【42話:護衛師団の再出発です!】
サギが疑問を呈したように今日の護衛の対象は特になくなった為、護衛師団の行動は皆、好き勝手だった。そうすると案の定サギとウギの所には今とばかりに人集りが出来ていた。
まあ、戦乙女四十八人衆-非公式ファンクラブでトップ人気のサギは優に及ばず、初見のウギでさえサギに劣らぬ容姿の持ち主であるし何せそのグラマラスなスタイルは可愛らしさの顔立ちに相反して男心をそそるらしかった。まあ、余りに酷い奴らはヴァルが一掃してくれていたから心配は無かったが、それでも出発を控えて仕度時間をないがしろにし始めていたのが、ニコラス近衛師団長の逆鱗に触れた。
「――お前達は、護衛師団の誇りも騎士の尊厳も無くしたのか! 馬鹿者ども!」
ニコラス近衛師団長の一喝でサギとウギの周りにいた集団は蜘蛛の子を散らすように去っていった。
残った俺達はお互いの顔を見合わせながら、大きく溜め息をついた。
「『ふう~ぅ』」
三人同時の溜め息も、まあ其れは綺麗に和音を奏でていたね、傍から見れば見事なハーモニーに聞こえただろう。
「サギもご苦労様、まあ有名税と思って諦めないとね」
そんな風にねぎらいの言葉を掛けたつもりだったがサギにとっては気休めにも成らなかったらしい。
「ラリーっ! そんな言葉は言って欲しくは無いですわ。私はたったひとりの人……だけに見ていて貰いたいのよっ!」
「あっぅ――――悪かった思慮を欠いた言葉だったね、すまない」
何にご立腹なのかさっぱり解らないでいる俺はサギの剣幕にたじたじになっていたが、サギもそのうち冷静になってきたようで、自分の言葉が単なる八つ当たりであると後悔して素直に謝ってきてくれた。
「……ご免なさい、私の方こそ言い過ぎました……ラリーに八つ当たりしてたみたいですわ」
「妾は特に何にも感じ何のじゃがのぅ~、まあ、今日は皆、暇なんじゃろうて」
ウギは人集りに関しては我知らずでいられる性格であるらしい。まあ、ヴァルが傍にいてくれれば無闇に近づく輩はいないからな。
「そうは言ってもだよ……ウギも注意はしておいた方が良いぞ、ほらねぇ」
俺の言葉に何か感じ取ったらしく、咄嗟にウギは後ろを振り向いた。そこには案の定いつの間にかヨル爺が今にもウギのお尻を触らんとしている態勢で両手のひらをお尻に向けて近寄っているところだった。
「――で、何をしようとしているのじゃ! おい爺!」
「へっ――ぁ」
おいたをしようとして叶わずに見つかってしまった悪ガキの如く、ヨル爺は踵を介して逃げ出した。
「こらっ~! ま~てぇ! 爺! 逃がさんのじゃ!」
顔を真っ赤にして怒ったウギが腰の刀を抜き出しながらヨル爺を追いかけていった。まあ、これも今この時が平和な証拠か~。
しかし、ひとつ疑問があった。ヴァルの奴はとっくにヨル爺に気付いていたはずだろうに? 此は直接聞いてみるしかないかな? 俺は魔力念波でヴァルに語りかけてみた。
“ヴァル、お前なんでウギに先にヨル爺の接近を教えなかったんだ?”
“あらっ~、あれはあれでお互い楽しんでいるのよ、お嬢も。ラリーにはわからないわよね~ぇ”
“ん~っ――――全然、わからん”
そんなものなのか? 俺にはまだまだ修行が足りないらしいと今日は思っておく事にした。
今日は残りの道中ヴィエンヌまで怪我人を含めゆっくりと進めば良かった。朝方のドタバタもそんな余裕から生まれた産物だったんだろう。リッチモンド家の使用人の方々が朝食の後片付けをしている間に護衛師団一行は身支度を調えてそれぞれ今日の護衛の任務割りを確認していた。
「俺達は最後尾だ、しんがりをつとめる事となった」
俺達の任務内容をサギとウギそしてヴァルに伝える。
「最後尾か~、ほほうじゃのぅ」
「何か不満かウギ?」
ウギの反応がいつもと違っていて何か引っかかった、俺は即座に聞き返す。
「んっ、不満ていう事じゃないじゃのぅ~ただなんだのぅ、最後尾って『お尻』って事だろうにのぉ」
「おまえ『お尻』ってな~ぁ、確かにそうなんだが何か嫌な言い方だな」
「そうじゃろう、お尻じゃぞ……お・し・り」
いやいや、おしりをそんな風に強調されてもね。単なる言葉の綾じゃ無いか。
「確かにね、お・し・りって言うとね……あれねぇ~」
おいおいサギまで何を言い出し始めているんだか、しかも恥ずかしいのか頬を赤らめながら言う事か? おいっ!
「だってさぁラリーっ、さっきもウギはヨル爺におしりを触られそうになっていたのよね?」
「そうじゃぞ、あの爺、妾のおしりを狙って追ったのじゃ~、そんなに妾のおしりは――かのぅ~? ラリーっちょっと触ってみてくれぬか~?」
ウギはその露出の多い装備礼装の格好でおしりの方を俺に向けてチョンと突きだしてきた。ウギの服装はホットパンツ風の装備礼装でしかも身体の線がきっちり出るようにピタッとおしりに張り付いて情欲をかき立てる艶っぽさを醸し出している。実に目の毒だ。
一瞬、目のやり場に困って俺は咄嗟に後ろを向いた。
「えっ! ウギ! コラッどさくさに紛れて何を言い出してるのかしらっ!」
「あっ、触られるのは妾の方じゃぞ、触るのはラリーじゃ、別段問題無いであろうにのぅ」
「うんっ、そう言われればそうかもね、ねっ私もいいかな~」
「いいんじゃないかのぅ、二人しておしりを触って貰おうかのぅ」
「……っ」
さっきのウギの行動で彼女のおしりを直視出来ずに咄嗟にウギに背を向けたので、俺はウギとサギの顔色を窺い知る事は出来ないでいた、だが二人とも笑いを堪え切れず、くすくすと吹き出し始めているのはわかる。絶対に俺をもて遊んでいるな彼女等は……、そうわかっていても俺には何にも出来ないでいた。残りの手段は無視する事だ、この場は彼女等の勝ちでいい! 気を取り直して俺は号令を掛ける。
「――――さっ、行くぞ」
「うん、『おしりへねぇ』」
二人の綺麗にハモる言葉に思わず俺はすっころびそうになりながらも何とか態勢を立て直して持ち場の位置へと歩んでいった。
次回【43-1話:再びヴィエンヌへ!】を掲載予定です。




