【83-10話:聖都テポルトリからの使者!】
「まずは聖都テポルトリに戻ってすぐの事から考えようか」
ヴァルには時程に会わせて最初から順序立てたシナリオ立案の提案をした。皆で戻る形になるがヴァルの事はもともとウギの使役している大狼ガルムとしてしか情報を渡していないから其処をどう変えることが出来るかが問題となる。
「あたしはまたガルムに姿を変えることは出来そうよ」
「本当か? でも、そうしたらまた人型になるのは出来るのか?」
「ううん、其れはわからないわ。多分出来るとは思うけどあたしひとりでって言うのはどうかしら?」
テーブルに両肘を付けたまま両の掌で頬杖を付いた格好で俺の方を横目で見ながらヴァルが喋り掛けてくる。先程の景色が蘇るように鎖骨の遙か下の方の白き胸の稜線を際立たせるような姿勢に目が釘付けになっておもわずゴクリと喉が鳴った。
「あっ、見たな~ぁ」
その問いに答えず瞬間、胸の麓の眩さから目を逸らした。
「ね~ぇ、ラリーから見てあたしって艶っぽい?」
自信なさそうにちょっと俯き加減でそう呟いてくるヴァルに、俺は言葉を発すること無く思いっ切りカクカクと首を大仰に縦に数回振って応えた。
「そう~っ、じゃあ許してあ・げ・る」
ニコニコと微笑みを取り戻してヴァルがはにかむように呟いた。そんな仕草に益々照れて俺は顔を赤らめながら下を向いてしまった。
「サギの気持ちが解ってきたわ、ラリーとこうしていると其れだけでも本当に楽しいのね」
此方の照れ具合を嬉しそうに見つめながらヴァルがそう言って、軽く開けた口の中からちょっとだけ舌を出して色っぽく自分の唇を濡らしてくる。俺は下を向きながらもその艶々した唇をちらちらと盗み見していた。
「う~んも~う、あたし我慢出来ないっ!」
そう叫ぶやいなやヴァルがさっと身を乗り出して両手で俺の顔を押さえつけると、その艶やかな唇を俺の唇に押しつけてきた。
「ん~っ」
俺は瞬時のことに目を見張ったまま固まっていたが重なり合った唇のヴァル口元から桃色の吐息が漏れたように見えた。唇が重なり合った時間はほんの一瞬だったがお互いの唇が離れたあと短い溜息と共にヴァルが呟いた。
「……しちゃった」
俺以上の照れ具合で耳まで真っ赤にしたヴァルは両手で頭を覆いながらテーブルの上に突っ伏した。その上気した顔から湯気が立ち上るようにすら見えて俺もドギマギした自分の心臓押さえながらその場に固まったままだった。
しかし俺達何やっているんだろうな、ふっとそんな思いが頭をよぎった。予想外に照れまくっているヴァルを見ていると俺の方は自然に何故だか冷静さを取り戻してきていた。まあ、少しだけだが。
突っ伏したまま目線だけ上目使いに俺を見ていたヴァルだったが何の拍子かガバッと起き上がると自分に気合いを入れるように叫び声を上げた。
「よ~しっ、以上!」
「えっ?」
「ううん、いいのこっちのこと。それじゃラリーやろうか?」
「へっ? 今から?」
「……大公との謁見のことでしょう」
「あ~ぁ、そっちね」
「……じゃぁどっちなのよ」
「……」
俺の勘違いがどっちのことと思われたのか――多分、ヴァルの想像は合っていたと思う。ちょっと冷や汗を掻きながら目を逸らした俺を見るヴァルの半眼のジッと目が少し怖かった。俺も一体何を期待していたんだろう。
「あたしは此の姿でそのまま一緒にテポルトリに入りたいけど、いい?」
「そうだな、ガルムの姿に戻る事が必要かって言うとそうでもないし、でもそのままの姿って言う事は宮廷の衛兵等はエンマが来たと思うだろう、其処はどうするかだな」
大狼ガルムを使役していると言うウギの情報は先に、聖都に入る為にガルムは野に戻してあるとでも言っておけば良いだろう、まあその弊害はウギに寄り付く虫が増えることだが其れは其れで彼女が何とかするだろうし。
「でも、目立つ格好のままでは宮廷が混乱するだけだろう。変装でもするのか?」
「そうね、メイラーさんにメイド服を借りてラリーの専属メイドですって言うわ」
「おい、其れは――そ、その後はどうするつもりだ?」
「だって、あたしだけはテポルトリの宮廷魔術師団への所属は無いんだし、どうせ帰還した当日には大公に速攻でお目通りでしょう。だったら、その場でメイド服を脱ぎ捨ててエンマになりきるわよ」
「……で、やっぱりその後は?」
「そ、それはエンマとして……ラリーの傍に居るわよ、嫌なの?」
「えっ、嫌って言うわけでは無いがそれじゃ――何にも変わっていないような?」
何か騙されてたみたいだが、不思議とストンと俺の中では嵌まったようで首を傾げながらも半分納得し掛かっていた。
「えへへっ、じゃぁそう言うことで良いわね」
ヴァルのこの宣言は後で大きな難題を俺に突きつけることになるのだが、さすがにこの時は俺も其処まで気が回らなかった。
次回【83-11話:聖都テポルトリからの使者!】を掲載いたします。




