【15話改稿:サギさんと深夜デートです!】
前回の一人称主人公表記から改稿してみたいとちょっとづつですが、弄り直し始めました。本来のシナリオは変わらない予定ですのでご容赦くださいますようお願いいたします。
ラリーとサギが這入ったお店はなかなか雰囲気のあるショットバーだった。お店の中を縦断する長いカウンターと、三人がけの足高なテーブルが五つほどある。
二人でカウンター席に陣取るとマスターらしき従業員がそっと近づいてきて会釈しながら話しかけたきた。
「当店にご来店頂き誠にありがとうございます。お二人様は初めての方ですね?」
――さっきの拳闘場の従業員とは比較にならないな、これこそ……お・も・て・な・し……っていうのか。
ラリーは心の中の中でそう思った。そんな風に関心至極でいると、マスターがラリーにオーダーを聞いてくるのに合わせて隣でサギが彼の耳元にそっと囁きを返してた。
「私はグラスワインをひとつください。赤でお願いします」
ラリーはサギに軽くうなずきを返して、マスターに向き直った。
「マスター、彼女に赤のグラスワインと自分にはエールビールをお願いします」
「畏まりました。いま直ぐにお持ちいたします」
マスターはそう言うとカウンターの奥に入っていき、間もなく俺たちの注文の品と軽いおつまみを持って来てくれた。
お店の中はラリーたち以外に数人の客が居た。カウンター席はもう一組のカップル、テーブル席には三人の男女が二組ほどお酒と談笑を肴にまどろんでいる、中央ではグランドピアノを弾く女性が一人、ワインをピアノの天板に置いて静かに響く心地良い音楽を奏でていた。
「良い雰囲気のお店ですわね……」
「……ねぇ、ラリーさん聞いてもよろしいですか?」
「っん? 何ですか?」
「ラリーさんって……けっ……結婚されているん……ですか?」
――真っ赤な顔していきなり聞くか? 君っ! とぉ、思わず突っ込みが……俺の脳内で入ってきたよ。
唐突なサギの質問にラリーは口の中で香りを楽しんでいたエールビールを思わず吹き出しそうになった、そこをなんとか堪えてしどろもどろにサギに返した。
「いやいや、まだ若干……十七歳ですし……そんな縁も無かったから……もちろん一人身ですから……っていうか、そんな事を質問されたのも初めてですよ――貴女こそ、彼氏候補が引く手あまたじゃないんですか? そんな容姿をされていたら、周りが放っておかないでしょ!」
――おいおい、俺がこんな事をいきなり言うか? 俺も酔ってきているのかな! 拙い……マガモタナイゾ!サギさん行き成りデートのハードル上げてませんか?
そんなラリーの胸中を知ってか知らずかサギが話しを続ける。
「残念ながら、こっちの宮廷魔術師団はみんな女性ばかりなんですよ、男性と知り合いになれるのは、宮廷近衛騎士団のイカルガさんの知り合いばかりで、既に皆さん既婚者ですしね~っ」
――あっ……そうなんだ! サギさん非リア充なんですか? ……絶対違うと思いますよ! っと突っ込んでもいいかな!
隣り合って座るカウンター席であったことをラリーは少し後悔していた、会話の間のサギの表情が気になりだしてきたからだ、そんな彼の思いを知らずかカウンター席であることを良いことにサギがマスター直接オーダーを頼みかける。
「マスター香りの良いワインですね、美味しくて止まらなくなりますね。すみません、ワインお替わり良いですか?」
「サギさん、見た目に解らないけど酒豪なんですね……!」
「やだ~っ! そんなにお酒に強くないです…ぷぅっ…ワインは好きですけど……」
ラリーのからかい言葉遊びに軽く膨れっ面をしながらも、嬉しそうにマスターの持ってきたお替わりのワインに彼女は口をつけた……彼女の喉をワインが通るたびに微かに震えるその喉元にラリーは自分の目線が引きつけられていくのを抑えられなかった。
――膨れっ面もマジ、犯則的に可愛いわ! 本当に。
そんなたわいも無い会話をふたりしてワイワイ騒ぎながら、おとなの雰囲気に呑まれ今宵の時間が過ぎていった。
――なんだかんだで酔いも深くナッテキタゾっと! そろそろ、明日も早いしお開きにして帰らねば……ねっ、サギさん!
ラリーは時間に気付くとそれとなく促すように話しをサギに振った。
「……サギさん、そろそろ帰りますか? 夜も更けてきましたし……」
「……んっ、もうそんな時間ですか……はぁっっ!」
――あれ、サギさんなんか寂しそうですね。あっと、そう言えばサギさんはニネット爺さんの話しを聞きたいって言ってましたね? 全然、話題に上がって来なかったが……良かったのかな? これで?
サギが帰り支度をしている間にラリーはお店の支払いを済ませた。
「彼女も素敵な方ですね、貴方様も紳士的でお似合いのお二人ですね、また宜しければ当店へいらしてくださいませ」
帰り際にマスターから何気に言われた一言でふたりの顔が一気に沸点に達した様に真っ赤になっていた。
――おいおぃ、マスター! それは何気に俺をディスっている? 俺、彼女につり合わないでしょ、どう見たってね。
そんなラリーの胸中はさて置いて、なかなか洒落たお店だった。そんな店を後にして二人で帰路につく。もう、宵の口で月は天辺まで登っている時間だった。
「さあ、サギさん帰りましょうか!」
「………!」
――あれ、サギさんさっきまでの勢いはドコニオイテキタノデスカ? って状態になっているぞ、なんか俺、怒らしたかな? ちょっと心配になってくるだけど。
ふたり揃って月が照らす夜道を並んで歩いて帰る。『月が綺麗ですね』などとラリーは話題を探していたがこの世界でこの意味を暗喩する思考はまだ無いのだろう。ラリーの隣を一緒に歩きながらサギは何故か俯き加減でブツブツと何かを呟いている。ふっとサギはさり気なくラリーの左腕を取って組んできながら、もたれ掛かってきた。
――えっ!
一気に顔が真っ赤に染まったラリーのことを彼女は視界に入れないようにして話しかけてきた。
「宮廷に着くまで、こうしていて良いですか、ラリーさん」
――えっ、えっ! まさかの展開にドギマギしてます。サギさん何の罰ゲームですか……コレハ……! 嬉し恥ずかしです。
相変わらずラリーの脳内会議は騒がしかった。そんなふたりの間を宵闇の気怠げな風が緩やかに吹き抜けていった、周りの行き交う人は少なからずラリーを見てクスクス笑って通り過ぎていく様だったが。
――くそっ! こんな美女とは釣り合わないって言うんだろう、全く俺の方がどうしてこうなったか聞きたいくらいだよ、嬉しいけど……!
ラリーの表情はとても緊張しているように見れてそれが初心っぽく、はたから見ても微笑ましかった、なので通りすがりの人が綻ぶ顔で眺め入るのは、そんな彼を微笑ましく思ったからだったが彼はただ勘違いしていたようだ。
――ドラゴン相手の戦い方が緊張しないな……たぶん俺!
ラリーの思考は余りに冒険者よりに染まっていたと思う、経験不足は全ての要素に当てはまるのだった。初めての出会い、そして二人揃っての帰り道、そんな若いふたりやはり月は優しくそっと照らしていた。