【83-11話:聖都テポルトリからの使者!】
強引に話しを進められてしまったきらいはあるが、其処はその場になって野となれ山となれだ。なんとかサギ達の事も含めて帰還後のテポルトリでの身の振り方を考えて於く必要があるな、それも大公様との話の流れで変わるだろうし、いざとなったら尻尾を巻いて逃げるか……。
「あっ、いま逃げるかって考えたでしょう」
「……うっ!」
ヴァルに図星をつかれて返答に詰まる。なんでわかったんだ? 顔に出たのか?
「ほらっ、ラリーって隠し事出来ないたちでしょう、其処が良いんだけどね。逃げられはしないからね――あたしとエンマ姉からは」
「まあ、多分そうだろうね――でも、後の三人からも俺は逃げられはしないと思っているから」
「そうよね~ぇ、ハーレム王子!」
「こらっ、ヴァルまで――ハーレム王子って言うな!」
俺はブスッとした顔つきでヴァルに向かって文句をたれた、そんな俺をクスクスと笑いながらかまうこと無く彼女が話しを続ける。
「でも、逃げるって言う言い方は強ち間違ってもいないかな。大公側の話しによってはその場でラリーは、あたしことエンマ・イラディエル魔女王から逃げる為にも冒険者としてベッレルモ公国から離れる形を取るのもひとつの選択肢ではあるわよね」
「そ、そうなんだ、そう思って逃げるかって……」
「ふ~ん、そういうことにして於いてあげるわ――今はね」
やはりヴァルにも……隠し事は出来そうも無いことがわかった。
取り敢えずヴァルとの話し合いで彼女には人型のままテポルトリに戻って、それから大公様との謁見に備えるという方針で決まった。でもまあ、そのままの姿ではエンマと間違われるから(其れが最終的な狙いだが奥の手を最初から晒すわけにはいかないからな)フードの深いマントを羽織って人目に付かないようにして宮廷まで入っていく方法で妥協して貰った。何故妥協と言ったかというと――ヴァルめ、メイド服で入城するってきかないんだよ、まったく!
「なんで、メイド服では駄目なんですか? ラリーっ!」
「メイド服の次は、誰のメイドって言うんだ。俺のメイドですっ言うんだろう」
「あら、わかったの?」
「……(他にいないじゃ無いか。俺だけだぞ男は)」
ジッと目でヴァルの事を睨み付けると慌てたように追加案を切り出した。
「じゃぁ、メイド服の上にその深差しフードのマントを羽織るから良いでしょう」
「……それじゃ変わんないだろうに。(どうしてもって言うんなら、イカルガ伯爵のメイドって言う事にでもしておくか)好きにしろ! もう!」
こんな会話がその後、続いたと言うことはサギ達には内緒の話となったのは言うまでも無い。
ヴァルとの話がちょうど終わった所にリアーナお嬢様とウギが部屋に戻ってきた。
「ラリー、送別の宴は明日の夕刻に決まったぞのぅ。妾達も明日に備えねば」
ウギが得意げに告げてくる。しかし、備えるって何をだ? それとマギとメイラーさんは?
「マギは警邏隊のメンバーと出し物の打ち合わせと言っておったぞ、ラリーには内緒ってのぅ――其れで妾も何だかやらされるらしいのだが、細かいことはきかせてもろうておらんのだぞ、まったく」
そんな風に明かしては既に秘密を半分暴露している様なもんだと思うんだがなぁ、ウギさんよぅ。
「んっ、何か言うたのかのぅ?」
「いや、何でも無いです」
しかし、明日に聖都からの正規の使者が到着したとしても、ヴィエンヌを出立するのは明後日は厳しいかもな、明明後日かな早くても。
ひとりそう思っていると横から脇腹を突いてくる人がいた、リアーナお嬢様であった。
「明日に送別の儀を行ったとしても、そんなに急いで出立しなくても宜しいのですからね、ラリー様」
そう言うことをさり気なく仰っりながら頬を朱に染めて俯いていた。
「あっ、お気遣いありがとうございます、お嬢様」
「……お嬢様扱いは――最後ぐらい抜いて貰いたいですね。そうですわ、是からはリアーナと呼び捨てにして頂けませんか」
「いやいや、そう言うわけにはいきませんから、お嬢様」
「ほらっ、またですわ。リアーナよ! はい、リピート・アフターミー。いいですか」
お嬢様は何かのスイッチが入ったように生き生きとした顔つきで俺にそう告げてくる。
「それは……」
「はい、おっしゃって! ラリーっ!」
「……り、リアーナ――(さま)」
「――まあ、今日のところは良しとしましょう」
どんな責め苦なんだか――貴族のお嬢様を呼び捨てなんぞ、俺にはお仕置きとしか思えないわ。
次回【83-12話:聖都テポルトリからの使者!】を掲載いたします。