【86-5話:アン・リトホルム公女殿下!】
アン嬢を交えて此からの予定を皆と話し合うことにした。兎にも角にも大公様であるイェルハルド・リトホルム公爵が人質になっている可能性があるので事を急ぐ必要があったがそうは言っても無理をして相手に気取られては全てが水泡に帰す。
「はてさて如何したものか、妾たちの素性を勘ぐられずにどうやって神魔殿の内部で大公様を探すかじゃのう」
アン嬢が溜息をつきながらそう懸念を吐き出してきた。その事は確かに最終目的に繋がる大事な事だったがその前に俺はひとつ確認しておきたい事象があった。
「ところでウギ、ステファン卿が近づいてきた時に『黒い闇のような気配』を感じたんだったよな」
俺はウギがセクハラに在った時の話しの中で記憶の中で引っかかっていた事を聞いてみた。
「そうじゃ、あのエロ爺は見た時から何か気配がおかしかったぞ。それで妾が奴に後ろを取られた事に気付かずにお尻を触られたのじゃぞ、この妾がのぅ」
ウギはそう言いながらその時の事を思い出したのか頬を膨らましてプンプンし始めている。ウギは『黒い闇のような気配に一瞬捕らわれた』と言っていた其れはどういうことなんだろう?
「マギもステファン卿を一瞬見失ったんだよなぁ?」
「そうそうウギから少し離れた所に私は居たんだけど、ステファン卿が現れてウギに近づいて行く所までは見えていたのよ……一瞬見失って気が付いた時には奴はウギの真後ろにもう居たわ、私もその時はビックリして見たわよ奴の事を、なんか筒闇の中からす~ぅと現れたみたいで現実とはなんか掛け離れた違和感があったわ」
「で、黒魔術って思ったと……」
俺はさっきマギが語った言葉を発した。
「うん、その時は単純にそう思ったんだけど黒魔術って、でももしかしたら呪術――ううん、邪術かもね」
黒魔術は『黒気』の魔術レベルがあれば得てして可能な魔術だかその闇に捕らわれすぎると呪術の方に『気』が傾く、読んで字の如く『呪い』を主体に働く、呪いにはそれ相応の対価を必要とするため呪術者が何らかの生け贄に為ることや物を提供する事になる。此処までは対価を払い終われば元に戻れるが……そうしてその先が邪術だ、此処まで深みに嵌まると本人にはそこから抜け出す自我が無くなっているはずだ。ステファン卿の其れが黒魔術レベルならウギや況してや魔導師のマギが術に捕らわれることは無いはずだ、とするとやはり……。そんな事に思案を巡らしているといつの間にかサギが俺の傍に寄り添っていて俺の耳元でそっと囁いてきた。
「ほらっラリーったらまたひとりで……悪い癖よ! ちゃんと話してみせてよね」
「あっ! わるい!」
サギからの指摘に俺は頭を掻きながら謝っておく、そうして今考えていた事を順を追って口に出していた。
「やはりラリーもそう思うのね、あたしもそう思ったわ」
最初に口火を開いたのはヴァルだった。その後に続けてエンマから貰った情報を喋り出してきた。
「姉さんの事を魔女王から引き下ろそうとしている反体制派の一角に邪術の一団が居るらしいの、まだ確かなことは言えないらしいけど――そうすると辻褄が合うわよね」
「やはりな、魔族が絡んでくると信憑性が上がるな」
「でもラリー、其処に魔族側の得るものは何なのかしら?」
サギがひとつ疑問を投げてきた。其れもそうだ単にステファン卿を取り込んだとしてもエンマ魔女王をその座から引き下ろす目的にはほど遠い。いかんせん人間をひとり引き入れて何の得があるんだろう?
「ひとつ話しをしても良いでしょうか?」
此処でロミルダ嬢が話しに加わってきた。彼女の話によると何でもイェルハルド・リトホルム公爵から俺達の事を聞いていたらしい。
「大公様の思惑ではエンマ魔女王に頼まれた人間界の強力な魔力の発生の根源を探ってみてラリー様達の事であることはベッレルモ公国側でも掴んでいたらしいのです、がこの事をそのままエンマ魔女王に話すかどうかで悩んでいたみたいなんですよ」
「えっ! 其れってどういう意味?」
「エンマ魔女王の狙いがいまいち掴めてなかったんですよ、其れもあって大公様はステファン卿から魔族の情報を貰えると言う話に乗ったらしいんです」
ロミルダ嬢は俯きながら何か悩んでいる様な仕草で話しを続けてきた。
「これから先の話は大公様が私だけに話しをしてくれた内容です。他言無用と言われてましたが……場合が場合なのでみなさんにお話し致します」
そんな前振りにみんなが息をのんでゴクッと喉を鳴らしていた。が、ひとりウギだけがぼそっと唸るように言葉を継いでしまっていた。
「それって枕詞って言うのじゃろう……」
「「『……?』」」
一瞬その場が空気が凍り付いたが。
「……其れを言うなら寝物語じゃぞ、ウギ様よ」
自分の父の情事に関わる事なのだが? アン嬢がそれでもそう言って事も無げに話しを終わらせてくれたことで何とかその場の空気をそれ以上カチカチに凍らせること無く終わった。
俺はその場ですぐにウギの口を手で押さえたが既に放たれたその言葉にロミルダ嬢が真っ赤な顔になりながら俯いていたその頭を更に下げる事に為っていったのは言うまでも無い。
「んんっ! ウギっ、こらっ。――で、サギは聞いていたのその事?」
取り敢えず仕切り直しもかねてサギに話しを振って於く。
「えっ、私! あっ――ねえ、ロミったらその話しの続きは? 私も聞いてないわよね」
と、サギが俺の意を酌んでロミルダ嬢に話しの続きを促してくれた。
「……わかったわ。それじゃ話しをするわ――何処まで話したっけ?」
ロミルダ嬢の話しの内容は掻い摘まんで要旨をまとめるとこうだった。
次回【86-6話:アン・リトホルム公女殿下!】を掲載いたします。
なろう運営殿より「N2542DU/英雄たちの回廊」当該小説がR18相当であるとの指摘を受けた為、第1部分から第182部分まで初稿についてはR18側への移植を行いました。移植先は「N1050EN/英雄たちの回廊(R18指定)」です。
尚、「N2542DU/英雄たちの回廊」側のR18相当との叙述部分については運営殿より具体的不適切判断確認箇所については原則非公開との回答を頂きました。よって運営殿側からのR15相当判断獲得まで手探りながらの改稿作業を進め、最終的に運営殿より指摘終了を貰うことが出来ましたので次話として投稿を続けて行く予定です。