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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
32/187

【22-1話改稿:サギさん日記をお返しします!】

前回の一人称主人公表記から改稿してみたいとちょっとづつですが、弄り直し始めました。本来のシナリオは変わらない予定ですのでご容赦くださいますようお願いいたします。

 ラリーは偶然にもサギの日記を拾ってしまった。その日記は手のひらよりも少し大きい程度の冊子で厚手の革で出来た表と裏表紙をロックするように鍵の付いた革バンドが付いていた。

 しかも、鍵というか本人承認時のみ開封可能なように念入りに罰則呪術が掛かっているようだった。

「未承認開封時の罰則呪術は雷撃魔術か? 無闇に開けるべからずだな、これは!」

 そうは思うがラリーは覗いてみたい欲望に駆られてしまって、先程、起き掛かった心の中の邪鬼が自分の心を更にくすぐるのを隠せなかった。

 ――とは言ってもね。

 思わず鍵にラリーの手が掛かる……っと、何処からか天使が語りかけてきた。『駄目だよ、彼女を裏切っちゃ!』と。

 ――って! 俺は何を為ようとしている? 


 そんな心の中の葛藤からハッと我に返って何とかラリーは踏み止まった。彼の心の中では天使が邪鬼にさらりと子守唄をかけたようだった。

「……やっぱり、いかんな、これは! ……届けに行こう……」

 と、ラリーは思ったものの既にサギの姿は見当たらず、宿舎の彼女の泊まっている部屋も知らなかった。

 まあ部屋の件はサギの魔力を探索する事で特定は可能だが(真紅の『闘気』はもう、ラリーの魂が覚えたからけっして間違えはしない! と言いきるラリーである)後で彼女からストーカー行為の疑いを掛けられてしまうのも気分としてはとても嫌なのでなんとか其れは避けたかったようだ。

「うむっ……」

 このまま、日記を持ったまま温泉浴場に行くわけにも行かず、一旦、ラリーは自分の宿泊部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ってドアを開けると、はたしてフランが惚けた顔でまだぶつぶつと独り言を呟いていた。

 ――あっと、此奴こいつが居たんだ、日記を見られると拙いな。


 ラリーは瞬時に手元の日記を後ろ手に隠した。そんなラリーに気付くこと無くフランがひとりぼやいている。

「伯爵夫人は、俺が……」

 ――ほんと、此奴こいつ! 正真正銘救えない阿呆だな!


 そんな嘆きをラリーは心で思いながら、いそいそと部屋に入っていった。

「あれっ? ラリー如何どうした? もう、温泉浴場から帰って来たのか? そりゃ、早いな……烏の行水だな!……んっ、何を隠してるんだお前?」

 フランがやっとラリーに気付いて声を掛けてきた。ラリーの行動が挙動不審しすぎていたようで、いぶかしがられてしまったようだ。全く、厭なところが鋭いフランだった。


「おっ……おう、何も隠してなんかいませんよ~っ。いや~忘れ物だよ、わ・す・れ・も・の! ちょっとね! はははっ!」

 何とか誤魔化そうとしているラリーの演技だがあまりにも酷かった。其れに彼の乾いた笑いが事実をさらに白日の下にさらそうとしていることにも気付け無かったようだ。これでは流石にフランの目も誤魔化せはしないだろうと思うのではあるが。

 ――誤魔化し切れたかなぁ~っ!


 ラリーはそう不安を募らせつつも、何とかフランの眼を逸らして日記を彼の鞄の中に仕舞い込んだ。

「……んっ!」

 と唸りながら、フランはジト眼でずっ~とラリーの行動を見ていた。

 そんな視線に抗いながらも取り敢えず目的を達したらさっさとずらかるに限るとばかりに、長居は無用とラリーはその場を後にした。

「また、温泉浴場に行ってくるわ!」

 フランにラリーはそう言い残して、そそくさと部屋を後にした。

 ひとり部屋に居残ったフランはラリーのその台詞に急に反応しだした、そして彼の阿呆な叫び声が部屋中に木魂していた。

「……んっ! 温泉・よ・く・じ・ょ・う! 温泉で欲・情! かっ?」

 ――おぃ! 頭の中、腐乱ふらんしすぎだよね、フランさん!


 背中でフランの叫び声を聞きつつ、彼の脳天桃色状態に救われた感を心で思いながらも部屋をあとにしてラリーは一息付いた。

「……ふうっ! 全く冷や汗もんだったな、ガアーリまで居なかったから良かったものの、どうなることかと思ったわ! くわばらくわばらっと!」

 そんなことを呟きつつラリーは再び温泉へと急ぎ向かっていった。


「ふ~っ! いいお湯だな」

 ラリーは温泉浴場に着いたが早いか、さっさと脱衣してお湯にかっていた。硫黄の香りが鼻をつくが其れがさらに温泉の効能を呼び覚ますようで悪くは無かった。しかもお湯に溶け込んだ硫黄成分が肌を適度に刺激してまさに極楽感にひたっていた。

 ――聖騎士長の言ったとおり古傷に効きそうだ、じわっと沁みてきたよ。


 ラリーは大の温泉好きであった。

 温泉には、内湯に数名入っているが外湯にはラリーひとり、貸し切り状態だった。だだっ広い湯舟の中で彼は手足を思いっきり伸ばしていた。

 ――心が解放されて悩みも悔いも忘れさせてくれるようだ。


 ご機嫌な調子で鼻歌でも歌いたそうなラリーである。

 そんな彼がふっと、人の気配を感じて振り返ると大きな刀傷の付いた右腕が彼の眼に入ってきた。

「……聖騎士長!」

「いやぁ、湯加減はどうかね? ラリー君」

「最高ですよ。貴方あなたのおしゃった通りですね、生き返る心地ですよ」

「そうかね、それでは一緒させて貰うよ、いいかね?」

「どうぞどうぞ」

 聖騎士長の問いに素直にラリーは同意した。彼はラリーが発したその言葉に応じてゆっくりとその大きな身体を湯舟に沈め始めた、そして少し熱めの湯加減に眉根を寄せつつも満足そうに笑みを浮かべていた。

 ザッバーンと大量のお湯が湯舟から溢れ落ちる。

「っん~ん! いい湯加減であるの~ぅ」

 聖騎士長は本当に気持ちよさそうに唸り始めたのだった。


 夕闇が迫る山間の温泉宿。どこからとも無くたおやかな風が吹く中、遙か彼方からではあるが魔獣やら獣やらの遠吠えが聞こえてきていた。その声を聞き、ラリーは自らの警戒心を明日に向けて研ぎ澄ます準備に入ろうと気持ちを切り替えることにした。

「明日はちょっと気合いを入れ直さないと!」

 そんなラリーの言葉の裏にある緊張感の変化を察したのか聖騎士長が訊ねてきた。

「君は……ラリー君は魔界の噂を知っているかね? 先代魔王が蟄居謹慎してそのむすめである魔女王が王位を引き継いだと言う。魔族の争いもこの世界、他人事では無いのでな。先代が謹慎処分と言うのも穏やかな世襲とも言えないが王女が引き継いでいると言うのもなぁ? 何か一枚も二枚も裏が有りそうで怖い話しに思えるのだがのぉ!」

 その話しはラリーも聞いたことがあった。魔族は基本世襲制でしかも同族の血縁を最も尊ぶ、基本同族縁者の間での婚姻を好む。人間界では不浄タブー視される、近親婚、近親姦の類いである。

 魔族の頭領である魔王族は兄妹か姉弟以下の近親婚しか認められ無いという。その血の濃さが魔王族のみが持つ黄金目きんめの『覇王気』を伝える世族継承に繋がっているらしい。今の魔女王にはまだ嫁ぐ相手が決まっていない。先代正室・側室に男子の御子が出来なかったと噂では伝え聞く。

 まあ、淫魔の如き魔界族に浮気にての落とし子が先代・先々代の魔王には居なかったとは誰も思っていないが! 魔族はその数こそ人間から見れば遙かに少ないが寿命はくらぶべくも無い、先代の魔王は八百歳を越えているという。であるから密かに生きているであろう落とし子の成長した青年を探せば良い、目印はまさに眼になる、魔王族のみが持つ黄金目きんめの『覇王気』と言う比類無き魔力の持ち主を探せば良いだけのことだ。

 聖騎士長の話しにラリーはにべも無い返しをしてきた。

「考えすぎでは? 聖騎士長。魔女王には全く一枚も裏は無いんではないと思いますよ、自分は」

「んっ! どうしてそう思うのか?」

「だってですよ、近親婚しか認められ無い魔王族ですから、このままじゃ魔女王は父親の魔王との婚姻しか無いんですよ。そりゃ、嫌でしょう! 魔女王だって? どこかで異母兄か弟が見つかるまで親父は絶対拒否でしょう! だから蟄居謹慎! 魔女王から見れば其れが一番安心でしょうし」

 としたり顔で答える俺である。

「なっ……ぇ! ……なるほど君の言う通りかも知れないな~?」

 聖騎士長はあきれ顔でそう返してきた。

次回【22-2話:サギさん日記をお返しします!】を掲載予定です

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