【40話:星空の下で!】
今宵の星空はとても美しかった。何がとか何処がとか言われても表現のしようが無いから困ってしまう。ただ単に俺のボキャブラリーが乏しいだけなのだがそこはご容赦願いたいものである。
寝具に包まり仰向けで夜空を見上げながら今日一日の出来事を思い浮かべてみた。
何と言っても魔獣達の襲来である、そこで俺は自分に持していた制限を解放せざる得ない状況に追い込まれていた。結局、『覇気』の解放を行う事となってしまった。此処までの魔力気を操る人間などそういない、いないと言うよりもその時点で人間では無いと言った方が正しいかも知れない。こうなればもう魔族と呼ばれてもおかしくは無いかも知れない。まあ、人型の魔族が少ない事からも見た目には違和感が色々出てくると思うが、要は畏怖の念である。
人は自分と違うものに対して異常に拒否反応を起こす事がある、知らないもの知らない事、理解を超えたもの理解できないものへの恐怖心だ。今日、俺はそんな状況を周囲に与えてしまうまでに追い込まれた。全ての繋がりを捨てる覚悟をしたし、また孤独から始める覚悟をした。がどうだろう、今、俺の傍にサギがそしてウギが気持ちよさそうに寝息を立てている。彼女等が恐怖心で俺から離れていかなかった事だけでも不思議に思うのに、離れるどころかより親密になってきた感さえある。俺は彼女等に救われたと思っている。
「……ねぇ、ラリー? 眠れないの?」
もう寝てしまったと思っていたサギが声を掛けてきた。
「あっ、悪かった起こしてしまったか?」
「ううん、私も寝付けなかったの……少しお話ししてもいいかしら?」
「ああ、俺もそうしてくれると有り難いかな、なんか色々考えてたら眠むれなくなってね……」
そんな会話の後、俺達はお互いの顔を見合わせる為にサギは右を向いて俺は左を向いた。
星の淡い光に照らされたサギの顔立ちは其れは美しかった。特に瞳の輝きは宝石の如く煌めきを放っていた。思わず見惚れてしまってしばし言葉を発するのを忘れてしまった。
「……ラリー? どうしたの?」
「……あっ、ごめん……サギの――っ」
「な~にっ?」
「……ああ、見惚れていました・す・まん・」
「えっ……まっ――っ」
サギの表情が夜の闇の中でも解ってしまうほど頬が真っ赤になり、よほど驚いたのか眼も居心地悪そうに泳いでいる。もっとも、そう言った俺の方が恥ずかしくてその後の言葉が続いてこなかった。
「……あっ、ありがとう」
サギは照れながらも小声で弱々しくも応えてくれた。
「……いきなりで悪かった」
「ううん……そんな事無いよ、嬉しい」
ちょっと、はにかみながらもサギは破顔一笑で喜びを返してくれた。まあ、確かに俺も唐突すぎたと反省至極だ。
「ねえ、今日の事なんだけどあれって普通に出来る事なの? ラリーは?」
一瞬、サギの質問の意味がわからなかったがサギの目を見ていたら何となく聞きたい事がわかった。
「ああ、『覇気』の事か? 十五の頃に覚えてしまってたかな、覚えたと言うよりは覚醒したって感じだったな。無論、今とは違って最初の頃は旨く制御出来ずに周りに醜い事をした時もあったよ」
「そうなの? あんなオーラは初めて見たわ」
「……怖がらせたよな、あれでは人間には思えないもんな」
俺は思い出して自虐的になってしまった。
「ううん、びっくりしただけ! 怖くなんか無かったわ、だってラリーは何があってもラリーだもん。あれもラリーの単なる一面でしょ、だってラリーはいつだって優しいし……それに女の娘には意気地無しだしね」
何じゃそれは、って思ったが確かに……鼻血を吹いて倒れてばっかりだしな。意気地無しって言われてもしょうが無いか。
「なんかしょうもない奴みたいだな、俺っ」
「あっ……違うの……決してそんな意味で言ったんじゃ無いから~っ」
「いいよ、解ってるから、やっぱり男としては情け無いからな~っ」
「違う違う! そんなラリーが私はいいのっ! あっ……」
サギは思いっ切りそう叫ぶと、しまったというような顔をして真っ赤になっていた。
「えっ、意気地無しでも良いのか?」
「それは、もう少しは……(積極的になっては欲しいけど)」
「…………」
俺は黙るしか無かったよ――っ。
「『ごめん』」
ふたりの言葉がハモった、しかしふたりとも何に対して謝っているのだろうか? 得てして会話の流れがおかしな方向に向かう時はこんなものかも知れないな。
「あっ、今、星が流れたよ、ねえ、見た見たラリーっ?」
さっきまでの会話で、ちょっとふたりとも照れあって気まずい空気になったので、仰向けで星空を見ていた時にサギが叫ぶように言った。
「ああ、見えたよ。赤い尾びれがすっと残ったね」
「うん」
「俺も星空をこんな風に見上げながら、流れ星を待っているなんて無かったなぁ」
俺は今まさに本心で思った事をしみじみと話しかけ直した。
「私もずっと夜空なんか見上げる事は無かったわ、ラリーと同じで」
「そうだよなぁ~、なんだかんだで生きるのに精一杯って感じだったしなぁ」
「……十五の頃に、あっ、前にも話した事があったねぇ、ニネット爺さんの事、修行って言えば聞こえが良いがあれはほとんど虐待に近かったな、ほんと。毎日が魔力量の限界まで出し入れさせられてたよ限界状態が魔力気の増幅には効果的なんだって。で、爺さんの事だからいい加減でさ、俺に対して手加減を誤ったのかな、ほぼ俺は瀕死の状態になって爺さんと勝負をした時だったんだけど、俺は最後の方は記憶が無いんだ。でも、『覇気』に近い魔力気放出の痕跡は残っていたらしく、それからそんなイメージを再現させる為に毎日繰り返していたよ、同じ魔力気を作り出せるように繰り返し繰り返しってね、其れが今じゃあれだから……ほぼ魔人だよね、あははぁ」
話をしていて、最後は乾いた笑いが込み上げてきてしまった。
「ラリー、そんな風に言わないで私はそうは思わないから、ラリーは人間以外の何物でも無いから、そう言う言葉は私は嫌っ、ねっラリーっ」
サギはそう言いながら俺の顔の上に覆い被さってきたんだ、そして貴女の唇を俺の唇の上にそっと優しく重ねた。途轍もない柔らかさと温かな想いが伝わってきて、心が解け出してしまったように感じた。貴女の放つ薫りがとても心地よくてそのまま、ずっと口吻ていたかった。
次回【41話:再出発の日の朝です!】を掲載予定です。




