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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【36話:ラリー、俺のパーティー!】

 リアーナお嬢様の馬車の中で起きたサギの色恋宣言の後、俺はほうけたまま馬車から出てきた、なにせ出がけにサギはお嬢様の眼の前ながらも俺の頬に軽く口づけをして来る始末だったし、正常な精神状態でいろと言うのがどだい無理からぬ事だった。

 でもまあ、魔獣達との闘いに『覇気』を使った後でその後悔が無い状態と言うのは初めてのことだったしサギにしろウギにしろ、ましてやリアーナお嬢様まで俺に対する扱いが変わらないという事実が本当に嬉しかった。しかしそんな風に見てくれる人ばかりでは無い事も解っていたし、だからこそたったひとりでも俺を色眼鏡で見ずに真剣に相対してくれる友人が出来たことが何よりも嬉しかった。畏怖の念を抱かれ無いように自己韜晦じことうかいをして生きてきた者にとって唯一ありのままに生きてていい場所が見つかった感慨深い日になった。


 そんなほうまなこのままの俺を外で迎えたウギの態度はちょっと厳しかったね。

「なんじゃラリー……その顔は? 馬鹿丸出しでは無いか? なかで何があったのじゃ? んっ?」

「……いや、なん~にもなかったよ~っ」

「あっ、そうかのぅ……」

「……ん、何か言いたそうだねウギ」

 俺の様子から何かを察したのだろう、ウギの俺を見る表情はこわばっていたよ。それで、案の定カマをかけてきたんだ。


「ラリー……っ、きっ……キスマークが付いてるよ」

「えっ……!」

 俺は思わず左頬を手で押さえてしまった。

「……ふ~ん、ほっぺたか、まあ其処ならまだ許すかのぅ」

「うっ……と」

 押さえたままの手で思わず頬をぬぐってしまいウギに睨み付けられたまま俺は固まってしまった。ウギは俺の目の前に回り込むと俺の頬を両手で挟み込んで鼻先がお互いにくっつく程、顔を近づけてきた。身長差があるからウギはつま先立ちの背伸びの状態になっているが。

「なっ、ラリーのぅ。サギとの逢い引きは構わぬが……サギにしたことはわらわにもしてくれると思うて良いのじゃな! わらわとてお主の色恋の対象となりたいと思うておるからのぅ」

 鼻先が触れてしまう程近くでプクッと膨れて怒っているがもともと可愛い顔なので、それでも十二分に愛らしかった。思わずその愛らしい唇に口づけしたい衝動に駆られたよ。まったく!

「わかった! わかったからウギっ! 少し落ち着け! くっつくぞ……口がっ!」

「……まっ、あっ!」

 そんな意識が無かったのか、俺のひと言で我に返ってウギは顔を真っ赤に染めながら俺の顔を離してくれた。大胆なくせにホント純朴な奴だよウギも。

「……しても良かったのじゃがのぅ……口づけを……」

 と、ウギは俯いたまま、ぼそっと呻いた。


 “あんたらね~ぇ、いつまで痴話話しを続けているんだか……みんな先にもう行ってるよ”

 俺はヴァルの魔力念波の指摘で我に返ったよ。やはり、持つべき者はヴァルなりと改めて思った。


 先の魔獣達の襲来を受けて、護衛師団のメンバーにも少なからず被害が出た。重傷の騎士も数多くそのままの旅程の消化はちょっと無理だった。魔術師総出で回復魔術の施術は行っていたが何せ人数が多い。無論、サギも介護に専念する魔術師のひとりであった。

 もう、夕暮れも近くこのまま旅程を強行するかそれともこの場で野宿の為、野営の準備をするかの判断の瀬戸際だった。


「ラリー君、ちょっといいかな」

「あっ、ニコラス師団長またあらたまって何でしょうか?」

 護衛師団のメンバーがそれぞれの持ち場で今後の一団の行動について指示が出るのを待っていた。無論、一団の一塊のメンバーである俺もご多分に漏れず指示待ち状態である。そんな所に一団の最上位責任者であるニコラス・ハミルトン宮廷近衛師団長が訪れてきたのだから皆も“おやっ”とした顔で俺達を見つめていた。

「いや、他でも無いこれからのことを君の知見を入れて考えてみたいと思ってね、それとも、お邪魔だったかな」

「いや、別段することも無くダラダラ過ごしていただけですから何の問題も無いですよ」

 ニコラス師団長が俺の元を訪れた時にはウギとのんびり無駄話をしていた時だったので何か気を遣われてしまった。まあ、当のウギは話の途中で横やりが入った形になったので余りいい気持ちでは無さそうだったが、其処は後でフォローしてあげますからとの俺の言葉でからっと機嫌を直してくれた。

「まずは、先程の魔獣撃退の功労をお礼せねばならぬ、貴殿のお陰で皆が助かった感謝する」

 そう言ってニコラス師団長は俺に深々と頭を下げた。

「そんな、かしこまってお礼をされては俺が恐縮してしまいますから……どうぞ頭をお上げください」

「ありがとう、では失礼して本題に入らせて貰うぞ」

「ええ、どうぞ、どのようなご相談でしょうか?」

「うむ、今皆の者はこれからの対応指示を待っている状態であるが、このままリッチモンド伯爵家の城下町ヴィエンヌに向かうには一行の怪我人も多く時間も押し迫っている上、危険だと思っておるのだが。そうは言っても、野営にしては山の中ゆえ危険度も高い」

「そうですね、師団長の仰るとおりと思いますよ」

 俺はそう言って相づちを打った。

「そこでだ、ラリー君の力をお借りしたい――どうだろう」

 いや、どうだろうって言われても何を頼みたいのか、肝心の用件に触れていないでは無いだろうか?

「師団長……すみません、中身が見えないのですが?」

「んっ、おうそうじゃ、すまん。話しを端折りすぎたようだ」

 端折りすぎたと言うよりも、まったく話していないのですが……師団長も、もしかして天然?

「大所帯で移動するには時間が掛かる、なので一行を二手に分けてリッチモンド伯爵様達だけ先に城下町ヴィエンヌに送り届けようと思っておるところだ」

 成る程、それも妙案ではありそうだなと思っていると最後に師団長自身は取って付けたような要望のつもりだっただろうが俺はこっちの方が衝撃的だった。

「分団はラリー君のパーティーにお願いしたい、つまりラリー・M・ウッド 殿とサギーナ・ノーリ嬢、ウギ・シャットン嬢にじゃ、そして君には副師団長として伯爵様一行を無事にお城まで送り届けて頂きたい」

「えっ、俺のパーティーですか? サギさんもですか? 本人は其れでいいのですか?」

 副師団長のめいも重いはずだが、そんなことより宮廷近衛師団長直々にパーティーとして俺とウギそしてサギまで認められたことの方が俺に取っては衝撃的だった。

 其れは近衛師団公認のパーティーとして今後登録されると言うことになり、以後の任務も常に一緒であることを前提として指示が来ることになる。

「この話は既にサギーナ・ノーリ嬢には伝えておる、本人の了解済みの内容であるぞ。ウギ・シャットン嬢は元々ラリー君の紹介での入団であるからそこは貴殿にお任せする」

 俺のパーティーが正式に発足した瞬間だった。

次回【37話:ヴィエンヌ城へ!】を掲載予定です。

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