【21-2話改稿:リッチモンド家の護衛任務で!】
前回の一人称主人公表記から改稿してみたいとちょっとづつですが、弄り直し始めました。本来のシナリオは変わらない予定ですのでご容赦くださいますようお願いいたします。
一行は昼過ぎには聖都の隣の町まで、もう少しという処まできていた。隣町はムーラスという小さな山間の温泉街として栄えている街であった。
「ここの温泉はのぅ、刀傷に効くと有名なのだよ」
そう言って、小隊の聖騎士長は袖を捲って右腕の古傷をラリーに見せてきた。それは確かに刀による深い傷跡のようであった。「騎士には刀傷など名誉の勲章のようなものだからな」と捲り上げた袖を元に戻しながら遠方の方に微かに見える湯煙に棚引く街並みを彼は懐かしそうに見つめていた。
そんな聖騎士長の言葉に無言で頷くラリーの身体も傷跡比べには事欠かないほど全身くまなく傷がある、でも聖騎士長のように名誉の傷なんて箇所は皆無だった。
彼曰く「自慢じゃ無いがなんたってすべて修行の時代にニネット爺さんとセット婆さんらに付けられた傷の履歴章です」と言われるものだったからだ。自立し始めた彼の冒険者時代はドラゴンとの闘いでも傷を負うほど相手に対して遅れを取ることはまったく無くなっていたし、軽度の傷の段階で回復魔術を掛ければ綺麗さっぱり傷跡も残ることはなかった為である、はたから見ればある意味、其れってどうなんですかと言われるかも知れない。
――でもまああれだな、温泉ていうのは良いね! ゆっくり湯舟に浸かって心の垢を落としますか。湯上がりのエールビールなんかもいいな~っ! でも、今回は護衛任務中になるから無理だな! 今度プライベートで来ようかな? サギさんも誘ってって、やっぱりそれは何でも無理か!
と、ラリーがひとり思いに浸っているうちに今日の宿泊場所となる温泉宿に一行は特に何事も無く到着したのだった。
宿についても護衛の任務は続いている、リッチモンド伯爵一行が宿に入って落ち着いた休息状態に至るまで護衛メンバー全員で警護にあたる。その後は休息組と警護組に別れローテーションを組んで入れ替わりの時間を決めておく事になっていた。
其れとは別に婦女子警護の宮廷魔術師女性メンバーはそれぞれ奥方様とご令嬢に随行し彼女らの身辺護衛をそのまま別行動で続けていた。
馬車隊が宿の庭先に着くとリッチモンド家のメイドやら使用人の方達がそれぞれの持ち場の仕事をてきぱきと片付けていく、ラリーがそれを感心した面持ちで眺めていると目の前の赤い馬車から着飾った女性陣が降り立つのが見えた。その中の一段と綺麗でしかも妖艶さも兼ね備えた金髪碧眼の女性に思わず目を奪われる。
――っ、サギさん!
ラリーの胸中にさざめく想いに気が付いたのかは分からないが、彼がサギを目にしたのと同時に彼女の方もラリーの視線に気が付いたようであった。
「あっ! ラリー様!」
サギはラリーを見つけると何故だか、ちょっと引き攣った様な微笑を湛えながら、彼の方に歩み寄ってきた、そんなサギにラリーは声を掛けた。
「やはり、サギさんでしたか、あの魔力オーラの持ち主は」
ラリーは自分自身納得してその様に話しかけ、サギに笑顔で応えたが当のサギの方は何故かうわの空でドギマギしているように見えた。
――何か俺、彼女に悪い事してたのかな? 昨日の事? なんか心配になってきたな! 彼女に嫌われてる?
そんな思いにラリーが捕らわれているとサギが、唐突に頭を下げてきた。
――えっ?
突然のサギの物腰にラリーはただポカンと口を開けて見入っていた、だかそんな彼に構わずサギが謝り始める。
「……あの……っ、ラリー様、昨日は私何か至らない事をしてませんでしたか? ラリー様に対し……って、先に謝らせて頂いてよろしいでしょうか」
彼女が何を言ってきているのか全く理解が出来ないでいたラリーは、ただ黙り込むしかなかった。でも彼も頭の中で昨日の所作を思い出して自分自身が恥ずかしくなってきたようだった。
――こっちこそ謝るべきだな!
そう思ったラリーもサギに対して腰を折って謝り始めた。
「いや、サギさん此方こそ、昨日の晩はご迷惑をおかけしませんでしたか? 昨日の今日でまた、すぐに貴女に会えるなんて思っておりませんでしたし」
――ここは、丁寧に謝っておくべきだ! 誠心誠意、詫びておこう!
そんな冷や汗混じりのふたりのやり取りの最中に、ふたりに近づいてくる影があった、リアーナだった。リアーナはふたりの前まで来るとサギに向かって話しかけてきた。
「あら、サギーナ! 其方の殿方はどちら様ですか、お知り合いの様ですね、出来れば私にもご紹介して頂けませんこと」
――んっ! 貴族のご令嬢様か? こっちはサギさんとの、この噛み合わない状況打破に集中したいのに、邪魔する気か? っと俺は毒づきたいが、依頼主だし無碍にも出来ないし。
とラリーが思っているとサギが先に動きはじめる。
突然のリアーナの登場にひとり胸中毒づくラリーを置いて、サギがリアーナの従者として彼女の方を向いて丁寧に応え始めた。
「……お嬢様、此方のお方はラリー・M・ウッド様、今回の護衛騎士団の方で、ちょうど私達の馬車の護衛小隊に配属されておりますのよ、私も彼には昨日初めてお目にかかったばかりですわ」
そして今度はラリーの方に向き直ってから貴族のご令嬢をサギが紹介してくれた。
ラリーとしては思いもよらずサギさんと面と向かったものだから、照れたような少しニヤけ顔付きだったのが締まらなかったが……。
「ラリー様、此方のお方は、ピエール・リッチモンド伯爵のご令嬢であらせられるリアーナ・リッチモンド様ですわ」
そんなサギの紹介に応えて先にラリーが挨拶を始める。
――サギさんの顔に泥を塗るわけにはいかないから、ちゃんと挨拶しておきますよ、お嬢様! じゃあ、騎士礼でもしておきますか。
胸の内だけで良からぬ思いを抱きながらもラリーはリアーナに対して片膝を折りつつ礼を始めた。
「これはこれは、リアーナお嬢様、お初にお目にかかります、ラリー・M・ウッドと申します。以後お見知りおきください」
「ラリー様ですね、護衛任務ご苦労様でした、明日もよろしくお願いしますね、ではお先に失礼いたしますわ。サギーナも後でね」
そんなラリーにリアーナも軽く挨拶を返してくれる。そして空気を読んでくれたのか、早々に引き上げてくれるようだった。
――早々に引き揚げて頂けますか。それは有り難い! 見送りは笑顔で返すよ、お嬢様!
相変わらず心の中ではリアーナに冷たいラリーだった。
――お邪魔な、お嬢様も宿舎にお帰りくださったしと……えぇ!
と、ラリーが気持ちを切り替えながら勢い込んで、サギの方に向き直ると何故か彼女が微妙に怒っている様に見えて思わずたじろぐ。
――サギさん! お嬢様を無碍にしたことを怒っているのかな? それとも、オレナニカマタシツレイナコトヲシマシタカ?
ラリーの頭上には其れこそたくさんの疑問符鳥なるものが飛び交っていた。彼にとって何がなんだか分からないうちにサギとの楽しいひとときはあっという間に終わりを告げたようだった。
その後はサギとの会話も途切れて、二人とも差し障りの無い挨拶だけになってしまっていた。サギも流石にそんな状態でいたたまれなくなったのか、早々にリアーナの後を追いかけて宿舎に入っていった。
――まあ、ここで無理に引き留めて、それこそ、嫌われるのも嫌だし……くっ! そんなんで落ち込んだ気持ちに鞭を打って仕事に没頭する事にしたよ! 今回は護衛任務で流石に酒に頼るわけにも行かないから、嫌なことを忘れるにはそれが一番さね!
と、サギがラリーのもとを去った後、彼の寂しい胸中を知る人は今は誰もいなかった。
次回【21-3話:リッチモンド家の護衛任務で!】を掲載予定です




