【16話改稿:サギさんとの帰り道で!】
前回の一人称主人公表記から改稿してみたいとちょっとづつですが、弄り直し始めました。本来のシナリオは変わらない予定ですのでご容赦くださいますようお願いいたします。
ラリーは宮廷前までの道すがら自分の思考が不覚にもまるで頭に入っていかなかった、生まれて初めて頭の中が真っ白になって思慮が追いついていかないと言う状況をいままさに経験している。はっきり言って緊張の頂点にいる彼には今どういうシチュエーションなのかが理解出来ていないのかも知れない。まるで恋人達の街角みたいなワンシーンの中で、全ての緊張感がたったひとつ彼のその左肩にもたれ掛かるサギの温もりを感じる事だけに費やされていた。
ラリーの肩にもたれ掛かりながら小首を傾げて見つめる彼女の瞳は、碧眼の青色が月明かりに照らされて、えも言われぬ妖艶さを醸し出していた。相変わらずラリーの心拍数は天井知らずで上がり続けているようだ、絶対にサギには聞こえていることだろうと思うラリーのその気持ちが、更に緊張感を増幅している事にさえ気が付かない。ただの悪循環だがそれすら考えると彼の心臓のバクバク音が更に増していくように感じていた。
――先ほどの怒髪天つく怒りの様相と、この可憐かつ妖艶な様相のギャップ感がたまらないな、彼女は……惚れてしまってもいいですか?
ラリーの心の中の葛藤を知ってか知らずか、まるでそんな事なんかお構いも無しで柔やかな微笑みを浮かべるサギ。そんな彼女をただじぃっと見詰めているラリーがそこにいた。それでも無情に時は流れていく。
時間の経過の表現をどう言えばいいだろう。今宵の夜は月の光が眩いばかりに降り注いでいる、そんな中を寄り添いながら歩くふたりの姿は一つの絵画のように見えたかも知れない、だから、ふたりは時間の流れなど感じる事も無くその世界に入り込んでいたと言えよう。
すれ違う人々は誰もが間違いなく振り返る。その時の視線の先には彼女が逢ったと思う、それほど彼女は壮玄な美しさを醸し出していたとラリーは思った。
――とうとう王宮前の門まで辿り着いてしまった。
ラリーの心の呟きは誰の耳にも届かない。
彼は時間の経過が恨ましいかった、門番の衛兵が此方の姿を見つけて声をかけてくる。
「失礼ですが、身分証明書をご提示頂けますか?」
衛兵の問いかけは至極丁寧であった。もちろん彼等には何のてらいも無いが、照れはある。
「サギーナ・ノーリ様とラリー・M・ウッド様ですね、確認させて頂きました。お手間を取らせて頂き済みません、どうぞお通りください」
「いえ、こちらこそお仕事ご苦労様です、では……」
衛兵の心地よい対応にお礼をしながら、二人揃って宮廷内に入っていった。
サギの宮廷宿舎とラリーの宿舎は別棟である、門を抜けて少し行くと二手に分かれる道があった、ここでふたりはお別れである。
――ここで、お別れはなんだか後ろ髪を引かれるような想いを俺の心に残しそうだな。
そんなラリーの胸中を知らずにサギが話しかけてきた。
「ラリー様、今日は本当に楽しかったですわ、もうお別れというのも寂しい限りです……。また、こんな私でも逢って頂けますか?」
「サギさん、こちらこそこんな夜更けまで貴女にお付き合いさせてしまって申し訳ありませんでした、またあなたさえ宜しければ、お誘いさせてください」
彼のその言葉に、彼女は嬉しそうに微笑みで応えてくれた。
「其れでは……、お休みなさい、ラリー様……」
「あぁ、お休みサギさん……」
別れ惜しい心を抑えてサギーナ嬢の後ろ姿を見送りながら、ぽろっと彼の心のつぶやきが素直にでて来た。
「また、会えるといいな……」
今宵の出来事はラリーとサギの心の中に、ふわりとした余韻を残した。