【37-2話:ヴィエンヌ城へ!】
俺達の様子はそんなもんだったが、肝心のリッチモンド伯爵家の護衛についてはサギの結界の効果もありその後の魔獣襲来は無く、山間の険しき道も何とかやり過ごして最大の難所はうまく切り抜けられた。その様な時間を過ごしていると程なくサギの機嫌も直って、ウギとサギは俺を真ん中に挟んで両側から俺の事を肴に話しに花を咲かせていた。
「ねえ、ウギさっきの場合は勘違いした私が悪いのかしら?」
「んっ、サギは当たり前の反応じゃと思うぞ、妾も同様の立場だったら……同じようにしていたと思うのじゃ」
「よかった、私が可笑しいわけじゃ無いわよね……ねぇ、誰だってあんな風に迫られたら……そう思いますわよね」
何が『そう……ね』なんだろう? あんな風に迫られたらってサギに迫った奴って誰のことだ?
馬車の操縦に集中力の半分を残りの半分の集中力を使ってウギとサギの会話に聞き耳を立てていた。
「しかもよ、私の顔を両手で挟んでまでして顔を近づけてきたら普通はねぇ~と思うでしょ、気を持たせるような仕草ですよね~」
そう言い放ちながらサギは俺の事を睨み付けてくる。サギの辛辣な俺への指摘はいつまでも終わらなかった。俺は何故にサギに恨まれているのかを解らないまま針のむしろに座らせられている気持ちだった。そして二人の間に挟まれている為に物理的にも気持ち的にもどんどん俺の肩身は狭くなっていった。
「サギ~っ、頼むからそんなに俺を虐めないでくれ~ぇ」
空しい悲鳴が俺の口から漏れ出ていた。
「なあ、ラリー。 妾には教えてくれないのかのぅ、サギと同じ結界の魔術式を……」
話を変えてウギが俺に話しかけてくる。
「ああ、ウギはまだ無理だな、さっきの結界の魔術式は『闘気』の魔力のレベルでそもそも『気』が合わないとな伝授は難しいぞ」
「むっ、そうなのか……残念だったのじゃ、てっきり妾にも教えて貰えると思っておったのじやがのぉ」
ウギは唇を尖らかせて悔しそうに呟いた。
ちょっと可哀想になったので、ウギにも伝えられる伝承魔術のひとつを紹介してあげた。
「ウギの『白気』は純粋な魔力気だから他の魔力の伝授は出来るよ、例えばそうだなぁ……瞬間移動とかかな」
「おおっ、それがいいのじゃ、教えて教えて! すぐにじゃ、今じゃだめかのぅ……ううっ」
めちゃくちゃ食いついてきたよ、ウギはしかも何故だか俺の方に目を瞑って唇を突き出してくるし。
「ウギっ? それってさ~なんか違うんじゃ無いかなぁ?」
「だって、ラリーはさっきサギにそういう風にしてたのじゃぞ」
「あっ、えっ~……そ、そっか」
そうか、其れでサギは……俺はヘマをしたことの意味を今、理解したよ。そばではサギが耳まで真っ赤になって俯いていたし。
「ウギの……バカっ」
何なんだこの状況は?
俺達の痴話話なんぞはお構いなしに時間は過ぎていった、でも馬車の道程はとても順調だったので思ったよりも速く城下町ヴィエンヌに着きそうだった。
夜空は満天の星達を抱え月の明かりさえも消し去る程の煌めきで数え切れない程の宝石を天空に撒き散らしたかのようだった。
そんな美しさを独り占めしたかのような錯覚の中、山間を抜け最後の森を抜けると、もうヴィエンヌは目と鼻の先だった。目的地を目の前にして一行を乗せた馬車はその歩みをさらに進めて行った。
馬車はヴィエンヌの城壁の前に着いた、城下町は小高い丘の上にあるヴィエンヌ城を中心に周囲に街並みが広がっていた。今、目の前にある城壁は外部からの魔獣等の襲撃に備えると共に街と森との境界を明確に分ける役目も果たしていた。
城壁の切れ目に街の中に入る為の門があった。
俺達は門を通り抜けようとして、守衛の為の門番に呼び止められた。
「コラっ、お前ら此処を通る為には通行手形を見せなさい」
その言い回しは少しは遠慮して貰いたいところだがでもまあ、其れも彼の仕事であるから仕方の無いことかも知れない。俺達は門番に少しそこで待って居て貰えるようにお願いをしてから馬車の中にいる人物に出てきて貰えるように交渉しにいった。無論、交渉役はサギである。
サギは馬車に乗り込むと直ぐにひとりの女性を引き連れて出てきた。
「通行手形は私の身体でいいかしら?」
その女性は門番にその様に言い放った。
「あっ、えっ~リアーナ様?」
女性の顔を見た門番は顔面蒼白になりながらその場にひれ伏すと共に、額を地面に擦りつけんばかりにして非礼を詫びた。
「はは~っ、知らぬ事とは言え誠に申し訳ありません、どうかこの事は平にご容赦下さいませ」
その言葉にリアーナお嬢様は門番の傍らまで歩みを進め、彼と同じように彼女はその膝を地面に付けながら門番の手を取った。そして微笑みを浮かべながらも優しく語りかけた。
「お立ちになって、あなたは忠実にその職務を遂行なさっただけで実に勤勉な対処をしただけですから、私たちの平和もあなたのような領民のお陰なのですから、さあ、立って」
そんな言葉をかけられたものだから、門番は感極まって泣き出してしまう始末だった。
「お嬢様、その様な身に余るお言葉……」
「ありがとうね、其れでは此処を通らせて頂きますわね」
「はは――っ、無論でございます」
俺達一行は馬車と共に、無事に城壁の中へと進んでいくことが出来た。門を抜けると城壁の中には見事な城下町が広がっていた。
そんな街並みの中を馬車はヴィエンヌ城に向かって進んでいった。
次回【38-1話:城下町ヴィエンヌにて!】を掲載予定です。




