【84-6話:聖都テポルトリにて!】
俺は思わずエンマの両肩をガシッと掴んで思いっ切り叫んでしまったが、その要因が彼女の話しの『私の将来のダーリンと……』の部分だったのかステファン・リトホルム卿の名前が出てきた所だったのか自分でもわからなくなっていた。
「うふふっ! さてっとラリーがビックリしたのは何処の所かな~ぁ?」
悪戯っ子の目をしてエンマが俺の顔を覗き込んできた。まあ、其処に居るのは正確にはエンマと精神を入れ替えた双子の妹のヴァルの顔だったが――其処はさておいて。
リトホルム卿の事は捨ててはおけない情報だった事は確かだ。俺はエンマに詰め寄った。
「エンマっ! リトホルム卿の噂って何か核心は? 証拠はあるのか?」
「たく~っ! 早すぎる男は嫌われるわよって言ったでしょうさっき。その件は調査中よまだ」
おい、言葉が替わっているって言うか、そもそも完全に違う意味の方にスライドしてますって。
「じゃあまだそうだと決まったわけではないのだな――早とちりと言う事も有るって事か」
「う~ん、早とちりって事は無いとは思うんだけど、但し何処まで絡んでいるかって事がまだわからないんだな~ぁ、是が敵も然る者なかなか尻尾を掴ませてくれないのよ。まあ、人間族には尻尾の生えている人種はいないけどね」
相変わらずおちゃらける事は忘れていないわエンマの奴は、思わず感心してしまったよ。其れはさておいて、そっちの件は追加情報待ちって事かと唸っていたが――思い出した、そうじゃないぞ。
「あっ~と、もういっこ『私の将来のダーリンと……』ってな~ぁ、俺は魔王族じゃないぞ、そもそもエンマ・イラディエル魔女王と契りを結ぶ『血の資格』は無いじゃないか、良いのかそんな安請け合いをして――本当にいいのか?」
「あら、そっちの方を気にしてるの? じゃあラリーは断るわけではないのね、私の事はそんな仲では無いと……うふっ、期待してるわ『俺がお前を守ってやる』って言葉を実行してくれるはずだとね」
「ああぁぁ……それは……でもな~ぁ魔王継承の『血の資格』は譲れない掟だろうに」
「ラリーの嘘つき! 私の目は節穴じゃなくてよ、しかもヴァルと精神記憶同化したからね」
「あっ!」
「ほらっね」
俺は素直に項垂れていた。ばれていたようだった!
エンマは満面の笑みで俺に躙り寄るとその妖艶な躰をここぞとばかりに密着してきた、身体そのものは本来の主ことヴァルなんだが……今はエンマ・イラディエル魔女王としての行動だからと言えども、どっちもどっちと言えないだけ全てにおいてうり二つの双子の姉妹だった。
『えっ、ヴァル駄目よ今はもうちょっとの所なんだから待って待って! お願いだから!』
なんかエンマの様子がおかしい、もしかしてヴァルが何か言ってきたのか?
『あ~んもう、わかったわよ返すって――あっ、やっ、い~ったぁぃ』
と、ヴァルの身体を借りたエンマがその場に蹲った。
「おい、エンマっ! 大丈夫なのか? どうしたんだ一体?」
俺の傍らで身体を擦り寄せていた彼女がいきなり肩をふるわせながら蹲る姿は幼い頃を想い出させてくる。おもわず彼女の背中を擦りながら俺はしゃがんで身体を捻ると彼女の顔を覗き込むようにして呟いた。
「エマちゃん?」
すると其れに呼応するようにハッと顔を上げて彼女が俺の方をジッと見つめてきたと、いきなり俺の首回りに抱きついてきたかと思った瞬間、既に彼女のその柔らかで滑らかで肉感的な唇が俺の唇を奪っていた。俺はその動きに抗うことが出来ずにそのまま目を見開いて彼女を受け入れていた。
「ん~っ」
暫くその滑らかな触感に酔いしれていた。と、彼女が俺からゆっくりと離れ始める、次第に俺の視野に捕らえられてきた彼女のその目はトロ~ンとして何処か淫靡な雰囲気が漂っていた。
「うふ~んっ」
彼女が鼻に掛かった甘ったるい吐息を吐き始める。さてさて、彼女は今はどっちだ?
「ラリー~っ、あ・た・し・よわかる?」
「…………」
「んもうっ馬鹿っ! ラリーのイケズっ!」
「ヴァルか!」
「姉さんだけにいい所はあげないんだから――ラリーは簡単には渡さないからね」
そう言い切ったヴァルの顔つきは……まあエンマと変わらないと思うんだが、そう考えて彼女の顔にジッと見惚れているといきなりキリッとした顔つきに戻ったかと思いきや彼女が声を上げてきた。
「よ~しっ、以上!」
「えっ?」
「ううん、いいのこっちのこと。それじゃラリーやろうか?」
「へっ? 今から?」
「……大公様の事件の件でしょう、お姉さんの記憶は私も貰ったことになるのよ精神記憶同化でね、それとあっちで魔女王としてその件の報告をさっき貰ったばかりだから、新ネタよ」
「あ~ぁ、そっちね」
「……じゃぁどっちなのよ」
「……」
なんか同じ落ちを繰り返しているように感じたが――勘違いはどっちだろう?
次回【85-1話:大公様失踪事件?!】を掲載いたします。