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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【38-1話:城下町ヴィエンヌにて!】

 ヴィエンヌの街は活気にあふれていた。外は夕闇が覆う夜というのに、ひとたび街の中に入ると至る所に松明の明かりが掲げてあり、明るい街角が其処此処そこここに広がっていた。そんな街の中を行き交う人々は互いに笑顔で挨拶をし、商売人達のかけ声が露天ではあるが至る所で街の喧騒を創っている。そんな賑やかな街だった。

 そんな中を馬車はゆっくりとした速度で歩んでいく。


「ラリー様、この大通りを真っ直ぐに登っていくとお城ですから」

 車窓から顔を出してリアーナお嬢様が声をかけてきた。

「わかりました、お嬢様」

 俺は振り返りながら応えた。と、俺と目が合うとリアーナお嬢様は満面の笑顔を返してくれたよ。

「お主いつの間にじゃ? 随分、御令嬢と仲がいいではないかのぅ」

 ウギが“じと~っ”目で俺に訴えるように話しかけてきた。

 おいおい、今の会話の何処にそんな淫を含んだ部分があったんだ。そう思いながらも何故か居心地が悪くなってウギの視線を避けるように顔を逸らした。

「馬車の中でラリーはお嬢様に言い寄られていましたものね――英雄様にお嬢様は首ったけみたいでしたわ」

 そんな、火に油を注ぐような発言をサギがにこやかにしてくるがその実、目は笑っていないのが見てとれる。

「つ――っ」

 面と向かってサギには反論出来ないで居ると知ると貴女はさらに言葉でたたみ掛けてくる。

「それにラリーもまんざらでは無いようでしたからね~っ、ふんっ」

 頼むから、ふたりで共同戦線を張らないで欲しいな、絶対に勝てる気がしなかった。

 闘いの経験値は高いが、この様な場面に遭遇することなどは今まで皆無であったからどのようにして立場を回復させるかなどは全くもって解らなかった。こうなると針のむしろに座らされている気分と言う言葉が身に染みてわかった。

 俺は馬の手綱を操りながらもこの二人に俺自身の手綱が握られていることを実感していた。

「おい、馬達よ。お互い……慰め合っていこうか!」

 “――ぶるるっる” こんな俺の悲哀を知ってか知らずか、お馬様は唯一の味方のようだった。


 馬車は喧噪の中の町並みを抜けて高台にそびえているお城へとひた走る。つづら折りになった道筋を抜けて街の明かりが眼下に広がる見晴らしの良い場所に出た。

「ラリー様、此処で止めて下さい」

 馬車の中からリアーナお嬢様の声が響いた。

 その声に応じて、手綱を引き締めて馬車を道の傍らに止めた。

「『……?』」

 御者台に座っていた俺達は三者三様、互いに顔を見合わせながら何事かとそれぞれ思いを巡らした。程なく、リアーナお嬢様が馬車から出てくる。

「急いでいるところ、ご免なさいね」

 出てくるなり、俺達に深々と頭を下げてくるお嬢様。

「どうされました? 馬車に酔われましたか?」

 兎に角、俺は伯爵様一行の体調が悪化したのではと不安になって、お嬢様に問いかけた。

「ラリー様、ご心配には及びません。ただ、此処から見える夜景を愛でておきたかっただけなので……」

 そう言って、お嬢様は崖になっている道の端まで歩み寄った。

 俺達は御者台から降りながら、それぞれリアーナお嬢様の横に並んだ。

 眼下に広がる街並みの美しさは道中で見た夜空の星の輝きにも負けてはいなかった。

「美しい街ですね」

 俺は素直な感想を洩らした。ウギもサギもその言葉に頷いている。

「ありがとう、そう言って貰えると私も父も鼻が高いわ」

 そう言いながら、お嬢様が破顔一笑で俺達に応えてくれた。

 この町は生きている、そう思える瞬間だった。

「私は此処から見えます街の美しさが一番好きなの、だからお城に戻る時は必ず此処で止めて貰うのです。この美しき街がいつまでも続いていく様に日々励んでいるのですよ」

 そっか、そんなにこの景色に思い入れがあるのか。確かに夜の今だから夜景の美しさだけに目を奪われがちになるが、この光景の中では町の人々が毎日を懸命に生きているわけで、その結果として今の目に映る光景が在ることを忘れてはいけない。

「お嬢様の思いは町の人々にきっと届いていますよ」

 そんな言葉で言い切れるものでは無いと思うが、その時俺は適切な言葉を思いつくことは出来なかった。

「……英雄様に、そのような褒め言葉をいただけるとそれだけで日頃の苦労も報われますわ」

 しかし、リアーナお嬢様は何故か俺のことを何かと英雄扱いするようになって少しこそばゆい気がする。

 そんなお嬢様も先程の会話の後、少し照れたような仕草で頬をちょっと赤らめながら俯いて視線を逸らした。その可愛らしい姿には俺も少しどきどきしたよ。

「『ラリーっ!』」

 そんな俺の心情を察してか、サギとウギの叱責する呼び声が夜の闇の中に綺麗に揃って木魂する。


 しばし、景色に見とれていたが馬車の中から伯爵様のお声が掛かり城の方へと帰りを急ぐことにした。俺達は踵を返すと馬車へと向かう。そんな動きの中でひとつのささやかな事件が起こった。

 崖の方を背にするように身体を捻ったお嬢様はその後の最初の一歩で路傍の石に蹴躓けつまずいた。

「きゃっ――っ!」

 小さな叫び声と共にお嬢様が倒れ込んだ。その声に俺は即座に反応した、瞬間移動でお嬢様の倒れ込む場所へと先回りしひざをついて両手でお嬢様を抱えようとしたが……。

 リアーナお嬢様は何故だか、俺の両手を優しく払いのけると思いっ切り俺の胸元へと飛び込んできた。

 はっとして、お嬢様の顔を見つめるとまるで其れを待っていたかのように俺の首回りに両腕を伸ばし俺を抱え込むようにその腕で俺の顔を引きつけた……次の瞬間、マシュマロのような柔らかな感触が俺の唇に触れたのがわかった――――お嬢様の唇が俺の唇と重なり合っていたからだった。

「『――っん』」ふたりの吐息が夕闇に淫を奏でていた。


 そんな時間は長かったのか短かったのか俺にはわからなかった。ただ、重なった唇が離れた後にお嬢様はニコッとした笑顔を浮かべて俺のかたわらから逃げるように馬車の中へと走り去っていった。

 ひとり取り残された俺はただただ々その場に固まっていた。

「『ラリーっ! この~っう!』」

 言わずもがな次の瞬間、俺はサギとウギから思いっきりどつかれて地面に顔から突っ伏していた。

次回【38-2話:城下町ヴィエンヌにて!】を掲載予定です。


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