【34話:魔獣現る!】
何が起こっているかはすぐに把握出来た。俺は扉を開けて走っている馬車から勢いよく飛び降りる。開けっ放しの馬車の扉にウギが飛びついて、身を乗り出しながら俺に叫んだ。
「ラリー!」
悲痛な叫び声が森の中に響き渡った。
「サギ! 扉を閉めて! リアーナお嬢様を頼む!」
サギはその呼びかけに呼応して大きく頷くと扉を閉めて馬車の中にその身を戻した。
俺はサギに其れだけ伝えると馬車の前に回り込むように走り出していた。
馬車の先頭は既に護衛師団のメンバーが抜刀した状態で臨戦態勢に入っていた。無論、その中にはウギとヴァルの姿もあった。俺はとにかくウギの傍まで走り続けていた。
「ウギっ! 種類は? 数は?」
「キメイラ! 三十体程、妾は右をやる!」
「わかった!」
ウギの返答は即座だった、その言葉に応じて俺は左側の魔獣達を見やった。
ライオンとも山羊ともつかない魔獣キメイラ、人の丈程ある大きさで強靱な肉体と吐きだす火炎を武器に一団に襲いかかってきていた。
既に一部では騎士とキメイラの闘いが佳境に入っているところもあった。何人かは大怪我をして早々に戦線離脱に追いやられている。
「キメイラか、しかし数が多いな、これだけの数がいきなり出現とは?」
何か違和感を感じながらも兎に角、討伐に専念することにした。
護衛師団のメンバーの中で騎士がキメイラと相対するには一頭に対して三人から五人程必要になる、依って二十人の護衛師団では圧倒的に数で不利な状況って訳だ。
「ちっ! やるしか無いか――」
ウギの方はヴァルと組んで二対三の取り合わせで三匹のキメイラを徐々に追い詰めていた、ウギの切っ先はキメイラ如きには一寸の迷いも無く確実に優勢を保てている。それでも、数で押してくる魔獣キメイラにウギの剣技も圧倒的な力の差を見せつけるまでは至っていなかった。そんな状況で時間の猶予をこれ以上与えていては護衛師団がいずれジリ貧に陥ることは火を見るより明らかであった。
「ラリーっ!」
「なっ! サギ、お嬢様の護衛は!」
あっ、サギなんで来るかな~っ、って言っても仕方ないか。と、そんな俺の心配を払拭するようにサギはしっかりとした戦略を考えていたようだった。
「リッチモンド伯爵様達はひとつの馬車に集まって貰いました、そうすれば他の宮廷魔術師が集まって一緒に護衛出来ますから――私はラリーに加勢します」
「なるほど、その方法は旨いな――流石だサギ」
そんなサギの知略にほとほと感心していると少し離れた場所から護衛師団メンバーの悲鳴が鳴り響いてきた。
サギは先程悲鳴を上げた護衛師団メンバーの方に早々に防御魔術の魔方陣を構成していた。これであっちの方は暫くは持ちこたえられるはずだ。とは言っても此の状態では焼け石に水だ。しかも、今度はその分サギがキメイラのターゲットになっていく、複数体のキメイラが相手では一体を相手をしていると直ぐに他のキメイラに背後を取られる状況になっていく。
忍び足で背後を取ったキメイラがサギに襲いかかった。
「あっ、きゃ―っ!」
サギの悲鳴に俺は光の如く反応していた。瞬間移動でサギとキメイラの間に入り込むと飛びかかってきたキメイラの鼻先に剣を叩き入れた、鼻っ柱を叩かれたキメイラは仰け反りながらも致命傷を避けて元の位置に戻った。
俺は注意を此方に引きつける為キメイラを睨み付けたまま、サギの方を見ないで問いかけた。
「サギ! 怪我は無いか?」
サギは寸前の状況に恐怖心から冷めきらなかったのか、一拍遅れて返事があった。
「……ラリーありがとう、大丈夫よ、助かったわ」
よかった、心からサギの無事を喜んだがそうそう運良く事が進むとは限らない。
「もう、時間が無いな……くっ」
おもわず呻く。『覇気』の力を使えば魔獣キメイラの一団を一気に殲滅出来るが其れは俺自身が強大な悪魔の如き魔人であることを皆に知らしめることにもなる、そんな嫌な思いは今まで何度もしてきた。サギやウギとても例外では無いだろう、彼女たちが恐怖に捕らわれた眼で俺を見てくる姿を思い浮かべると耐え難い思いが先に走った。
「……もう少し彼女等と一緒にいたかったな……でも、まあ仕方が無いか」
俺は早々に腹を決めた。
目の前の三十体程のキメイラの位置を補足すると鳥瞰をイメージする。そして、己の躰の中に一気に魔力気を溜め込んでいく、俺の放つオーラが瞬時に黒、白、赤、そして銀色に変わっていった。
「えっ! ラリーっ……わっ! 『覇気』! えっ――な、なっ!」
傍にいたサギが俺のオーラの色変わりを初めて見て、その可愛らしい碧眼の瞳を大きく見開いたまま呆気に取られていた。
さらに俺の発するオーラが銀白色の大きな光となって一団全体を包み込むほど巨大化していく。眩い光に皆、自分の手をかざして目を覆っている一瞬全ての動きが止まった。異変に気づいた魔獣キメイラの群れはその覇気に恐れをなして逃げだそうとしている。
「もう、遅い!」
俺はキメイラ達にそう最後通告をすると一気に全キメイラ目掛けて覇気を解放した。
光がさらに明るさを増して全ての生き物はその眩しさに耐えられず目を瞑った。
『バシュッ――』全域に響き渡る雷鳴にも似た異次元的な音が全てを包みこむ。
眩い光がゆっくりと収束していき、皆が次に目を開けた時には魔獣キメイラの姿はもう何処にも見当たらなかった。
そう、俺は全てのキメイラに異次元空間移動魔術を放ったのだった。
残存している『覇気』が俺の周囲を銀色に輝かせている。無論、危険な魔獣達が居なくなった今の状況では余分な魔力気でしか無いがそう簡単に元には戻せない。『覇気』から漏れ出る尋常では無い殺気にあてられて周囲の人々が顔面蒼白の表情で俺を見ているのが解る。
「……やはり、こうなるよな……」
次回【35話:ラリー災難!】を掲載予定です。




