺の顔を見てくる。いきなり替わる娘だよな、まったく。そう思っていると今度は歌詞が替わって歌い始めてきた。
「……乙女~っ、お~と~めぇ~ぇ、おとめごこーろ……わからぬラリーっ……」
「……?」
まあ、いっかぁ~。
しんがりと言っても敵の領域から撤退するような状況でも無いので今のところは魔力も精神的負担もさほどでは無い。とは言っても昨日の魔獣の大量出現も尋常な状態とは言えなかったので用心の為に『おしり~』の位置づけを利用して一団を隠匿する結界を掛けておく。この結界魔術は昨日サギに教えたものと同質な為、魔術式の魔力気を放出した瞬間にサギはそれに気が付いた。
「ラリー、それって昨日のあれと一緒なの? でも、もっと魔力気の純度が高いように感じるけど? 違って?」
「ああ、そうだね。サギに教えたのはこっちの魔力を隠匿する魔術で、これは全ての『気』を隠す魔術だからより魔力気の純度の高さが必要だな」
「ふ~ん、え――っですわね、まったく。ラリーったら簡単に言ってくれてますけどそれってすごい事なんですよね? そんな純度の魔力気をず――っと放出し続けていたら私だったら死んじゃいますわ」
「サギの『闘気』も純度で言えば十分高いと思うよ」
「でも、そんなに続ける程は魔力量がないですわ」
そう言いながらも俺を見るサギの目は好奇心に満ち溢れている。俺はおもむろにサギの右手を取って、俺の魔力気をサギの『闘気』の固有値に合わせ直して放出してみる。無論、他人の魔力気に近寄せる事など簡単な事では無い、と言うのも以前サギが落とした日記に掛けていた罰則呪術付きの本人承認鍵なぞはこの個々の魔力気の固有値が認証の鍵となるわけだから、これを合わせる事が出来ると言う事は成りすましが可能と言う事になるわけだ。
「なぁ――――うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
サギが目を白黒させて呻く、最初は自分自身の魔力気と同じものが外部から流入するわけだから身体が一瞬拒絶反応を起こす、その為、感覚的に吐き気を催すような嫌悪感に犯される。が、サギの魔力気レベルであればそれもほんの一瞬の事だ。
「んっ、あっん――んっ、わっあっつい! 火照ってるの手が――っ!」
サギはつなぎ合わせた手をジッと見つめている。握りしめたお互いの手から真紅の輝きが発して、結界魔術が増幅していた。
「ラリー、何々? どうなってるの? 私どうしたの?」
サギが矢継ぎ早に質問を投げかけてきている、混乱するのも無理も無い。連携魔術なんぞそんじょそこいらじゃお目にかかれる代物では無いはず。俺だって此をやるのは数えるしか無い、魔力気の固有値に合わせるとは言っても実際は臓器移植みたいなところが有るから、おおざっぱな型が合う以上に正直やってみなければ合わない相性というものがある。しかし、サギとの相性は完全と言うほか無かった。
俺の魔力気は今はほぼサギへの魔力供給源としか機能していないはずだ、結界魔術自身はサギの魔術が発している状況だ。それでも、さっきまでの俺ひとりの結界魔術の数倍の力で広域に出ているのはわかる。サギも認識しているだろう。
「ねぇ、ラリーっこれって、私の魔術なの?」
「そうさ、サギが起点になった魔術に置き換わっている、俺はサギにとって単なる魔力供給源でしかないよ、今は」
「うん、わかるの其れが……すごいね! 魔力切れなんか全く無さそうに思えるの」
俺達はこの結界を維持しながら、護衛師団の最後尾を歩いていた。
暫くサギと手を繋ぎながら歩いていた。何度か途中休憩をして休息を取りながらヴィエンヌを目指す。広域結界魔術の為とは言え二人とも手を繋いでいる事に最初は恥じらいがあったがだんだん其れも気にならない程お互いになじんできた。
「ラリーねぇ、こうやって手を繋いでいると周りからどう見えるのかしら? 恋人同士にみえるかなぁ?」
「ああ、そうかもな、前の集団からの俺に対する視線が既に其れを物語っているようだよ、視線と言うより……殺気だな此はもう」
俺は冷や汗をかきながらこの状態に耐えるしかなかったが、まあサギの人気を知る俺としては其れもしょうが無い事と諦めていた。それに見合うだけの役得である事は紛れもない事実であるから。
「そっかぁ……うふっ」
なんかサギは特別にご満悦みたいだな、終始ニコニコしているわ。でもまあ、この連携魔術は規模の割に負荷が滅茶苦茶低いわ、俺も楽になれるし。
まあ、もう暫くはこのままでも良いかって俺ひとり思っていたよ。
次回【43-2話:再びヴィエンヌへ!】を掲載予定です。




