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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
168/187

【84-4話:聖都テポルトリにて!】

 ヴァルの身体全体が『覇王気』の輝きに包まれていた。その輝きの中で泰然とたたづんでいたヴァルが暫くするとゆっくりと此方を向いた。その顔形かおかたちはヴァルで有りながらも彼女を纏う雰囲気が大きく変わっているのが感じ取れる。まあ、強いて言うなら魔女王の風格であった。

「……おい、エンマなのか?」

 俺は単刀直入にそう訊ねてみる。

「ラリー? あなたなのね私を呼んだのは――そうよ私よエンマよ。ヴァルとは身体はそのままで精神部分だけ入れ替わったわ。あっ、そうそう先に言っておかなければ。このままラリー、あなたがヴァルを抱いたとしても其れはわたし、そうエンマとしての経験になるからね――んっ? このまま……する?」

 そう喋りながら彼女は俺の傍に躙り寄ってきた。彼女をヴァルと呼ぶべきか、それともエンマと呼ぶべきかと変なところで俺は悩んでいたが、ひとまずツッコミどころ満載のエンマの誘いに返答をしておくべきと口を開いた。

「おい! エンマよ、お前の最愛の妹の身体で遊ぶなよ」

「てへっ! やっぱり駄目かっ、ちぇっ! ラリーのケチ! でもね、ラリーのことはヴァルも少なからずいいなって思っているんだから――彼女の願いも這入っているわけだわ、だから二人分の想いを受け止めると思って……いいでしょうそれなら」

 艶っぽく上目遣いで俺の事を見つめながらそんな事を告げてくる。その仕草と彼女の胸の麓の眩い白さに顔を赤らめながら俺は目を逸らしていた。

「まったく、何を考えているんだか? ヴァルがどう思っているかってエンマが代弁をしても信用が無いだろう」

「あら、其れは酷い言いぐさね――ラリー! じゃあ、此処でヴァルにまた替わって貰うから」

 おいおい、そんな簡単に人格と言うか精神部分を交互に入れ替えばっかりして大丈夫なのか?

「エンマさん、ちょっと待って下さい。其れより大事な事を聞いておきたいんだから」

「……ラリーとわたしとの夫婦祝言めおとしゅうげんより大事な事なんか無いわよ」

 ぷりぷりとしながらエンマが膨れっ面をしている。まあ、そんな表情も割と可愛いと思ってしまう俺も大概だが……。

「あのさ~ぁ、俺なんかよりもっと魔女王に似合いの相手が、魔界にワンサカいるだろうに?」

「馬鹿言ってんじゃ無いわよ――魔界にラリーよりもいい男なんか居ないわよ、それは魔女王の私が保証するわ」

 そう言いながら扇情的な曲線のくびれに両手を添えて其の凶暴に突き出した豊かな胸元を更に誇示するように胸をバンと張って言い切っていた。何故、其処までヨイショされるのかと俺もいぶかしんではいるものの、彼女が其処まで言ってくれるならと自分に少しは自信を持っていこうと……本当にそれで良いのか? 俺っん。

「そこまで俺をかってくれるのは有り難いが――ところでベッレルモ公国の大公様であるイェルハルド・リトホルム公爵様が行方不明になっていることは知ってるだろう?」

「あぁ、そのことね――其れについては私も部下に指示を出しているわ」

「指示っ?」

 エンマ魔女王の指示って言う事は――どっちだ?

「あら、勘違いしてるでしょう! ラリーったら。馬鹿ね、行方不明の原因では無いわよ私の指示は!」

「――ふ~っう、一瞬ドキッとしたよ。言葉は丁寧に使おうよエンマさん」

「だって私とラリーとの仲でしょう。あうんの呼吸って言うのでいいかな~って……」

「仲って言ったって――たかだか、ここんところ三回目だろう長い間会ってなかったんだから」

「魔族的に言ったら数百年の寿命のたった十数年なんて短い短い――今までがラリーとの遠距離恋愛のひとつと思っていたわよ……私はね」

 エンマはそんな事をさらりと告げてくるが、何処までが本気なのか掴み所がまったくわからなかった。まあ、彼女なりの捻ったというかひねた表現とでも言うべきか。

 そうした会話の中で心なしかエンマ・イラディエル魔女王がイェルハルド・リトホルム公爵の話題を避けている気がしてきた。もしかしてこの件の指示って言う事と関係があるのだろうか?

「なんかエンマよ、隠してないか? 公爵様の件で――話しを逸らしているだろう」

「……な、なな……なによ、わ、わてがなんか――したとでも? い、言うのかしら」

 『わて?』なんだそれ、しかも思いっ切り噛みまくっているし――バレバレだろうもう、それでよくもま~ぁ、魔界の女王なんかでまとめ役をやっているわ――は~ぁ。俺は思いっ切り嘆息を付いていた。

「な、なによ。溜息なんか付いて――な、何か文句でもあるの? 気になることがあるんだったら言いなさいよ」

 取り敢えずエンマが何かを知っていることは確定したと――俺は判断した。

「――エマちゃんっ!」

「あっ! はい弱虫ラーちゃん!」

「うっ! こらっ! 弱虫言うな!」

 その言葉はもう昔のことだ――今更、エンマにとて言われたくは無い。まあ、ある領域では確かに未だ弱虫というか晩熟おくてというか……ニブチンらしいが。

「で、エマちゃん――話しをしてくれるよね、俺には!」

「……」

「エマっ!」

「は、はいっ!」

 彼女はもぞもぞとした言葉から次第に覚悟を決めて――少しづつ核心の情報を語り始めた。

次回【84-5話:聖都テポルトリにて!】を掲載いたします。

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