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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【38-2話:城下町ヴィエンヌにて!】

 それから、お城までの道すがらは余り良く覚えていなかった。ただただ々、夢心地と言うかぼ~っとした状態のまま馬車を操っていた気がする。

 そんな御者台の上の俺の姿を左右の相棒達は白い目で睨み付けていた。

「……まったく、ラリーが女性に対しては此処まで無防備とは――私もお嬢様に隙を突かれましたわ」

 左隣のサギが頭を抱えながらそんな風にぼやいた。

「……わらわも同感じゃ!」

 右隣のウギがそれに応えて愚痴ってくる。

「お嬢様が本気でラリーの事を慕ってきていたなんて……迂闊うかつでした、うっっ……」

 サギが泣きそうな顔でさらに呟いた。

 俺は思わず左側を振り向いてサギを見つめた。サギも俺を涙目で見つめている。

 やっと俺は自分のしてきたことの重大さに気付いた。

「……あっ、サギ……悪かった」

 その言葉を聞いて、サギは目を逸らしながらうつむき加減で話しかけてきた。

「きっと、お嬢様は……ラリーの事が本当に好きになったのよ――いいのよラリー、あなたの自由だもん」

 サギは自分の唇を噛みしめながらも、心にも無い事を吐露しているように見えた。

わらわは嫌じゃぞ! サギみたいに心が広くないからのぅ、確かにわらわめかけでもいいと言うたが、其れとこれとは別なのじゃ!」

 ウギの言いぐさには物言いの屁理屈が幾つでも言えそうだが、此処では言えはしなかった。

「ウギにも……わり~い」

「『このままじゃ――ゆ・る・さ・な・い!』」ふたりの気持ちがハモっていた。

 そして、俺の左右の腕をそれぞれ引き寄せお互いに自分の両腕を絡めてきた、そしてふたり共、同時にその愛らしい顔を俺の方へと近づけてくる、目を閉じて口づけを求めるかのように――。

 そこまでされたら、俺も――。

 右を向いてウギの唇に俺の唇をそっと重ねる。そして、左を向いてサギの唇にも俺の唇をそっと重ねた。お互いの唇が離れた後、ウギもサギもうっとりした表情を浮かべてほんのり頬を赤らめながら俺の肩にふたりとも顔を乗せてきた。

「『……ゆ~る~す~ぅ』」また、ふたりの気持ちがハモっていた。

 “みんな、お馬鹿さん達ね、もう~” 久しぶりにヴァルが魔力念波で突っ込んできたんだった。


 御者台の上でそんなことが有ったかどうか知らない馬達は忠実に仕事をこなしていて、いつの間にか馬車はお城へと着いていた。

 門兵に開門して貰い、伯爵様一家を乗せた馬車をお城のエントランスホールの前に横付けする。

 馬車の周りはリッチモンド伯爵家の衛兵やら使用人達でごった返していた。

 俺達はそんな喧噪を少し離れた所から見ていた。馬車からリッチモンド伯爵らが出てきて周囲から一斉に歓声が上がる。と、その歓声もさらに一気に大きくなった、それは御令嬢リアーナ・リッチモンドの出現に他ならなかった。リアーナお嬢様は馬車から降り立つと周囲を見渡して誰かを探しているようだったが、俺達の姿を見つけるとにこりとした笑みを携えたまま此方に向かって一礼をしてから伯爵様の後を追ってお城の中へと入っていった。

 喧噪は波が引けるが如く無くなっていった、と共にエントランスホールの前には静寂が戻ってくる。

 ふと、左側に並んでいたサギが俺の顔を覗き込んできた。

「ラリー……いいの? お嬢様と一緒にお城に入らなく――てっ?」

 その顔は小悪魔のような微笑みの口元とは裏腹に目元は決して笑ってはいなかった。

 俺は苦笑いを浮かべながらサギの唇に俺の左手の人差し指の腹を押し当ててその後の続くであろう言葉を遮った。

「うっ……」

 押し黙ったままサギはそれ以上、言葉を続けなかった。

「俺には手に余る相棒が――二人もいるからな」

「なによ、それっ!」

 サギが膨れっ面になって食って掛かってきた。

「そうじゃぞ、何が手に余るじゃ。両手に花じゃろうがのぅ~」

 ウギがそう切り返してくる。そして、いつものように俺の右腕にその両腕を絡めて抱きかかえてきた。

「ほら、花は花でもこんなに暖かくて柔らかなふさじゃぞ、まあ乳房と呼ぶがのぅ――ほれほれっ」

 おいっ、だからそれじゃ胸が当たっているって言ってるだろうに……、しかも其れをやっているウギ本人が顔を赤らめながら照れているのがわかった。

「ウギっ、コラっ! あなたまたそんな風に――ラリーがまた倒れでも……えっ? ラリー……いま、平気なの?」

 サギが驚いた風で俺の方を凝視した。

 あっ、そう言えば……照れくささは残るが頭の中が真っ白になるようなことは無くなっていたよ。

 これって、免疫? 俺は右腕に押しつけられてるウギの胸元に目を落として見た。肌の露出度の高いウギの服装ではその豊満な胸元が様子が良く見て取れた。ウギの溢れ落ちそうなその胸元は俺の腕に押しつけられて柔らかさを強調するかのようにその形をつづ変えていく。

 感触での耐性はつきつつ有ったようだが、視覚からの刺激に対しては――まだだった。

 ウギの胸元に目が釘付けになったまま視線が外せなくなって、またもや一気に羞恥心がピークに達した、三度みたび、俺は鼻血を出しながら気を失って倒れ込んだ。

「『あっ、ラリーっ』」

 これもいつものように仲よく二人のハモる声を聞きながら、俺の心は天に昇っていった。

 “ラリーって……天然バカ?”

 そしていつものように最後にヴァルの魔力念波が俺の意識の隅を横切っていった。

次回【39話:取り敢えず護衛師団に合流します!】を掲載予定です。

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