【82-14話:聖都テポルトリへの帰還!】
ヴァルの間合いに合いの手を入れるように俺は走りを止めてその場で軽く体操を始めた。そんな俺をじっと見つめながらヴァルが言葉を選んでいるのが感覚でわかる。
“ヴァルが俺と出会った時のことを覚えているよ――あの時『何か魔界から大切な使命を貰って来てるだろう?』って聞いたのを覚えているかい、其れがエンマから委ねられた魔界から出てきた理由なんだろう”
ヴァルが言葉を発する前に俺の方から答えを導いてみた。
“其れにはノーコメントでいいかしら”
“まあ、そうだよな――本当に知りたいのは別のことだからこっちはいいよ”
“――別の事って?”
大狼ガルムのヴァルから表情を読み取ることが出来る輩がいたらお目に掛かりたい、だが感覚で今のヴァルは相当な緊張感を持っていることが解る。
俺の知りたいこととは単にエンマ・イラディエルその人が現れた事とヴァルの居ることとの因果関係とあの時に何故俺の『覇王気』纏の事実を目にしたことがあるにもかかわらず、そのことをエンマに言わなかったのかと言うことだ。特に後者の件は知っておきたかった。
“なぜ、『覇王気』の事をエンマに言わなかった? ヴァルは俺のオーラが変わった事を一度見たことがあるはずなのにだ”
“――其れについてはもしかしたら密かにエンマに伝えていたかも知れないわよ、エンマが私に抱きついていたし、機会は有ったのよ”
“其れについては無かったと俺は思っている――そう言うことが伝わった瞬間のエンマの変化は予想が付く”
“そう、じゃいいわ――伝えなかった理由? 単に気の迷いかしら?”
“おいっ!”
“私にも解らないのよ、ただあの時そう言う気持ちにならなかったって言うことだわ。皆でラリー――あなたをエンマに取られたくないって思っていたし、その気持ちは……その時私もそう思っていたのね、何故か”
そんな話しをヴァルがしてくる、その続きを俺は待った。
“ラリーっ――あなたとこうして話しをするのは久しぶりかしら、私にも感情ってものがあるしエンマのことは今も好きだけど、其れと同じようにウギのことも好きなのは確かよ。ラリーのことは結局どちらが幸でどちらが不幸かって言う事になるのだけは嫌だと言う事ね。だから今は言わないと決めたのね、多分”
そう言うことなら俺も何となく理解出来た。ただ、単に今がまだその潮時では無いと言うことらしい。後はエンマとの繋がりだが……。
“わかった――理由はどうあれヴァルには借りが出来たのは確かだし、この場で礼を言わせてくれ。ありがとう”
“礼には及ばないわよ――て言っても無駄ね。其れとエンマが私の前に現れた事を気にしていると思うけど其れも偶然よ、たまたまって言うやつね信じにくいかもしれないけど、エンマからしたらビックリだったはずよあの時私がその場に居たのは”
ヴァルは俺の疑念を先回りしてそんな風に解をくれた。其れを信じるかどうかは俺次第らしい。
ヴァルの話しを聞き終えて俺は天を見上げた。雲ひとつ無い青空がその視界に拡がっていた、実に気持ちの良い抜けるような青空だった。そんな俺の仕草を真似てヴァルも空を見上げていた。
“ところでラリーそろそろ戻る? あんまり遅いと姫子達が心配するわよ、エンマにさらわれたってね”
ヴァルの意見を聞いて、早々に戻ることにして俺達は城の中へと入っていった。と、そんな俺達を探していたのかメイラーさんが息を切らせながら走ってきた。
「ラリー様、此方でしたか。お部屋に伺ったらお城の外に出て行かれたとの事で探しました」
「メイラーさん、如何為されました?」
息せき切って俺に話しをしてきたメイラーさんに急いで俺を探していた理由を訊ねた。
「あっ、そうでした。聖都テポルトリからの使者の方がお着きです、後でリアーナお嬢様のお部屋にご足労頂けますか」
「えっ、もうですか。お話では数日後と言う事でしたが……解りました、部屋に戻って皆を連れて伺うこととします」
そう話しを受けると、メイラーさんはそそくさとその場を後にして戻っていた。
「さてと、皆に伝えてくるか」
そう切り替えしてヴァルと共に部屋に戻っていった。
部屋に戻ると三人娘達はメイラーさんの訪問を先に受けていたので話しは聞いていたようだった。
「ラリーっ! 遅かったわ~ねぇ、メイラーさんに会えた?」
俺が部屋に這入るや否やサギが食いつくように寄ってきてそう言う風に聞いてきた。
「あぁ、さっきお城の入り口で会ったよ、使者がもう来たって言ってたね」
「そうなのよ、思惑より早かったわ。で、今から会いに行くの?」
「うん、皆をつれて伺うって応えておいたから――仕度はもう良いのか?」
そう言うとサギのほかウギ、マギの方を向いて聞いてみた。彼女等は頷いて俺に答えてきた。
じゃあ、行こうか。そう言うと俺は皆を引き連れて部屋を後にしてリアーナお嬢様の部屋を目指して歩き始めた。サギを先頭に俺の後に皆が揃ってついてくる。
サギが俺の横に並んで俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。
「ラリー、ねえ――勿論テポルトリには戻るんでしょ?」
「帰ってこいとの要請なら従うしか無いだろう――其れよりもその理由だな問題は」
「そうね、その部分が大切な事だわ」
そう言いながら俺もサギも緊張してきていた。そうしてリアーナお嬢様の部屋の前についてその扉をノックした。
「ラリーです、お嬢様」
扉の前で部屋の中に向かって声を掛ける。間もなく扉が開いて中からメイラーさんが顔を覗かせてきた。
「お待ちしておりましたラリー様、さっ――どうぞ中へ」
メイラーさんの案内で俺達は部屋の中に導かれていった。
次回【83-1話:聖都テポルトリからの使者!】を掲載いたします。