【37-1話:ヴィエンヌ城へ!】
リッチモンド伯爵家のご家族四名とメイドのメイラーを一台の応接室馬車に乗せて速度を上げる為に引馬を一頭追加する。俺達が御者となり馬車を操縦しながら城下町ヴィエンヌを目指す事になった。
御者台には俺達三人のパーティーが俺を真ん中にいつもの配置で乗り込む。申し訳ないがヴァルは馬車と併走してついてくることになった。日が暮れるまでの時間が勝負の為、護衛師団との調整もそこそこに俺達は出発した。
「サギっ、お城までの道筋は一本道だから迷うことは無いはずです。城下町に入ったら私が案内いたしますからそこまでお願いね」
リアーナお嬢様が車窓から身を乗り出してサギに呼びかけてくる。ほんとこの二人はいつの間にかこんなに仲良くなっていたなんて不思議なものだ。
「リアーナお嬢様、そんなに身を乗り出しては危険ですから――ちゃんと中に入っていて下さい」
サギもお嬢様の気遣いにしっかりと応えている。
馬車の速度をいつもより上げて走る為、乗り心地は悪くなるだろう。サギからその旨の注意もお嬢様に伝えて貰うことにした。
俺は手綱を握りながらウギに指示を出した。
「ウギ、ヴァルに先頭を走ってくれるように頼んでくれ。ペースメーカーとしてよろしく頼むと」
「わかったのじゃ、『ヴァル』」
ウギはヴァルを呼ぶと身振りで此方の要望を懸命に伝えていた。まあ、魔力念波で俺がヴァルに直接伝えることも出来たが、そこはウギにその役割をしっかり果たして貰うことにした。
はたして、意思がしっかり伝わったのかヴァルは馬車の先に回り込んで先頭のペースメーカーとしての役割をしっかり果たそうとしていた。
険しい山間の道を速度を保ったまま一路、城下町ヴィエンヌを目指した。
「ウギっ、手綱を替わってくれないか?」
「んっ、了解じゃ! で、お主は何をしようとするのじゃ?」
唐突だったが、ちょっとしたことを思いついたので直ぐに試してみることにした。その為には馬車の操縦をウギに替わって貰う必要があったのでお願いしたまでのことだったのだが。
「ウギはしっかり前を見ていてくれ」
「うん、解ったのじゃ? んっ?」
俺は身体を捻って左側を向いた、無論そっちにはサギがいるわけで俺の行動の意味を理解出来ていないサギは俺を柔やかに微笑みを返しながらも戸惑った顔をしていた。
「ラリー? いきなりなぁに?」
其れには応えず、俺はサギに顔を近づけていった。
「えっ、いまここで? あっん、そんな待って……んっ」
俺はそのままサギの顔を両手で挟み込んでさらに顔を近づけた。
サギは何を思ったのか、目を瞑って愁いを含んだ表情で口を軽くつきだしてくる。
「ラリー? お主っ、えっ……妾の目の前で――いやっ~ぁ」
右隣のウギがこっちをちらちら見ながら悲鳴を上げる。
それには構わず俺はサギの額に俺の額を合わせた。サギは眼をぱっちりと見開き直して俺を見つめ直した。
「んっ、あっ! 何これ! えっ! ラリー?」
お互いの額をくっつけながら俺はサギに思念を送った、そう結界構成の――術式イメージを。
俺とサギのお互いの額が赤く輝きを放ち始めた。サギはゆっくりと目を閉じ始める、術式のイメージを受け取ろうとするかの如く。
ウギも俺の行動にびっくりして一瞬、手綱を落とし掛かったが、なんとか意味を理解してくれたようで平常に戻っていた。
俺とサギのくっつけているお互いの額の輝きがゆっくりと収束して光が収まった時、俺はサギから身を離した。
「サギ、いまので結界の魔術式は解ったな」
「あっ、えっ……うん」
「じゃ、頼んだ――馬車の周りに結界を張って魔獣にこちらを悟られぬようにしてくれ、出来るな?」
サギは何でだかちょっと膨れっ面の表情を浮かべたが、直ぐにそれも苦笑いになった。
「解ったわ、やれるわ――(ラリーの馬鹿っ、期待してしまったじゃ無いの、ふんっだ)」
「えっ、サギ? 何か言った?」
「――な・ん・で・も・な・い・で・す」
あれっ何でサギは怒っているんだろう?
さっきは、何故か隣で悲鳴を上げたウギが今度はくすくす薄笑いをしているし。
俺、何か仕出かしたか?
俺は馬車の操縦を替わる為、ウギから手綱を返して貰った。
左側ではサギが軽く膨れっ面をしたままそっぽを向いているし、右側ではウギがさっきからくすくす薄笑いが止まらないし、やっぱりなんか俺はやらかしてしまった様だった。でも、何が悪かったのか俺にはさっぱり解らない。
次回【37-2話:ヴィエンヌ城へ!】を掲載予定です。




