【86-4話:アン・リトホルム公女殿下!】
思いっ切りうるさい性格が暴露された聖女アン・リトホルム嬢を引き連れて俺とサギはみんなが待つ大部屋の扉を叩いていた。
「みんな居るかい、俺だラリーだ」
「「『おかえり~ぃ』」」
部屋の中からそんな和やかな返事のハーモニーが聞こえてきた。
俺が扉を開けると当然如くウギが飛びつくように抱きついてくる。相変わらずその豊満な二つの膨らみを無意識ながらも俺の身体に押し付けるようにして……。
「どうじゃったのぅラリー、宮廷の方は妾の事は言ってくれたのか? あのエロ爺に鉄拳制裁を喰らわすことを了解して貰えたのかのぉ、んっ? サギ、その隣の娘は誰なのじゃ?」
俺の首筋に顔を巻き付けるようにして俺の肩越しからサギを認めるとその隣に一緒に立っていたアンを見つけてウギが問うてきた。
「ウギったら! またそうやってラリーに引っ付いて――ん~ぅもう、こら~っ!」
サギはウギの問いかけには応じずに俺に抱きついてきているウギに目くじらを立てて怒っている。
「おう~っ、此処が聞きしのラリーのハーレム寮かのう……んっ?」
話題の主のアン自身も俺に絡み付いているウギの問いを無視しその当人の横を擦り抜けて部屋の中へと風のように這入っていくと、半眼になりながら部屋に居たみんなの胸元の凄艶な渓谷をズイ~ッと見渡して、ひと言俺に向かって愚痴を言ってきた。
「うっ――の~ぅラリー様、お主の女友達になるのにはバストは少なくともDカップ以上で有ることが必須なのか?」
「……(んなわけあるか!)」俺も半眼になりながら声なき反論をアンに送った。
その間もずっと抱きついたまま離れないウギを軽く抱き締めて耳元でそっと囁く。
「ほらウギ、その娘を紹介するからね」
「うん、わかったのじゃ」
そう言ってウギは俺から静かに離れてくれた。そのまま俺はアンの真横に立つと彼女の背をスッと前に押し出してみんなの前で紹介し始めた。
「みんなに紹介しておこう、公女殿下からの推薦にて今回のペルピナル神魔殿へ同行してくれる聖女アン嬢だ。公女殿下が神魔殿の内部に詳しい彼女を案内人に推してくれた」
そう言ってみんなにアン嬢を紹介したが……。
「アン嬢? 姓は?」
そう言ってマギがいきなり抉るような疑問を投げかけてきた。
「うっ! ……それはのう……リト……ル……じゃ」
「アン・リトル?」(それじゃ見た目ままんじゃないか――おい!)とマギを含めみんなが突っ込む気持ちを抑えているのが俺にもわかったよ。
「そうリトルじゃ――其れで良いのじゃ」
彼女を見る眼が異様な雰囲気を漂わせている中、アン嬢は引き攣った笑みを浮かべながらそうマギに応えたが……。
「ふ~ん、そうなんだリト(ほ)ル(む)ね」
マギは言葉の途中で声を発することなくそのまま口の形を作ってオウム返しでコンタクトしてきた。しっかりばれているのがありありと解る。
「まあ、いいわ聖女様なのね――此方こそよろしく私は魔導師のマギル・ビンチよマギと呼んで」
「妾は魔法剣士のウギ・シャットンなるぞ、ウギでいいのぉ」
「あたしはヴァル・イラディエル……ヴァルでいいわよアン」
そう言ってみんなが自己紹介をし終わると――最後に控えていたひとりが直立不動でその場で自分の顔を指さしてアワアワしていた。そして一生懸命サギに目顔で何か言いたげにしているのが目に映る。
「わ、わたしも自己紹介するの?……そうね、んっ。えっ~とサギと同じ宮廷魔術師のロミルダ・ヴェルトマンと申します、公女でん――あっ、アンさま」
そうだ此処にも居たよ身元がお互いバレバレの――関係者がね。そんな挨拶をロミルダ嬢がしながらアン嬢と二人お互いに目配せするような仕草をしていたのをみんなが見ていた。
「「『ふふ~ん』」」
そんな彼女達を温かい眼で見ている我がチームメンバー。まあ、いいっか! で、俺はアン嬢の役割と宮廷での公女殿下との(ここにその本人が居るんだが……)謁見の結果をみんなに話し始めた。
一通りの話しを終えて俺はみんなの顔を一瞥する。それぞれの顔には疑問と納得と不服の入り交じった微妙な表情が読みとれていた。そんな中で遠慮というものが全くと言って無いウギが早々に声を上げてきた。
「ラリーのぅ、妾はお主の判断に口を挟む気はさらさら無いがのぉ。そのなんだな、アン公女殿下はお主の許嫁なのか?」
おい、疑問は其処かよ、其処なのか?
「そうじゃぞ、妾の……あっ!」
まさに地雷を踏みかかってアン嬢が咄嗟に言葉を止めた。そんな彼女を俺は自らの顔を手で覆いながら天を仰ぎ見て、覆った指の間から半眼の目でアン嬢を睨みつける。
「すまんラリー、妾の口がつい滑ったのじゃ」
そう謝るとアン嬢はその小さい身体をさらに縮込ませてその場にシュンとなっていた。
「あん? アンはアンであろうに? 今は公女殿下の事を話しておるのじゃぞ? お主は関係なかろうにのぉ」
相変わらずウギの方は疑うことを知らないと言うか空気が読めないというか――よく言えば純朴だった。そんなウギの事を他のメンバーは憐れみの目で黙視する。まあ此は此でアンとウギは結構良いコンビになるかもとふっと俺は思っていた。
次回【86-5話:アン・リトホルム公女殿下!】を掲載いたします。