【14話改稿:サギさんの真紅の魔術闘気はやはり本物でした!】
前回の一人称主人公表記から改稿してみたいとちょっとづつですが、弄り直し始めました。本来のシナリオは変わらない予定ですのでご容赦くださいますようお願いいたします。
ラリー達が拳闘場の店から少し離れた小道を進んでいると脇道から黒い影がぬっ~と出てきた。
――やっぱり、さっきから付け狙っていたのは知ってるよ、レストランでも、此方の様子をずっと伺っていたようだからね、もうっ、ほんと三流映画のワンシーンじゃないか、これじゃ!
彼は頭の中でそんな事を思っていた。
「おい、くそガキがいっちょ前に背伸びしたことしてるんじゃねーっよ! さっきはよくもしてやってくれたな! えっ、おいっコラッ! 女の護衛なんぞ十年早いぜ。そこの、ねーちゃんもそんなガキを相手にしないでこっちで俺らと遊ばないかいっ! えっ、どうだ!」
――また、出たよ海坊主! しつこい奴だな、さっきのイカルガ伯爵の件で懲りないかなぁ~っ、まったく。今度はどうしようかな、やっぱりめんどくさいな~ぁ! 彼女もいるし逃げにくいしなぁ! って思案をしているとなんか勘違いしてきてるぞ、海坊主! 仲間を連れてきたみたいだし五人か……。
ひとまず周囲の様子を確認して敵の勢力を分析、自らの状況把握もラリーは忘れなかった。
「……んっ、悲鳴も出ないか、えっ―くそガキ! もう聖騎士は助けにこないぜっ! そこの女だけ置いて逃げてもいいんだぜ……!」
「兄貴よ、連れの女はこれまた上玉でないですか~っ! いいすねっ! 早く、そのガキをのしてくだぁさいよ! そしたら、あの女をみんなで……!」
「おう! そのつもりだ、おい野郎ども奴をのして終わったら女はそっちに渡すから……やっちまえっ!!」
「いいすね!」
「ぐっ、よだれがでてくるすっよ、兄貴!」
――ああっ、此奴らも糞野郎だな、容赦はいらないな。
糞野郎共の悪役認定は完了、ラリーはサギを庇うように一歩前に足を踏み出して気が付いた、左手側に物凄い殺気が孕んでくるのを。その殺気に思わず身を捩る。そこには真紅の魔力闘気のオーラを発しているサギーナ嬢が鬼夜叉のごとく立っていた。
「あなた方、私の折角の□□□をよくもよくも邪魔をしてくださいましたね! 許さないわよ、覚悟しなさい!」
――あらあら、これは流石に糞野郎共がやばいかも知れない……、光り輝く金髪が怒髪天ついてるよ! 碧眼まで怒りモードで真紅になってきたぞ!(青から赤って、わかりやすいなこれは……)しかし、彼女の魔術闘気はやっぱり凄いな! しかも鮮やかで綺麗な色だ。ちょっと面白いかも……って、折角って……さっき、何言ってた? 彼女は?
「烈風の真魔よ、風と共に吹き抜けよ……!」
サギの魔術詠唱とともに、周りの空気が一気に塊となって海坊主達に襲いかかった……烈風魔術! 瞬殺であった……。
さっきまでそこにいたであろう人の姿は既にどこにも無かった。何処か遠くで海坊主達の悲鳴が木霊してくるのがかすかに聞こえた……!
――もう、終わり? えっ! これでCランクで・す・か? ほんとうに?
ラリーはイカルガ伯爵の依頼の意図が読み取れなくなって、彼女に対する護衛不要論を伯爵に今度会ったら進言してみようと真剣に思っていた。しかし三流映画の悪役の如く、疾風の様に去って行った彼らの事は無かった事としてとっとと忘れることにかぎる、さすがに暴漢連中を一人で瞬殺って強すぎるし忘れた方が彼女の名誉の為にもなると真剣に思い込んでいた。
サギはラリーの左側を軽やかにスキップしながら、すっと二歩・三歩前に出てフワリと振り返った。と、その動きにつられて薄手の生地のフレアーのロングローブは、ふわっと彼女の足下で緩やかに揺れていた。そんな可憐な雰囲気を纏って彼女は優しくラリーに話しかけてきた。
「あの~っ! ラリーさん……なんか、気分直しがしたくなりません? よかったら、もう一軒、軽くお付き合いして頂けませんか?」
「今宵、夜風も気持ちよくって……このままの気分で帰るのもなにかなって……思うんです。折角、お近づきになれたのだから、英雄ニネット候様の話しでも少し聞かせて頂けると、うれしいな~ぁって。……ご迷惑……でしょうか?」
軽く手を後ろに組み小首を傾げながらラリーにそう問いかける。彼女の碧眼の瞳が月に照らされて、薄青白くやけに艶っぽく映り込んで見えた。そんな眼で魅入られてラリーは赤べこ人形の如くただただ首を縦に振るしかなかった。
「そうですね……まだ早いし、口直しに其処らのお店で軽く飲み直しますか、貴女の真紅の魔術闘気も拝見出来たので、奢りますよ」
「……やった! うれしい! じゃ…早速行きましょうよ!」
サギさんはそう言うが早いか、さっと素早くラリーの左腕を取って組んできた。
――うっ! サギさんそれは……胸とかが微妙に俺の腕に当たってます……拙くないですか……俺のほうは凄くさわり心地がいいんで……だけどやっぱり……言った方がいいのかな?
そんな脳内会議が彼の頭の中を駆け巡っていた。
「ラリーさん、なんか顔が赤いんですけど、如何しました?」
――って、おいっ! 俺を見る目がなんか小悪魔ぽいのは気のせいかな?
サギの微笑みがラリーの心を開いてくる。そうとは言えども心ここにあらずで恥ずかしがっているわけにはいかなかった。ラリーは意を決して告げたが。
「サギさん、む・む・胸があたっているん……ですけど……」
「……ラリーさん、これはあ・て・て・い・る・んです!」
――んっ! 何、さらっと言いのけているのですかサギさん、これは俺への好意と受け取って良いのか? この手の出来事は俺は、まあ、あまり経験がないので……。
彼女の方が二枚も三枚も上手のようだった。
「そんな事より、早く……早く!」
「ハイハイ、解りました!」
「ハイは一度で良いです!」
――貴女は私のお母さんか! まあ俺には母の記憶は無いのだが……。
ラリーとサギはそんな夫婦漫才みたいな会話を楽しく交わしながら、ふたり寄り添うように街角の一軒のバーに吸い込まれて行った。そんなふたりの事を今宵の月だけはそっと優しく照らしていた、しかもいつもにましてまん丸い月の表面がほんのり赤く染まって見えたのも気のせいでは無いと思うのだった。