【85-2話:大公様失踪事件?!】
ヴァルからの話しをひととおり聞いた後、俺は腕を組みながら思案をしていた。その俺はどういう状態かって言うと部屋の中央に置かれたテーブルに向かって椅子に深く腰掛けて座っていた訳だが、そのテーブルの上にはヴァルがお行儀悪くも足を組んだ形で腰掛けてその肢体を色っぽく捻りながら俺の肩周りに顎を乗せてしなを作っていたそして俺を抱き締めるように両手を首回りに抱き付けながら寄りかかってきていたんだった、いまだにヴァルはこれ見よがしに彼女の胸元を俺に擦り寄せて誘う仕草は止めてはくれていなかった。こっちもこっちで鼻血が出ることは無くなったがそうは言ってもばくばくの心臓はその平常心拍を遙かに超えて血圧がきつくなって来ているんだが……これは一体なんの罰ゲームなんだろう?
「そうかベッレルモ公国のお家騒動の件は置いておいても、エンマの魔界の反乱に対して俺に出来る事は有るかな~ぁ」
そんなヴァルの色香の誘いにも素知らぬふりを決めながら俺は話しを続けていった。
「ほらっ、ラリーならそう言うと思ったわ、しかもベッレルモ公国の件は早々に置いて置いておくのね。姉さんも自分の身内って言うか魔界の内紛にラリーを巻き込みたくは無いからペルピナル神魔殿の事は話したくなかったのよ、だから頑なに喋るのを拒んでいたのにラリーったら其れを――って言うかあなたしか出来ない事があるのに、ラリーが出来る事って言ったら魔王を継ぐことになるわよ」
「えっ! そうなのかぁ?」
「馬鹿ね、ラリーったらそうに決まっているでしょうエンマ・イラディエル魔女王が求婚してきたのよ、その重みは魔王をラリーが継ぐことに決まっているでしょう」
「いやいや、簡単に言うけどそうと決まっているわけでは無いだろう」
「それじゃラリーはエンマとの間に魔王の次期継承者をつくるって――快楽と共に子種を与えるだけで済むと思っていたのかしら?」
「ちょっと待て! なんでエンマとその……なにする事が前提となっているのかな、ヴァルさん?」
「馬鹿ねって言うかニブチンって言うか、『覇王気』を持っているラリーはもう姉さんの掌の上で踊らされているんだからね――何があってもラリーの子を宿すことしか考えていないと思うわよ姉さんなら。よく言うじゃないの――娘が恋に落ちたかどうかって其れは相手の子を自らの体内に宿したいと思うかどうかだって、もともと『魔王族の血の掟』から雁字搦め魔女王の姉さん立場からすれば是こそ渡りに船って言うか初心貫徹っていうか初恋成就で言うこと無しじゃないのねぇ――うぅ~んとそうそうラリーならあたしとでもいいだけどね『魔王族の血の掟』からすると、じゃぁそういうことで……」
そう言いながら既に辛うじて薄手の衣としか機能をしていないその服のような物をその場でいそいそと脱ごうとしているヴァルを無理矢理制して俺は話しを続けさせようとしたが。
「ヴァル話しはまだだぞって、こらっそこで脱ぐんじゃ無いよ――見えてるって」
「あら、是はみ・せ・て・いるんだけど? 嫌かしら? ラリーは」
ヴァルはエンマ姉さんと入れ替わった時の話しの後から妙に積極性に磨きが掛かってきたようになっていたが――その時、部屋の扉をバ~ッンと蹴破るような勢いで開け放ったかと思うとサギが飛び込んできた。
「あっやっぱり、ヴァル駄目よそれ以上はね!」
サギがそう言いながらヴァルの首根っこを掴まえると俺から引き剥がしてくれた。
「あん! 折角此処まで迫って――もう少しの所だったのよサギっ! ケチっ!」
引き剥がされたヴァルは俺との間に割り込んで入ってきたサギの事を恨めしそうに睨み付けながら地団駄を踏んでいた。
「何がもう少しの所よ、まったくもうっ! ラリーもラリーだわ、鼻の下なんか伸ばしてみっともない……んって? 鼻の下は伸びてないわねって言うか、目が白目向いて泡を吹いて――えっ! 普通に伸びているじゃ無いのラリーっ! 死んじゃ嫌よ!」
俺に憤慨しようとしていたサギが俺の異変に気付いて驚きつつも慌てて回復魔術を掛け始めてくれた、やっと。
サギさん気が付くのが遅いよ、なんて言うことは無いぎりぎりで踏ん張っていた俺の平常心拍はヴァルが引き剥がされる時におもいっきりに俺の首元にヴァルがしがみついたことで簡単に崩壊していた――其れもそうだが思いっ切り二人に首を締め付けられていたんだよその時俺は……二人とも気が付いてくれなかったけど。
唐突と言うか順当にと言うか、まあ床に倒れて無様に死出の旅に行きかかっていた俺をサギが回復魔術で引き戻してくれた、それでも意識朦朧としている間にサギとヴァルとでそっと抱き上げてそのまま二人が横に並んで膝枕をしてくれた上に俺は静かに寝かされていた。
目が覚めて視界が戻ってくると俺の眼には二人が心配そうに覗き込んできているのが見えたんだ、そう二人とも泣き腫らした顔だったよ。
「『ごめんなさい、ラリー』」
二人して声を合わせて謝ってきた。そんなに謝られても単に俺がだらしないだけなのにと、こっちが恐縮してしまう、いつものことながら。
そんな無様な状態ながらもサギからの情報収集の調査結果だけはしっかりと聞くことを忘れていなかったよ、まあ二人合わせた膝枕の無類の心地よさの中に俺はいたんだったが。
サギの話しは俺の推理したことの裏打ちだった。
「私が宮廷魔術師団メンバーに聞きまくってたらいたわよ、大公様がお部屋にいる時間と思われる時に宮廷内でステファン卿と話しをしていた宮廷魔術師団メンバーがそれも二人もね、しかもその時を想い出してステファン卿に厭らしい事をされそうになったって思いっ切り憤慨していたわよ」
と、サギが露骨に敵愾心をステファン卿に表していたわ。と言うことは後はマギがもう一本の当たりの情報を持ってきてくれればビンゴだ。宮廷で二回にわたってステファン卿と思われる姿が確認出来て、しかも前者が顔を確認出来ていないとすればそっちが大公イェルハルド・リトホルム公爵様のはずだ。単純な兄弟入れ替わりの移動だ、残りの疑問は何故に大公様が自らそんな事をしたかという理由だが……それも何となく読めてきた。
其処まで考えを纏めると俺はサギ達の膝枕の心地よさに身を委ねるように眠りについていた、そう言えば俺は寝てなかったなずっと。
「あっ! ラリー? 寝ちゃったみたい――うふっ、悪戯してみようっか? ヴァル」
サギがヴァルの方を見ながら俺の事をそう伝えたのが記憶の最後だった。俺は二人に何をされるんだろう? 二人が仲良く悪巧みをしている様子を夢見枕に聞いていてそのことに不安と言うよりなんか嬉しさがこみ上げていたのは――何でだろう?
次回【85-3話:大公様失踪事件?!】を掲載いたします。