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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【39話:取り敢えず護衛師団に合流します!】

 俺が目覚めた場所はまたまた馬車の中だった。俺が倒れたあとの事はサギから聞いた話しになる。今の俺は馬車の中でサギの膝枕に全てを忘れてただ横たわっていたかった。そんな中でもウギが操る馬車は走り続けている。

 俺が倒れた後、メイラーさんがお嬢様の言づてを持って訪れてきたらしい。今宵のリッチモンド伯爵の晩餐会への招待であった。サギはそれを丁重にお断りし代わりに戻るときのために馬車を借りる手筈てはずを整えておいてもらったとの事だった。確かにニコラス師団長等の到着が未だの状況では俺たちにとっては晩餐会なぞに興じている余裕は無いはずだった。その代わり、護衛師団一行が到着次第リアーナお嬢様には改めてご挨拶にラリーを伺わせますとの約束をしてきたようだった。

 そこ辺りの処置の仕方は流石はサギと感心したが、お嬢様に改めてご挨拶に伺うのが何故、俺なのかは問いつめておきたかった。

「なあ~っ、サギ。護衛師団と共にヴィエンヌに到着したら挨拶に行くのがなんで俺名義なんだ?」

「あらっ、だってラリーのパーティーなんだからリーダーのラリーの名前で良くなくって? だってそうでしょ、ねっウギっ」

 サギはそう言って御者台の上のウギに話しを振った。

「そうじゃ、わらわも同感じゃ!」

 ふ~ん、そう言うものか? まあ、此は此でまあいいか。

「……で、と俺は何でサギの膝枕で寝ているんだ?」

「あらっ、私の膝枕では……お嫌でした? ラリーさ・ま・っ、お嬢様が宜しかったですか~ぁ?」

 あっと、このサギの口調は危険信号だ、まずい!

「滅相もない、サギの膝枕が――いちっ・ば――サギかウギのが一番いいです」

 危なかった、ウギには未だ膝枕をしてもらったことが無かったのでウギの名を言い忘れるところだったよ、一瞬、ウギが背中越しに殺気を放ったのが判った事で言い換えが間に合った。

 でもなあ、俺が聞きたかったことはそういうことでは無いのだが。

「……ちょっと待った、サギっ! 誰の膝枕が良いかって言う事じゃなくてだな、何で俺は膝枕をしてもらっているかって言うことなんだが?」

「だってぇ、ラリーが倒れたら膝枕で介抱してあげるのが鉄板でなくて?」

 おい、俺の介抱は膝枕付きが標準装備かい! サギの言い訳には何か含みが有りそうで怖いわ。でも、まあ俺としては嬉しい限りだが……良いのか其れで。

「前に倒れたときは別段膝枕はなかった筈だが? なあ、サギっ」

「だってあれはお嬢様の前ですもの、流石に其れは私でも躊躇ちゅうちょしましてよ、あっ、あれですね、あの時、逆に膝枕でラリーとのいちゃつきを見せつけておけば良かったのかしら? 失敗しましたわね私としたことが無思慮むしりょでしたわ」

 おいおい、サギさん何か最近キャラ替わってきてませんか? 俺は口に出しては聞けない言葉を飲み込んだ。

 いつまでもこんな風に楽してはいられない、おもむろに俺はサギの膝枕から起き出して御者台へと移った。

「あ~んっ、ラリーてばっ!」

 後ろでサギが名残惜しそうな表情でひと言、唸っていた。

 御者台に上がってウギの左側に座った。

「ウギ、手綱替わろう」

 今乗っている馬車は応接馬車のような大きさは無い。と言うより三人だけの移動で有り護衛師団との合流後の使い勝手も鑑みて小型で軽量な速度重視の馬車を借りてきていた。お陰で馬車内の客室と御者台の間には出入り口が設けてあり自由に往来が出来る。

「んっ、具合はもう良いのかラリー? わらわの事なら気遣いはいらぬぞ、もそっとサギの膝枕で休んでいれば良いものを――(わらわもぉぉっ膝枕してあげたいぞぉ……)」

 ウギは唇を尖らかせてぼやくように言った。自分の行動が原因で俺が鼻血を出して倒れた為その責任を感じて膝枕をサギに譲って御者役を引き受けたのだろう。そんな心根の可愛らしさに俺はわしゃわしゃとウギのつややかな銀色の髪の毛をなで回した。

「んっ、んっ」

 頭をなで回されているのが気持ちよさそうにウギは唸っていた。

 ウギから手綱を引き取ると俺は速度を上げる為に馬にむちを入れた。時間的にも余りゆっくりはしていられなかった。そんな事をしているとサギも客室から御者台に上がってきた。

「あ~ぁ、ラリーを折角独り占めできるとおもっていたのですよ~」

 そんな風にぼやきながらサギは俺の左側の御者台に座る。ヴィエンヌを目指していた時と同じように三人が揃って御者台に座ることになった。

「そうそう、メイラーさんから伝言っていうか、即ちリアーナお嬢様からの伝言なんですけれど――はい、これっ!」

 サギはそんな風に言いながら一通の手紙を俺に手渡した。

「ちゃんと渡しましたからねラリーっ、お嬢様に後で疑われては私が困りますから……ちゃんと読んでおいて下さいね」

「何なんだ、この手紙は?」

「そんなのっ……私が知る訳ないでしょ――ふんっ」

 サギのえらい剣幕に押されて俺はたじたじになった。

「……恋文かのぅ……」

 ぼそっとウギが呟いたよ。その一言は地雷ですからっ!

 それから暫くは三人とも無言で過ごす事となった。速度を上げた馬車の風を切る音だけが空しく闇夜に響いた。


 来た道を戻る時ほど距離感覚が短く感じる事は無い。馬車も換えて貰って早馬になっていた訳だが護衛師団の一行と合流したのは予想していた時間より遙かに早かった。

 俺達がリッチモンド伯爵一行を先に城下町ヴィエンヌに送り届ける為に出発した後、護衛師団は山間を抜けて平地の見晴らしの良い場所までゆっくりとだが移動をしていたらしい。怪我人も多く自力で移動する事が出来ないほどの重傷者もいたので流石に今までと同じような移動速度は取れなかったらしい。それでも、その後の魔獣の襲来も無く順調とは言い難いが今夜の野営に適した場所の確保は出来ていた様であった。

 俺達はニコラス師団長に帰任報告と共にリッチモンド伯爵一行の無事を伝えた。俺の任務の成功報告は護衛師団全体の成果である事から皆が喜んでくれて、特にリッチモンド家の使用人の方々は伯爵様一行の無事を聞き俺達をもみくちゃにしながら大喜びしてくれていた。その喜び具合とヴィエンヌの街とお城での伯爵様やリアーナお嬢様への歓迎モードからも領民から慕われるいい領主様であることは確かな事が感じられた。

 兎に角、今日は疲れた。野営と言う事も有り今夜は焚き火の周りで車座になりながらそれぞれ眠りにつく事になった。俺達四人?(三人と一匹と言うとヴァルの機嫌を損ねる) は寝具を手に小さな焚き火のひとつを確保して貰えたので、その周りにそれぞれ個々の寝床を作って満天の星空にいだかれるように眠りにつくことにした。

次回【40話:星空の下で!】を掲載予定です。

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