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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【41話:再出発の日の朝です!】

 昨日の夜の事は夢のように思えていた。サギとの長い接吻の余韻は次の流れ星を見つけるまで続いていたような気がする。その後はお互いに照れくささもあってか、そのままふたりともお互いの背を向けて黙ってしまった。俺もなんて言葉を掛けていいか解らなくて、でもそんな空気感も心地よくって――そんな感じでいたらいつの間にか寝付いていたようだった、ふたりとも……。


 小鳥のさえずりと共に眩しいばかりの朝のきらめきが俺を起こした。目を覚ましたが俺は起き上がれなかった、どこかを痛めていたわけでは無い。ただ俺の胸の辺りには金銀の眩いばかり輝く髪筋かみすじがあったんだ。右胸にはウギの髪筋かみすじが、左胸にはサギの髪筋かみすじが……そう、ふたりとも俺に抱きつくようにしてすやすやと眠っていて俺は起き上がる事が出来ないでいた。

「……まいったなぁ~」

 重いわけでは無いが、無闇に動いて彼女等を起こしてしまうのもはばかられた。

 そうこうしていると、先にウギの方が起き出してきた。

「――――んっ? あ~れ~っ? わらわは……あはっ、ラリーっおはようっじゃ」

 ウギは俺の胸の上で軽く頭を上げて俺の方を見ていた。ウギの寝起きの顔はまあ、可愛いなんてもんじゃ無かったよ、柔らかな日の光が天使の目覚めを照らすような光景を俺は目にしていた。

「おはようウギ、よく眠れたかい?」

 俺はドギマギする気持ちを悟られないように平静を装って挨拶をしていたよ。

「んんっ、寝た寝たっ! ラリーの胸枕は寝付きが良いのじゃ」

「そっか、其れは良かった。で、そろそろ離れてくれないかな~ぁウギ」

「あっ、ごめんじゃ」

 ウギは俺の胸の上から起き上がるようにして身体を入れ替えようとしたんだが――?

「ふにゃ~っ」

 変な擬音を発しながら俺の顔の上に乗っかかってきた……ウギの顔が、てっ、言うか……ウギの唇が! 次の瞬間、俺はウギと口づけをしていたよ? えっ?

「んっ……」

 ウギの方はそのまま俺との接吻を続けていて、押し殺すような甘い吐息を漏らしていた。

 そして、ウギは俺から唇を離した後ぼそっと呟やいたんだよ。

「――昨夜はサギに譲ったからのぅ、いいじゃろ、今は……」

「うっ……!」

 ウギの奴、昨夜の事を見ていたのか、てっきり寝付いたとばかり思っていたのに。俺は自分の浅はかさを自分でなじっていた。


 ウギが起き上がった後、サギも目覚めたようだったが……。俺の胸枕で眠っていた事に気付いたとたん顔を真っ赤にして、はにかんだような笑顔をしていたよ。その微笑みは忘れられない程、美しかった。

「あんっ、ラリー、あんまりこっちを見ないでね」

 そう言いながら、自分の両手でサギは顔を隠すようにしてうつむいた。


 護衛師団の一行も個々の焚き火の周りでそれぞれ野営をしていたようだったが、朝の到来と共にぼちぼち起き出してきた者も出てきた。ウギとサギは二人揃って近くの小川まで顔を洗いに出かけていった。ひとり残った俺はもうひとり居残った相棒に問いかけてみた。

 “ヴァル、俺っていつから色男になったんだ?”

 “そうね、あなたに合った女のに今まで出会ってなかっただけでしょ”

 そう言うもんかな~ぁ? 俺はあごに指をあてながら小首を傾げていたが、ヴァルがすくっと立ち上がって俺の方に向かってくるから何かと思って思案していた。次の瞬間、ヴァルが顔の届く所まで近寄ってきていて、おもむろに俺の唇をヴァルがその舌でペロッと舐めたんだ。

「あっ、え――っ!」

 余りに自然に舐められたので、舐められた事にすら暫くは気付かなかった。

 “ラリーっ、ちなみに私もあ・な・た・が好きだからね、覚えておく・よ・う・に!”

 俺を棒立ちにさせたままそんな魔力念波を残してヴァルもウギ達の後を追っていった。

 最後にひとり取り残された俺はただただ々、惚けているしかなかったよ。


 日も昇りそれぞれの身支度を整えている間に朝食が配給されてきた。リッチモンド家の使用人の方々が炊き出しの当番をかって出てくれている。使用人の中には当然料理人のプロもいるので料理のレベルは高かった。俺達のチームにもご多分に漏れず優雅な朝食が回ってきた。

「ラリー、ウギ、ヴァル――朝ご飯よ!」

 サギが皆の分を持ってきてくれた。消し炭になった焚き火跡を車座になりながらサギが持ってきてくれた朝食を頬張ほおばった。

「今日はヴィエンヌの街に戻るんでしょ、私たちはどれを護衛すれば良いのかしら?」

 昨日まではリッチモンド伯爵がいらっしゃったから任務が明確になっていたが、今日は伯爵家御一行様は既にヴィエンヌにお着きになっていらしゃるので何を護衛していくのかが曖昧になってる。

「確かにそうだね、今日は護衛任務と言うよりは移動日の一部かな? 多分」

 俺はサギの質問に曖昧なままだがそんな風に応えて於いた。

「じゃ直ぐにヴィエンヌに着いちゃうね」

「そうだな、昨日の移動から考えると確かに――そうなるな」

 俺は昨日の出来事を思い出しながら道順を考えてた。そんな時、ウギが問うてきた。

「昨日で思い出したのじゃが……ラリーにサギが渡した御令嬢からの手紙には何が書いてあったのじゃ?」

 ウギっ、そんな唐突に……ほらっサギの顔色が曇ってきたじゃ無いか~っ! と心の中で俺は悲鳴を上げていたがそんな呻き声が届くわけも無かった。

 おもむろに胸元の内側の衣嚢いのうから手紙を取り出してウギに渡した。

「ほらっ、特に何って無かったよ――お礼の手紙だ」

 ウギは俺の手から其れを引ったくるように掴むと手紙を開いて読み出した。サギもさっと近寄って行って覗き込んでいる。二人して手紙を食い入るように読み終わると、半眼で睨んできた。

「――『……今日の晩餐会を楽しみにしております。』ってあるわね~っ、何があるのかしら~?」

「いや其れは、社交辞令だろう、普通ぅ」

「ふん~、ただのご挨拶ょて言う訳ね~っ、じゃさぁ……私たちが一緒に行ってもいい訳ね?」

「……それはぁ」

「い・い・わ・よね!」

「……はいっ」

 まあ、逆らえるわけは無かったと言うよりは……俺は静かに従った。

次回【42話:護衛師団の再出発です!】を掲載予定です。

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